第15話

(15)


 しばらく張り込みをしていると、人の出入り、物資や食料の搬入状態等が見えてくる。

 例えば、搬入する食料が多ければ人が多くいる、頻繁に物資が搬入されていれば何かの準備をしている、人が多く出入りしているなら情報や物資がやり取りされている。

 剣や防具らしきものを多く持ち込んでいるようだった。

 …こいつらどっかに押し込み強盗をする気じゃないだろうな?


 確認をする必要がある。

 押し込み先次第では、衛士隊に通報するのがいいかも。

 街の有力者の屋敷を狙ってるとかなら衛士隊も手柄を立てる良い機会だろうし。


 蛇の道は蛇だ。

 盗賊ギルドに聞くのがいいだろう。

 ギルドには大分顔を出してないが、まあなんとかなるだろう。


「よお、久しぶりだな」

「お久しぶりです、何でも屋稼業が忙しくて」

 ギルドの幹部に手土産を渡して、挨拶する。

「ウチに戻ってくるなら歓迎するんだがな」

「その気はないですよ、何でも屋が性にあってるんで」

「で、今日はどんな用事だ?」

「実はこういう動きをつかみまして…」

 私は説明をする。

「流れもんの集団か、仁義も何もあったもんじゃねえ」

 幹部は吐き捨てるように言う。

「ギルドに従うんならいいんだけどよ、てめえらで好き勝手に動きやがる」

 ギルドの印象は良くないみたいだな。

 小競り合いとか起こってるっぽい。

「そいつらがどこを襲撃するのかをつかみたいんです」

「ギルドの利益は?」

「目障りな連中を一掃できます」

「何か方法でもあんのかい?」

「衛士隊に情報を流して一網打尽にします」

「ほう、そいつは穏やかじゃねぇな」

 幹部の目が細くなる。

 疑ってるのだ。

 基本的に衛士隊と盗賊ギルドは仇敵の関係だ。

 犯罪者側と取り締まる側なのだから仕方ない。

「ギルドに手は出しませんよ、衛士隊のヤツらもバカじゃない」

 私は根気良く説明する。

「ギルドと街の偉いさんが繋がってることぐらいヤツらも知ってますし、何よりも手柄にならない」

「ふむ」

「衛士隊はそこそこ手柄を上げてゆけばいいんです。隊が街に必要だと思わせられれば組織が存続されてゆきますからね」

「悪くねえ話だな」

 幹部は興味を持ったようだった。

「ギルドならすぐに流れもん達のターゲットを探れるでしょう」

 私はここぞとばかりに畳み掛けた。

「大して労力を使わずに目障りなヤツらを排除できます」

「よし、情報は渡してやる」

 幹部は言った。

「ありがとうございます」

「その代わり、失敗は許さんからな」

「もちろんです」

 私は自信たっぷりに請け負った。


 すぐにギルドはターゲットを探り出した。

 とある大店の屋敷に押し入る計画らしい。

 衛士隊詰所に足を運び、レイモンドと合う。

 近所の酒場に場所を変えて話をする。

「実は、こういう情報を入手しまして…」

「ほう」

 レイモンドは目を細めた。

 何を考えてるかは伺いしれない。

「どうやらその中に私の探しているヤツが紛れ込んでるようです」

「なるほど、でも我々にメリットは?」

「失礼ですが、衛士隊の活動を続けてゆくには手柄を上げて行かなければならないのでは?」

「ふむふむ、よくご存知で」

 レイモンドは飄々としている。

 思考が読みにくい。

 だが、形が異なっていても人や組織というのは利益を追求するものだ。

「流れ者の一団などという治安を乱す輩はそれにはうってつけのような気がします」

