第23話
(23)
私が元魔王というのは引き続き伏せておく事にした。
しかし、理由があって魔力の大半を失ってるというのがマジニーにバレたので、敵対するヤツにやられたとだけ言っておいた。
「ふむ、まあ詳しいところは話したくなったら話してくれよ」
マジニーはあまり気にならないのか、深くは追求してこない。
考えて見れば、何でも屋家業のヤツには知られたくない過去を持つヤツなどいくらでもいる。
詮索はしないのが習慣なのだ。
マダナクはひたすらお礼を言い続けながら消えて行った。
専門用語で成仏したというヤツだ。
良いことをした。
ナマンダブ、ナマンダブ。
「で、報酬は?」
「失った魔力を取り戻す奇跡のアイテムらしい」
「胡散くさっ」
サバーシは一言で片付けた。
「てかなんで、あたしに神託ねーんだよ?!」
「神の味噌汁ってヤツ?」
「のみぞ知る、だボケ!」
「それを探すのか、ラグナス殿?」
ディロピートが聞いてくる。
「あんたのお許しがあればな」
「…急ぐ旅ではないが、それでも限度がある」
ディロピートは苦い顔。
「首が腐り出さないように防腐処理はしてるが、できれば早く届けたい」
ディロピートの追っていた下手人の首をダークエルフの故郷である黒い森に届けるのがメインクエストだ。
それにディロピートは口にはしないが首が身の回りにある状況など早く終わらせたいってのが本音だろう。
「うむ、分かった。この件は後回しにする」
「では、故郷へ向けて出発してくれるか!?」
「うん、シュガージンジャーが届いたらな」
「ちっ」
ディロピートは舌打ち。
意外と行儀悪いのな。
結構時間がかかったが、シュガージンジャーが届いた。
ライネのネットワークを使って売り込む。
馬車一杯の瓶詰めシュガージンジャーだったが、物珍しさもあってか二、三日で売り捌けてしまった。
「ほら、ここって神殿関係が幅効かせてるだろ、酒がダメな場が多いんだよ」
サバーシが説明する。
シュガージンジャーはこの街にもあるが、瓶踏めにするのは考えつかなかったようだ。
樽に詰めると重すぎるし、量が多くなる。
これでは誰も注文しない。
木のケースに入れて大量に持ち運びができ、その後は小分けにできる瓶踏めは儀式や集まりの席で重宝がられたようだ。
もちろん高価な物なので、金のある神殿が顧客の90%を占めている。あとの10%は大手の商団。
いずれ真似をされるだろうな。
それまでは独占で商売して儲けれるだろう。
*
「ラグやん、おおきに」
ライネ達もお礼を言いに来てくれた。
この街での商売はすべて権利をライネに売っていた。
「そこまでキッチリやらなくてもいいんだが…」
「商売はキッチリ計れいうたんはラグやんやないか」
ライネは反論。
コイツ口だけは達者だな。
「ま、それに、これはワイらからのお礼も兼ねてんねん」
ライネはちょっと照れてるようだった。
出発の日になり、皆の見送りで街を後にする。
しばらくは道なりだが、この先は治安が悪くなるのだ。
「ディロピート、よくこんな所を一人で来たな」
「森づたいに行けばそんなに危なくはない」
ディロピートは答える。
「森では我々エルフに敵う種族は少ない。森と森の間を渡る時だけ気を付ければいいんだ」
「あ、なるほどな」
という事で、森づたいに旅するルートを取った。
馬車が通れない道があるので、荷物は自分達で持ち運び、馬車は途中の集落で売ってしまった。
ディロピートが豪語したように、森の中ではいかな獣もエルフの鋭敏さと機敏さには及ばず、大型の肉食獣ですら避けるようだった。
「さすがエルフは森では生き生きするな」
マジニーは感心してる。
人間は平地に街を作って固まって暮らす。
エルフは森で狩猟をして暮らす。
ドワーフは地下で鉱脈を掘って暮らす。
「レイス族は空気の薄い高地や薄暗い洞窟の中で暮らす」
マジニーは誰にともなく説明した。
ただの暇潰しだ。
「ライカンスロープも森で暮らすのが多いよ」
サバーシが言った。
「あたしは街育ちだけどな」
「オレも街育ちだな」
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