第22話

(22)


商売の運営はライネに任せて、私とディロピートは相手側を探りに出た。

相手の状況を知らないと何もできないしな。

基本的な情報はライネ達から聞いていた。

裏切りの首謀者はコドローというヤツで、腹心の部下だった。

いわゆるやり手の商人タイプ。

マダナクの信頼を得るまでずっと従順にしてきて、徐々に自分に味方する仲間を増やしてゆき、乗っ取りを敢行した。

こういうと厳しいようだが、マダナクの目が節穴だったという事だ。


「裏切りは世の常だな」

ディロピートはぽつりとこぼす。

ダークエルフがいうとすっげぇ重みがあるな。

かくいう私も見せかけの信頼の上で過ごしてきた愚か者の一人な訳だが。

「うむ」

私はうなずく。

「世知辛い世の中だ」

「何でも屋家業もそうなのだろう?」

「まあな」

私はまたうなずく。

「お人好しではやってゆけない世界だな」

「我が家もそうだ」

ディロピートは少しうんざりした様子で言った。

「家名は立派でも、やってることは利を計り得になる方へつく、下衆の所業だ。裏切りなど日常茶飯事だ」

「家柄があるとどうしてもな…」

「家名など」

ディロピートはポツポツと声にした。

「家名など!」

やがてギリギリと声を絞り出す。

「…何があったんだ?」

「……」

ディロピートは黙り込む。

「ま、話したくないならいいさ」

私は肩をすくめた。


情報収集を続けてゆくと、どうやら相手側は焦ってきているらしい事が分かってきた。

こちらの神殿と連携するやり方が予想外だった事から、後手に回ったようである。

実際、他の商団でも真似をする所が出て来ている。

しかし、神殿の数には限りがある。

すべての商人が実行できる訳ではなかった。

早い者勝ちである。

だから苦し紛れに積み荷を強奪して嫌がらせをしだしたと。


「どうするのだ?」

マジニーが聞いてくる。

「商人は利益で動かすに限る」

私は即答。

商人は得にならないことはしない。

「コドローの仲間が裏切るように仕向ける」

「罠にかけるのか」

「目には目を、裏切りには裏切りを、だ」



「大変だ!」

部下の一人が凄い勢いで部屋に入ってくる。

「なんや騒々しい」

コドローはちょっと驚いて聞いた。

「あいつらが、捕まった!」

「なんやて?」

コドローの頭が目まぐるしく回転する。

「まずい、まずいで」

「はあ?」

部下が首を捻った。

「あいつらがしゃべったら 、わしらに手が回るやないか!」

「うへぇ、そらマズイやんか」

「逃げな!」

コドロー達は取るものも取らず逃げ出そうとする。

「そうはいかへんで!」

とそこへ、神官姿の男達がなだれ込んできた。

「コドロー、積み荷強奪の首謀者としてお縄や!」

「うへぇ、何かの間違いやないの!? わしそないなことようせんわ!」

コドローは否定しているが、縄を打たれた積み荷強奪の犯人達が入ってくると、

「うっ…」

顔色を変えてうろたえ出す。

「コドローの旦那、わいらだけ臭い飯食わされんのはゴメンやでぇ」

「一緒にムショはいろうや」

「知らん、知らん、わし関係ないで!」

「それはどうかな、調べたら分かることや」

神官はプレッシャーをかけておいて、

「ちなみに自白したヤツには温情もあるいうてたで」

自白を促す。

結構揺さぶりがうまい。

「…コドロー、悪いけどワイ嫁と子供おんねん」

「なっ…おま、裏切る気ィか!?」

「あんたが罪被ったら、そんでワイ助かんねん」

「ちくちょー!このクズがぁっ!」



おお、醜い。

私はドアの向こうから様子を伺いつつ眉を潜める。


計画はこうだ。

わざと積み荷の護衛を薄くする。

強奪させる。

強奪犯人を捕まえる。

影で操っているヤツを吐かせる。

温情をエサにコドローの仲間を裏切らせる。


見事に仲違いしたな。

利害だけでつるむ奴らなんてこんなもんだ。


……。

ふむ、ディロピートやマジニーの言わんとするところも分からなくはないな。


信頼できる仲間を作るのも悪くはない。



コドローは神殿の裁判に掛けられ、悪質な手口の罰として財産の没収を言い渡された。

コドローの部下は皆、裏切った。

自己の保身のためにコドローの罪状をすべて洗いざらい吐いて吐いて吐き捲った。

言い逃れ出来ない状況を悟るとコドローは自殺。

もっと余罪があったようだし、拷問の上、死刑になりそうだったからだろう。

コドローの部下達は死刑こそ免れたが、結局見逃せる罪状ではなく監獄に送られる事になった。

これほど自業自得な奴等も珍しい。


これで依頼の完遂にプラスして仇討ちまでやった訳だ。

商売の方はライネに任せればいいし、後はマダナクから報酬をもらうだけ、と。


「どんな報酬か楽しみだなー」

「はあ、今さら対して価値のあるものなんてないだろ」

サバーシがどうでも良さげに言う。

「ま、それもそうか」


夜になって、マダナクが現れた。

「ラグやん、おおきに!おおきに!」

「いや予想以上に効果が出てな…」

「ワシ、感激で夜も寝られへん!」

「幽霊は寝ないだろ」

「せやかて、どう表現したらええか分からへんもん」

「で、報酬ってなんなのです?」

リチャードがwktkしながら言った。

「それがな、ラグやんの魔力を取り戻すアイテムがあるねん」

「え?」

「魔神様がなんかワシに会いにきてな、そう言えいうたんよ」

「魔神だと?」

「せや、シンとか言ってたで」

「ふーむ」

私は唸った。

ま、いっか。

なるようにしかならんし。

「軽いですね、ラグナス様」

「心を読むな」


ちょっと予想外な展開だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る