「面白い考え方ですねぇ、一応心にとどめておきます」

「よろしくお願いします」


 このやり取りの後、すぐに衛士隊はならず者・流れ者一団の取り締まりを推し進めることにしたようだった。

 レイモンドが上手く上に話を付けたのだろう。

 結構やり手だ。


「それらしき人物を見つけた」

 私はディーに報告。

「おお!」

 ディーは歓喜の声を上げる。

「いや、まだあんたの探してるヤツとは決まってない」

「な、なーんだ…」

 ディーはガクッと肩を落とす。

 私は先を続けた。

「衛士隊がカチコミをかけるから、そこへ同行して確認をしてほしい」

「分かりました」

 という訳で、私とディーは装備を整えた。

 戦闘が前提になるので、武器、鎧、楯をメンテしたり買い揃えたりする。


 武器はいつものダガー2本とショートソード1本。

 街での戦いは狭い場所での戦いが想定されるからこのままで良い。


 防具は、激しい戦闘を考慮して金属鎧を使うことにした。

 動きやすさは犠牲になるが防御力を高める方がいいかもしれないとの考えからだ。


 基礎は柔らかい布の胴衣、布の手袋、皮のズボンにブーツ。

 チェインメイル、鉄製のチェスト&ブレスト、ガントレット、すね当てを購入して組み合わせる。

 頭は硬い皮の半円型ヘルムにチェインメイルのフード。

 呪文の詠唱を妨げないようフェイスガードはなしだ。


 機動性を残しつつ、防御力を少し上げた。

 接近したら剣の戦いになるだろうから、斬撃に対する防御を上げないと。

 あと目標がエルフなので弓に対する防御を考えないといけないだろう。

 生半可な鎧では弓矢は防げないので、楯を新調し、ラウンドシールドを購入した。


「いっそのこと、弓を揃えたらいかがです?」

 リチャードが言った。

「む、弓か…」

「まさか魔王様ともあろうお方が弓が扱えないとか?」

「いや、そこそこ使えるが、長いから取り回しがな…」

 私は渋ってみせる。

「ちっさい弓でいいじゃないですか」

「ちっちっちっ、エルフってのはロングボウを好むからな」

 私は知識をひけらかして見せる。

「でも、魔王様、設定ではダークエルフですよね?」

「う、そうだった」

 私はうめいた。

「仕方ない、ロングボウも買うか」

 

 *


 出入りの日が来た。

 私とディーは出かける。

 他のヤツらは表に出ると面倒なので待機。

 あらかじめ決めておいた地点で衛士隊を待つ。

 すぐに衛士隊がやってきて合流した。

「早いですね」

 レイモンドが挨拶する。

 衛士隊の他の連中を引き連れてきていた。

 ちょうど隊員をまとめるチーフ的な立ち位置にいるらしいな、レイモンド。

 こちらも無礼にならないよう丁寧に挨拶した。

 ディーは育ちがいいようだから、こういう時には問題が少ない。

「ロングボウですか」

 レイモンドが我々の背中にあるものを見て、目を細めた。

 なんか余計なことを思いついている顔だ。

「…先にこれをぶち込めとか言いませんよね?」

「おっとテレパシーも使えるんですか?」

 ニコニコしているが、コイツ物騒なヤツだ。


 すぐに流れ者のアジトを襲う算段が決まった。

 昔酒場だった処を根城にしているようで、おそらく一階は広間、二階に寝床があるつくりだろう。

 扉を開ける。

 連中を確認。

 私たちが矢を打ち込む。

 怯んだところを接近戦で押し一気に殲滅する。

 要するに奇襲。

 単純だが相手が準備を整える前に倒すのが一番楽な戦い方だ。

 

