第21話
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ライネは生活保護者どもに仕事を叩き込んでいった。
まずは倉庫を借りてライネ達に保管を任せた。
こちらでは小麦の買入と販売を行う。
馴染みの運送業者がないので相手任せになるが、一応神殿のお墨付きを得た業者ということになってるので業者が騙しを打ってくるということはなかった。
荷車が到着してからの荷降ろし、倉庫への荷物の保管、荷車が来ての荷積み等々。
人足として最低限必要な挙動を教えてゆく。
スパルタ方式ではあるが、分かりやすく見本を見せて教えている。
自分で見本を示す、これがなかなかできない。
ライネは現場叩き上げらしく、事細かに説明した。
生活保護者どもは見る間に仕事を身に付けていった。
倉庫への荷物の保管は、決められた積み方をする。
積み方が決まっていると荷の数が計算できるからだ。
「確か、“はい”と言ったか」
「よくしっとんな、ラグやん」
ライネが感心する。
「以前、やった事がある」
私は言った。
魔王の座に居たときに興味で調べたのと、職業訓練所にぶちこまれた時にやらされたのと。
穀類などの荷物は麻の袋に詰める。
物によって違うが、小麦なら小麦で袋に詰められる重さは大体同じだ。
一つの袋の重量が決まっていれば数量を数えればおおよその重量が分かる。
倉庫にどれだけの荷があるかすぐに分かる訳だ。
また積み方を一定にするのは荷崩れを防ぐ目的もある。
人足が怪我をすれば損失、荷を崩れさせて袋が破けたら損失。
商人は損失を抑えて利益を出さなければならない。
シンプルな理由である。
「秤を設置するから目均しをしてくれ」
私はライネ達に要求した。
「そないな面倒なことようせんわ」
ライネは拒否するが、
「重量をキチンと揃えて管理するのは商売の基礎だ。ゆえに秤は商売のシンボルになってるだろう?」
私は断固主張する。
目均しは、袋によっては重さにばらつきがあるので秤を使って一定の重さに揃えてやることを言う。
手間はかかるが、重量のばらつきがあるのとないのとでは顧客への信用度が変わってくる。
売り買いの時の過不足もなくなってくるしな。
「…ふん、しゃーないな」
ライネは搬入時に目均しの工程を設けた。
結構手際が良い。
そして給料を人足の皆に払う。
生活保護者は給料の中から小額をお布施として神殿へ入れる。
商売の形はこれでできた。
「ライネ、マダナクの商会にいたメンバーを揃えられるか?」
私はまた要求を出す。
ライネの仲間、裏切りに組みさなかった者を確保しておきたい。
マダナクからは家族の事しか依頼されてないが、これも乗り掛かった船ってヤツだ。
「うーん、まあ給料でよるし、あいつらも文句ねーやろ。説得したる」
ライネは意気込んで出掛ける。
程なくしてライネの仲間達が参入してきた。
「マダナクの家族は何をしてる?」
「スラムで暮らしてん」
ライネは口を尖らせる。
「ここで雇ったらいい」
「うん?」
私の言う意味がよく分からなかったようで、ライネは怪訝な顔をした。
「マダナクに恩があるっていってたな、それなら恩を返す良い機会だろ」
「…そーいうことか」
ライネは言った。
「なんやよう分からんが、ここはのったる」
やれやれ。
回りくどくなったが、これでマダナクの依頼が達成できる。
*
「大変だ!」
人足が倉庫の簡易事務所へ駆け込んできた。
「入ってきた荷が!」
人足の話では見慣れぬ連中が運送業者から荷を奪い去ったという。
…うわ、露骨なやり口にでたな。
どうみてもマダナクから身代を奪ったヤツらの仕業だ。
多分、運送業者もグルだろう。
「…くっそ、なんやねん!」
ライネ達は悔しそうに悪態をついていたが、
「ラグやん、なんとかせんと」
「ああ、神殿に話して護衛をつけてもらうか」
私はシン神殿へ行って神官の中から腕に覚えのある者を何人か借りた。
サバーシと同じようにシン神殿の神官は武芸を身に付けている。
棒術、徒手格闘術等々。
「それから運送を自前で行うようにしよう」
私は言って、荷車を始めとする道具を購入する。
「あいつらから苦情くんぞ?」
「なに、大丈夫だ。こっちには神殿の加護がある。てか、ちゃんと荷を運べない業者なんぞ信用できんだろ」
「まあ、言えてる」
ライネはうなずいた。
「苦情がきても荷を奪われるような業者に用はないって突っぱねればいい。こっちが自前で運送を始めたらヤツらの儲けが減る。真面目に仕事せざるをえなくなるさ」
「でも汚い手ぇ使ってくるヤツらやさかい気をつけんと」
「ほう、ならこちらも何でも屋を雇うか」
私はニヤニヤしながら言った。
「…という状況だ」
私はマジニー達に報告がてら仕事を持ちかけた。
この街にも何でも屋稼業の取りまとめをする口入れ屋のような所がある。
そこへ依頼して、マジニー達に受けてもらう。
なんだかマッチポンプのような気もするが、いつの世もこういう形式と手順は必要だ。
「これってもしかしてタダ働き?」
サバーシは気付いてしまったようだった。
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