第11話
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六尺棒。
古代からある単純な武器だ。
両手で端の方を握って長さを生かす使い方と、両手で棒を三等分するように握って左右の端を上手く生かす使い方とある。
弱点と言えば木製なので壊れやすいところぐらいか。
「あたしの棒は鉄だから大丈夫」
サバーシはさらっと言った。
さっきまではライオンのような顔とぶっとい腕、胸回りをしてたが、獣化は徐々に解けていき、盛り上がった筋肉も毛も消えて行ってる。
集中力の高まり、感情の起伏で魔神の力が肉体に流れ込み顕現化するのだという。
巫女だから、常にどこかで神とつながっているということか。
「…金属製か、重いだろ実際」
「え、重さがあった方が使いやすいよ?」
「……(化け物か)」
「なんか言っただろ、今!?」
アイアンクローが私のこめかみを襲う。
「うごごごっ…言ってない!」
かなり危険なヤツだ。
魔王といえど、さすがに神の力にはかなわんな。
「てか、シン(獅子の神)の巫女なんだな」
「ああ、元々ライカンスロープの血族だけど、あたしは特に巫女の能力が強くてね」
サバーシはやはりさらっと言う。
もともとこういう性格なんだろう。
…まてよ、神の力を持つ巫女のバックアップを受けるって手も…。
『そんなのダメですぞ!』
リチャードがテレパシーでダメ出し。
幽霊だから素で使える。
『なんでだ!?』
私もテレパシーで返す。
魔王だから素で使える…うん、そう。
『そんなお手軽な力に頼って王座に返り咲いても、すぐにまた奪われますよ?』
『……う』
痛いところをつかれたな。
『魔王様の権威は強大な力に支えられているんじゃなかったですか?』
『そ、そうだな、私が間違っていた』
『分かれば良いんです』
……なんでそんなに偉そうなんだ?
上から目線すぎる。
けど、言ってることは間違ってないからいいか。
*
流れのゴブリンの一団が排除され、ほどなくしてガラス原料が掘り出されると、途端にガラス原料の値が崩れ始めた。
高い原料を買い込んで暴利を貪っていた商人は大損したようだったが、まあ自業自得である。
ただ、切羽詰った商人が手先を使って原料を襲撃しかねないので、原料を街まで運ぶ警護役も買ってでた。
実際、襲撃あったし。
「ガラス瓶にシュガー・ジンジャーを詰める工房が必要だな」
今更ながら、私は気づいた。
「お前の工房を使えばいいじゃねえの」
ジェリーは、『なに言ってんだおめえ?』という顔で私を見る。
「…シュガーまみれになるだろ」
「いいじゃねえか、そのくらい。金を稼ぐためには仕方ないさ」
「ま、仕方ないか」
私は諦めて工房を使うことにした。
樽詰めシュガー・ジンジャー、ガラス瓶、木製の詮。
これらを組み合わせるだけの簡単なお仕事。
だったら良かったのにな…。
瓶はそのままでは汚いので、沸騰させたお湯で煮沸洗浄。
シュガージンジャーも煮詰めてから、瓶に流し込み、木詮で蓋をして冷ます。
熱いので手袋と鉄製の工具を使っての作業だから習熟するまでかなり時間がかかった。
そんなこんなで一通りの工程を覚え、何本か試作品を作ってみた。
で、その試作品を持って、店に売り込みに行く。
「いやー、そんなの要らないよ」
「売れるのかい、それ?」
「ウチは興味ないなぁ」
などなど。
何軒も断られたが、諦めずに売り込んでゆく。
「うーん、酒の飲めないヤツも多いから、いいかもな」
そのうちに興味を示す店も出てきた。
「水はすぐに腐っちゃいますからねー」
「栄養もあって上手い飲み物が旅先でも飲めますから、売れること間違いなしでさぁ」
私とジェリーが口々に営業トークをしてゆく。
「じゃー、とりあえず1ダースくれよ」
「へい、まいどありー」
てなやり取りがあって、やっとのことで納品。
口入れ屋にもムリ言って置いてもらったりした。
こちらは4本×3段の12本を木枠に入れたものを置いてもらって、売れた数だけを店に買ってもらう。
大した儲けではないが、それでも儲けないよりは儲けた方が良い。
商売人の習性だ。
そのうちに、なんでも屋連中の間で広まってゆき、一定数量が売れるようになってきた。
「工房を新設しよう」
「え、もう投資かよ、早くね?」
私が言うと、ジェリーは首を傾げた。
「私たちは商売人じゃない、いずれはこの街から出るかもしれないだろ?」
「…どういうことでぇ?」
「経営が軌道にのってきたら、経営権を売ってまとまった金にする」
私は考えを述べた。
「そして、その金を元にまた別の稼ぎ方を考える」
「へー、おめぇ考える事が大きいなぁ」
ジェリーは若干ポカンとしている。
「そのためには工房を新設して、作業工程を確立、仕入先と売り先を確保する必要がある」
「なるほど」
「…絶対分かってないだろ」
「うるせー」
経営をジェリーに任せて、私は工房の管理と営業ができる人材を探し始めた。
いわゆる雇われ経営者というヤツだ。
ちなみにジェリーは盗賊ギルドのつなぎ役を辞めていた。
普通ならギルドに殺されかねないが、本業が、なんでも屋であり、またギルドを奪い取るために活躍した立役者だ。
そのへんの事情があってか、離職が叶っていた。
もちろん私もどさくさに紛れて盗賊ギルドと関わらないようにしていた。
これ以上、盗賊ギルドに入り込んでも面倒な仕事が回ってくるだけで、マジニー達について行けなくなるだろうし。
*
「シュガー・ジンジャーは売れているようだな」
マジニーは目を細めている。
「うん、予想以上に儲けが出てきた」
私はマジニーに売上報告書を見せた。
ジェリーに言ったことを繰り返し説明する。
「なるほど、元手を作っているのだな」
マジニーはうなずいて、
「なかなかの手腕だ」
「まあな、持参金ってところだ」
私は意味ありげに言う。
「それは我々と一緒に行動するということでいいのか」
「よろしく頼む」
私はペコリと頭を下げた。
あくまでもパーティーのリーダーはマジニーだ。
パーティーを乗っ取ったりなど、変な気がないことを示すにも、こういうのは必要だ。
「こちらとしても戦力になり、金も入れてくれるというのは助かる」
マジニーは肯定とも否定とも取れない態度だ。
「で、シュガー・ジンジャーはどうするんだ?」
「既に経営者を雇って任せてある、経営権を売ってまとまった金にする」
「その金で次は何をするんだ?」
「まだ分からんが、もっと膨らませるつもりだ」
私は正直に述べた。
「……」
マジニーはどうしたもんか分からないって感じで黙っていたが、
「いいじゃないか、財産はあった方がいいよ」
サバーシが、のほほんとした口調で言う。
「うむ、そうだな」
マジニーはうなずいて、
「ここは乗らせてもらうのがいいか」
とりあえず私のパーティー入りは決定した。
トラバンユは始終無口。
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