身近な人達の死、そして退位
私は少しの間休養を取ることになった。
そして、復帰後最初の仕事が──
「ナルチーゾよ、貴殿は良い商人と聞いていたのだがな」
威圧をもって、罪人に声をかける。
「禁じられていた奴隷商売に手をつけていたとは、それも率先して奴隷を集めて売りさばき、時には奴隷に暴力を振るったりと、散々好き勝手にやっているとは私はおもわなんだ」
「そ、それに関しましては……」
でっぷりとした体をまるめて、ガタガタと震える罪人。
「そこまでして金が欲しいかったのか?」
「はい!! あ、ああ」
術と威圧で本心を言わせると、相手は慌てた。
私はぶっきらぼうな顔のまま罪人に言う。
「それほど『
「そ、それだけはお許しください!!」
「そして貴様の財産は全て没収とさせてもらう、金に換えれるものは換えて貴様が奴隷にしてきた者への仕打ちの代償とさせてもらう」
「そ、そんな……!!」
「ならば、断頭台で処刑されるか? 貴殿にはそれがお似合いだぞ」
「ひ、ひぃいいいい……」
「連れて行け」
「「は!」」
兵士達が罪人の鎖を掴んで引きずっていった。
それを見送ると私ははぁと息を吐く。
「復帰直後の仕事がこれとは」
ぼやくとエドガルドが私の髪を梳く。
「そういうな、私達も悩んでいたのだ」
「ところで、奴隷にされて売り飛ばされた方々は?」
「行く当てがないのがほとんどだ」
「ならば、そのような施設を作りましょう」
「さすがダンテ」
エドガルドが満足げに頷く。
「ダンテ、ただ一部がこのまま仕えたいという申し出があった」
クレメンテの言葉に私は少しだけ考えて──
「なら、奴隷ではなく、使用人として正式登録を」
「それがいいでしょう」
クレメンテもにこりと笑った。
また、仕事が始まる。
王としての仕事が。
そして、月日が流れ──
「80年仕事をしてきたわけだが、そろそろ退位していい?」
80年も仕事をしてきたのだ、そろそろ息子に仕事を任せた方が良い頃だろう。
「勿論でございます、そしてダンテ陛下」
「なんだいフィレンツォ」
「私、そろそろ寿命が来そうな予感がします。後のことは子や孫に任せたいと思います」
フィレンツォの言葉に、私は何も言えなくなりかけた。
「──分かった、フィレンツォ・カランコエ。今日をもって其方を任から解こう」
「申し訳ございません」
フィレンツォ
「そしてフィレンツォ」
「何でしょう?」
「どうか、其方の死を看取らせて欲しい」
「そのような事を……ありがとうございます」
80年も私の執事をしてきたフィレンツォの顔は壮年ほどになり、手も少しざらついていた。
それでも、微笑みはあの時のままだった。
仕事を辞めてすぐ、フィレンツォは倒れた。
退位した私はフィレンツォの屋敷へ行き、側で手をにぎる。
妻はとうの昔に亡くなり、今は子どもと孫、ひ孫達がいる屋敷でぐったりとしている。
「ダンテ陛下」
フィレンツォが名前を呼ぶ。
「どうしたのでしょうか?」
「貴方にお仕えできて私はとても、幸せでした。死後も貴方の側にお仕えできれば……」
そう言って、フィレンツォは息を引き取った。
「ファビア、フェルモ、無理をしなくて良いのですよ」
「いいえ、私達は無理をしてません」
二人は凜としたたたずまいで言った。
「席を外します、どうか父の側に」
「……すまないね」
二人がいなくなり、私は大声で泣いた。
肉親ともいっていい存在を今、私は失ったのだ。
それから追い打ちをかけるように、父母が──
「私達も命を返そうと思う」
といいだし、私はなんとか取り繕うが母に見抜かれた。
「ごめんなさい。死が怖い貴方はまだ分からないでしょう、でも」
「いつか分かる日がきっと来るから」
「それまでどうか長生きをなさい」
自分たちだけ早死にして私に長生きしろだなんて、なんて酷い。
そう思ったけど、死ぬのが怖い私にとってはそれしか道はなかったのだ。
「……亡くなりました」
父母が命を返した。
亡くなったのを見て、私はぼろぼろと涙をこぼした。
「喪失が怖い、死ぬのが怖い」
そう呟く私を伴侶達は抱きしめてくれた。
私は城から出て、伴侶達と共に、屋敷で暮らしている。
フィレンツォがいないことを除けば、あの日が帰ってきたようだ。
学校で神様の助言を受けながら暮らし、日々頭を抱えていたあの日のようだった。
「おい、クレメンテお前ダンテを独占しすぎ!」
「仕事だと言って国王だった時にお前達も独占してただろう、だから私とエリアで独占する」
「あ、あの僕はその皆仲良く……」
「よしクレメンテ裏へ出ろ」
「いい加減にしてください」
ファビオが伴侶達を静かに諭すように叱る。
「皆様、ダンテ陛下が国王陛下であられたとき忙しくてなかなか時間がとれなかった方と、上手く時間を取った方がいらっしゃるのはご存じです。ですので、ダンテ陛下は仲良く、なるよう寵愛してくださいませ」
「へ?」
思わずすっとぼけた声が出た。
「そうだな、ダンテ」
「ダンテ」
「なぁ、ダンテ」
「ああ、そうだなダンテ」
「ダンテ様……」
じりじりと詰め寄られる。
「ちょ、ま──!?」
王様やってた時はなかったが、多分80年ぶりに搾り取られた気がする。
翌日、和気藹々とした雰囲気になっていたので。
私の腰と精気が持って行かれたが、それくらい軽い方だろう。
「ダンテ、大丈夫か」
「大丈夫ではないです……」
「久々だからちょっとハッスルしすぎた……すまない……」
まぁ、ベッドと仲良しする羽目になったんだけどね!!
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