第25話
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「君の仕事も完了した訳だし、私は力を取り戻すアイテムを撮りに行きたいのだが…」
次の朝、私はディロピートに言ってみた。
「…そ、そうか」
ディロピートはちょっと驚いたようだったが、
「まあ、当然だよな。失った力を取り戻せるとなれば。むしろ私の依頼を優先してくれて感謝する」
「いや、依頼を優先するのは何でも屋として当たり前のことだ」
私は言った。
「だが、君達は私達をここに置いておきたいようだな、なぜだ?」
「…それは、私の任務を手伝ってくれた、いわば恩人だからな。もてなすのが礼儀だろう」
ディロピートは答える。
自然な受け答えだったが、どこか引っかかる物言いだ。
「もてなしてもらえるのはありがたいが、私にはやることがある」
「……ラグナス殿の邪魔をする気はない」
ディロピートはぽつりと言った。
*
ディロピートの父は、エルドリッジと言った。
叔父達は、ジョッシュ、デヤス、ランカスタと言う。
4人のダークエルフは書斎に集まっていた。
「どうやら目的は達成されたようだ」
エルドリッジがテーブルに両肘を着いて言った。
両の拳を額へ押しつけている。
「ディロピートはうまくやってくれた」
「うむ、よくやってくれた」
ジョッシュ、デヤスがうなずく。
「しかし、この先はどうする?」
ランカスタが聞いた。
先を考えているのかという問いかけだ。
数秒の間。
「今のところ下手に動くのはマズい」
エルドリッジは答えた。
わずかに目を伏せている。
「焦らず様子を見るべきか…」
ジョッシュがつぶやく。
「そうだな」
デヤスが同調した。
「しかし、手を組めそうな勢力があれば接触を試みるべきではないか?」
ランカスタが意見する。
再び、数秒の間。
「うむ、現状に不満を持つ種族は多いからな」
ジョッシュが言った。
デヤス、ランカスタの目が宙を泳ぐ。
「確かに」
「前の魔王の方がナンボかマシだったのはホントだ」
2人は認めた。
日頃から不満を覚えている、蓄積した不満のやり場がなく、ちょっとしたことで噴出しそうになっている。
そんな感じだ。
「シッ!…誰かに聞かれたら事だぞ」
エルドリッジが咎めるように言った。
渋い顔をしている。
「誰が聞いてるというのだ」
「ここは我らのテリトリーだ」
「我らの領地に入り込める間者はおらん」
ジョッシュ、デヤス、ランカスタは不適な顔。
彼らは皆、今後、起こるであろう事を覚悟している。
このままゆけばジリ貧、摩擦が続き、一族はいずれ何かしらの罪を着せられて粛正されるだろう。
だから、今のうちに。
「うむ」
エルドリッジは、弟達の決意を見て取ったようだった。
うなずいて、
「生き残るのは我らだ」
言った。
*
「ラグナス殿、旅に出るのなら私も仲間に入れてほしい」
ディロピートは主張した。
「どうする?」
「構わん、というか、なぁ?」
「うん、ディロピートはもう仲間だろ」
マジニーとサバーシはお気楽な事を言っている。
…いや、断れよ。
私は内心、歯ぎしりしたが、リーダーと古株がそういうのであれば反対はできない。
「しばらくはここを拠点として動けばいいじゃないか」
マジニーは、さらっと言った。
魔族だけあって、魔王軍が支配する土地に違和感を感じないのかもしれない。
「おまえらがそう言うのなら」
私は渋々承知する。
なんだかんだと言って引き留められ、また今日も逗留する事になった。
マグナスは、魔力を取り戻すアイテムはボグダの街のすぐ近くの古い神殿にあると言っていた。
なので、またボグダまで戻ってしまう事になる。
「別にボグダへ行く必要はないのでは?」
リチャードが言った。
「うわ、お前、いたの?」
「いましたよ!影薄かったですけど!」
リチャードは妙な怒り方をする。
「すまん、すまん、なんかダークエルフとの応対で忙しかったからな」
「ダークエルフには気をつけないといけませんからね」
「うん、それはまあいい」
私はうなずいて、
「ボーソン家はそれなりに信用できる、ただ何か企んでいるような気はするがな」
「はあ、そうですか」
「なるようにしかならんけどな」
私は言って、ベッドに横たわった。
リチャードはベッドの傍らにある椅子に腰掛ける。
そのまま、私は寝てしまった。
そしてついに出発。
ディロピートは着いてきた。
なんだかんだ言って、既に私達に溶け込んでしまっている。
いるのが当然、という感じだ。
「私もパーティーの一員という訳だな」
ディロピートは喜んでいる。
「魔族のパーティーへようこそ」
マジニーが珍しく冗談めいた事を言った。
来た道を戻り、再びボグダの街へ入る。
一応、ライネ達の所へ顔を出し、挨拶する。
「なんや、もう戻ってきたんかいな」
「うむ、ちょっと用事ができてな」
私が言うと、
「よし、旅支度はまかしとき」
ライネはドンと胸を叩いた。
「いや、そこまで世話になる訳には…」
「ラグやんには世話になってるさかい、こんくらいさせてくれたってえーやん」
「う、うん、ああ、そうか、じゃあ頼む」
私はライネ達の勢いに負けて、うなずいてしまった。
「武器、防具、道具、どれでも好きなの選んだってや!」
ライネのコネを総動員してきたらしい。
良質の武器や防具が持ち込まれる。
武器は、
・私は軽くて取り回しやすい剣(命中率+2、回避率+2)
・サバーシは鉄より重くて破壊力のあるミスリル銀の棒(ダメージ+4)
・マジニーは強い魔法力を込めたワンド(魔法+4)
・ディロピートは名匠が製作したロングボウ(命中率+2、ダメージ+2)
を選んだ。
防具は、
・私は軽くて丈夫なミスリル銀の胸当て(防御力+2)、バックラー(回避率+2)
・サバーシはミスリル銀の鉄甲(防御力+1)、すね当て(防御力+1)、胸当て(防御力+2)
・マジニーは魔力の籠もった布で製作されたローブ(魔法抵抗力+2)
・ディロピートはミスリル銀の胸当て(防御力+2)、ラウンドシールド(回避率+2)
を選んだ。
「()内のポイントは良質武器に与えられるボーナスだ。
ダイスロールの出目に足すことが出来る」
「…なにを言ってる、ラグナス?」
マジニーが訝しげな顔をした。
「いや、こっちのことだ」
「…よく分らんが疲れてるのではないか?」
「そういう訳ではない」
私はさっと視線を外す。
道具は、
「ほい、乾燥食料と旅行に必要なもん一式とシュガージンジャー」
ライネが仲間と一緒に道具をドカドカと持ち込んでくる。
「何から何までスマンな」
「ええんやで」
ライネは照れくさそうに鼻の下をこすった。
「ラグやんがおらなんだら、オレら野垂れ死んでたからなぁ」
「せや!」
「こんくらい当然やで!」
ライネ達は口々に言って、勢いで押し切ってくる。
嬉しいのだが、あまり大盤振る舞いはしてほしくない。
私は再度礼を言って、ライネ達と別れた。
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