 扉を開ける役は私達がやることになった。

 私は酔っぱらいのふりをすることにした。

「うぉーい、いま帰ったぞーい!」

 ロレツの回らない声を上げて扉を叩く。

 ドンドン。

 ドンドン。

 うーい。

 やってるうちに扉が開いた。

「なんだ、帰る家間違えてんじゃねーのか…」


 ドガッ。


 扉を蹴り開けて、私とディーが中に入り込む。

 レイモンド達も続いて中へ入り込んだ。


「あっ!?」

 中にいた連中は驚いている。


「貴様らの企みは既にバレてる!太守の名において貴様らを捕らえる!」

 レイモンドが叫び、

 連中はハッと身構えた。


 シュッ


 そこへ私とディーの弓矢が放たれる。


 カッ


 矢が刺さり、二人が倒れた。


「かかれ!」

 レイモンドの号令で衛士隊が突撃。

 手にした剣を容赦なく叩き込む。

 どうみても捕らえる気がないが、そこは決まり文句ってヤツか。


 私は弓を置いてショートソードとラウンドシールドに切り替えた。

 衛士隊の横から逃げようとするヤツを押さえる。

 ディーは弓を構えたまま裏口へ逃げようとする奴を撃つ。

 エルフだけあって弓の腕は高い。

 瞬時に狙い撃ちをして敵を倒していた。


 相手の剣をシールドで防ぎ、手首や腕を切りつける。

 怯めば突き込んで防御させ、返す剣で頭部を叩き割る。

 怯まなければそのまま防御を続ける。

「チッ」

 相手が苦し紛れに突撃してきた。

 私は楯を構えて腰を落し、それを受け止める。

 これをするために壁を相手に押す、人を相手に体当たりを繰り返すという練習をする。

 レスリングの練習にもつながるので基本中の基本だ。

 てか、若い頃に練習したなあ、魔王たるもの一人でも戦えないといけないというのがウチの伝統だ。

 突進が止まる。

 楯を押し出すと相手の顔にブチ当たった。

「うっ…」

 相手が怯んだところへボディーへ突き入れる。

 蹴って刃を引き抜く。

 切り降ろしで頭をカチ割る。

 戦い始めてすぐ分かったが、システマチックな戦闘術を持つヤツがいない。

 ただの荒くれ者の集まりだな。

 衛士隊も順調に敵を制圧していた。

「さて、エルフはいるかな?」

 私がざっと見回すと

 広間の奥の方で隠れるように様子を見ているヤツと目があった。

 尖った耳、比較的整った顔、浅黒い皮膚、ダークエルフだ。

「くっ…」

 ダークエルフは呻いた。

「えっとなんだっけ名前? ササビーカンストだっけ」

 私はちょっと考えて思い出してから言う。

「ササビーデンスト!」

 ダークエルフはムッとして言い返した。

「なぜ我々が居るか分かるな?」

「……」

 ダークエルフは答えない。


 スッ


 ディーが剣を抜いて前に出た。


「待て、人違いだ!」

 ササビーデンストは必死に訴えかけてきたが、

「斬奸ッ」

 ディーは容赦なく斬った。

 悲鳴も上げずにササビーデンストは絶命。

 ディーは念のため二度斬り。

 …ダークエルフって。


 えげつない行為をいとも平然と行うヤツに辟易してしまうが、私もダークエルフという設定なので平然とポーカーフェイス。


「あとは首を干して持ち帰ります」

 ザシュッ。

「うむ」

 ディーが淡々と言うのに私も平然とうなずく。

 あ、コイツで合ってたのね。

 でも、聴かない方がいいんだろうな。

 どーせ答えないだろうし。


 事後処理を行なってからレイモンド達と分かれる。

「これで依頼完遂だな」

「はい、何から何までありがとうございました」

 私が言うとディーは頭を下げた。

 ダークエルフにしては礼儀正しいな、コイツ。

「いや、同胞が困っているのを黙って見てる訳にもいかぬからな」

「これは礼金です」

 ディーは懐の巾着から宝石を取り出した。

 依頼書の通りの額だ。

「ありがとう、骨を折った甲斐があったな」

「ははは」

 と言い合って、マジニー達が待つ宿に帰る。

 とりあえず報告と。


 *


 報告を終えて、マジニー、サバーシ、ディーとささやかな宴会をする。

 ジェリーとトラバンユは最近、帰ってきていない。

 あいつらどこで何をしてるのか。

「ところで、折りいって頼みがあるのですが」

 ディーは宴会も終盤というところで、言った。

「帰りの道中の護衛をしてくれませんか?」

 もっと早く言えばいいのにと思わなくもないが、迷っていたのだろう。

「ん、それは黒い森まで送れということか?」

 私が聞くと、

「はい」

 ディーはうなずく。

「我々の故郷である黒い森を見たことがないというのはアール、あなたに取って損失です」

「ま、まあそうかな…」

「それに魔族のお二方なら我ら魔王軍所属の領地に入っても問題ありません」

「だなぁ」

「里帰りもたまにはいいかな」

 マジニー、サバーシも乗り気なようだった。

「では引き受けていただけますか?」

「うむ、人間の仲間に一声かけてからということで」

 マジニーは少し間を置いてから答えた。


 二日後。

 ジェリーとトラバンユは死んでいたことが分かった。

 ジェリーは馴染みの娼婦を取り合う諍いで刺されて死亡。

 トラバンユは剣の決闘に敗れて死亡。

 ということらしかった。

 なんだか姿を見ないと思ったら、まさかの結末か。

 ちょっと感傷的にならざるを得ないが、所詮、ならず者の未来などこんなもんである。


「…ま、残念だったな」

「……こんな稼業の身だ、仕方ないさ」

 マジニーは感情があまり表に出ないようだったが、やはりどこか悲しそうに見えた。


「正直、この稼業には未来がない」

 マジにーは意外なことを言った。

「違う道を模索しようとしていたところにお前が来た」

「ふむ」

 私は曖昧にうなずく。

 一応、聞いてるよって態度を示す。

「お前の仕事のやり方は明日を見ている、そこに乗っかった方が良い」

「直接的だな」

 私はちょっと目を閉じた。

「じゃあ、ディーの依頼を受けるか」

「うむ、そうしよう」

 マジニーはうなずいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る