翻弄される子育て、想定外の事態




 一番最初に生まれたブルーナがつかまり立ちして歩けるようになったころ──

 ばぶばぶとディアナを除いてみなはいはいをして、元気に動いていた。

 ディアナは相変わらず寝ては乳を貰う日々なので例外だ。



「ディアナが寝過ぎる」

「だ、大丈夫ですよ、多分」

 寝て起きては乳を飲むを繰り返すディアナの生活にカルミネは不安を抱いているようだった。


 私は、前世の叔母さんの息子が赤ん坊の頃、ディアナと似た生活をしていたと聞いたので少し安心できているが、知らないカルミネは不安だろう。


「た、確かにディアナは寝てばかりですが、その分立派になってますよ」


 綺麗で健やかに成長している様を指摘するがカルミネは首を振る。


「いや、安心できない」

「カルミネ様」

 そこへフィレンツォがやって来た。

「ご安心ください、私の第二子もそうでしたが、元気に育ちました、今も健やかです」

「……本当か?」

「私、誓って嘘は申しません」

「そうか……なら、いいか」

 漸く納得したらしいカルミネはベビーベッドの中で眠っているディアナの様子を見に行った。

「助かったよ、フィレンツォ」

「いえいえ、我が子の育成状況を不安がるのは親である証、良いことだと思います」


「たぁーた!」

 ぽすんと足に衝撃が来る、下を見れば、私の足を掴んでいるブルーナが。

「ブルーナどうしたんだい?」

「だこ!」

「だっこか、よーし!」

 ブルーナを抱っこするとキャッキャと喜んでいた。


 ずっしりとした重みを感じるが、子どもの重み、育っている重みだと、自分を納得させ、平然とすることに。

「ブルーナ、ママはどうしたんだい?」

「まぁま、うごかなー!」

「え?」

「ダンテ殿下、先ほどまでクレメンテ殿下はブルーナ様のお世話をされており、疲れてやすんでおります」

 ブリジッタさんが慌てて訂正する。

 それに少し安堵して、私はブルーナに振り回されることになる。


「ブリジッタさん、ご助力を」

「かしこまりました、さぁ、ブルーナ様、お休みの時間ですよ」

「やー! ぱぁぱとまぁまー!」

 どうやらパパクレメンテママの二人がいないと嫌らしい。

 何とか体力回復したらしきクレメンテがブルーナの寝床で一緒に横になると、ブルーナはすぐさますやすやと眠り始めた。

「クレメンテは一緒に休んでてください、私は他の我が子達も見てきます」

「はい……すみません、ダンテ。貴方にはいつも助けられる……」

 エリアより体力があるとはいえ、クレメンテもあまり良い境遇ではなかったので体力は人並みよりやや劣る。

 それでも、それを乗り越えて成績優秀者を勝ち取る努力家なのを私は知っている。

「クレメンテ、貴方はいつも頑張っている。私はそれに報いたいだけですよ、だって貴方は私の伴侶なのですから」

「……はい」

 クレメンテはふにゃりと笑い、すぅと眠りについた。


 その間に私は他の子のところへと行く。


「……」

「アルバート、アルフィオは?」

「あーその積み木に熱中?」

「そうですか……」

「二時間くらい?」

「……熱中しすぎですね」

 とは思いながらも邪魔をすると泣き出すのは明白なので食事までそのままにする。


「ひぃ、ふぅ、ふぅ」

「まぁま、まぁま!」

「ご、ごめんね。デミトリオ。ママ、疲れちゃった」

「まぁー!!」

「どうしたんです?」

「ぱぁー!」

 デミトリオは私にとっしんするようにはいはいでやって来たので抱きかかえる。

「ぱぁぱ! ぱぁぱ!」

「すみません、ダンテ様……僕……」

「いいんですよ、体力には自信がありますので。さぁ、デミトリオ。パパと遊ぼうか──」

「ぱぁー!」

 私は、きゃっきゃとはしゃぐデミトリオの遊びに付き合いながら、育児に自信が無くなっているエリアを後でどう励ますか考えていた。





「エリアはよくやっています」

 夜、子ども達が寝静まった時間、伴侶達と集まって会話する。

「そう、でしょうか?」

「ああ、エリア。お前の体力のなさは私達は重々承知だ。だから、デミトリオの育児に頑張っているお前はよくやっているよ」

「でも、すぐ疲れてしまって」

「エリア、あれは疲れます。それに私だってブルーナの相手で疲弊するんですから」

「クレメンテ……」

「俺のディアナの楽さを少しわけでやりたいな」

「ディアナは……寝ていますからね……」

 カルミネの発言に私は苦笑した。

「もっと子育てを頼り合おう、私達はダンテの伴侶なのだから」

「そうですね、もっと頼りあいましょう」

「でも……それだと皆さんにご迷惑が……」

「迷惑、上等だ。エリアはもっと俺達をたよれ」

 アルバートがエリアの髪をくしゃくしゃと撫でた。

 エリアは申し訳なさそうな表情だが、同時に嬉しそうな表情もしていた。





 こうして私達はより協力的に子育てをするようになった。

 結果子育ては怒濤の勢いで過ぎていき、結果「大変だった」という記憶と共に、我が子等の成長録が残った。


 我が子達が成長し、五歳くらいになると──


「ママ、ブルーナおうまさんのるのー!」

「ブルーナ! 馬はお前にはまだ早い! パパのお馬さんで我慢しなさい!」

「やー!」

 ブルーナはおてんばまっしぐらに育ち。


「パパ、これ欲しい」

「このパズルかい? 難しいけどいいのか? こっちのパズルの方がいいと思うけど」

「こっちのパズルの方が楽しそう」

 アルフィオはパズル好きの大人しい子に育ち。


「パパ、この本を読んで」

「ああ、いいとも」

 ディアナは本好きのおしゃれ好きな子に育ち。


「ママ、どうしてそんなに悲しそうな顔をするの」

「ごめんね、上手く笑えないのごめんね」

「ママ……」

 やんちゃだったデミトリオは優しい子になっていた。


 エリアは育児の疲労感から上手く笑えなくなってしまった自分を恥じるようになった。

 なので、エリアを労る回数を増やすことに伴侶会議で決定した。


「そんな、僕なんかの為に」

「エリア。お前はダンテの伴侶なのだぞ、そんなのでどうする」

 エドガルドがきつい口調でエリアに言います。

「お前はもっと頼るべきだったのだ、だから今からでも遅くない皆を、ダンテを頼れ、甘えろ」

「……エドガルド様……」

「明日からは子育ての手伝いに私も入る」

「エドガルド……育児……大丈夫ですか?」

「……気合いでどうにかする」

「無理はしないでくださいね」


 たまに、エドガルドも育児に参加していたが、子ども達の底なし体力と言わんばかりの行動にいつもへとへとになって帰って行くので心配ではあった。



「ブルーナ、おうまさんのるー!」

「だからお前には早いと……」

「私が同乗しよう、体には子ども紐をつけておけばいいだろう」

「エドガルド……大丈夫か?」

「なんとか無事終わらせる」


「きゃっきゃ! おうまさん、おうまさん!」

「ブルーナ、あまりはしゃぐと落ちるから大人しくしなさい」

「はい、おじさま!」


 エドガルドがブルーナと共に馬に乗っているのを私とクレメンテは眺める。

「今思えば、ダンテ、お前がやれば良かったのでは?」

「いえ、ちょっと怖くて」

「……ああ、分かる。エドガルドには感謝だな」


「ママー! パパー!」

 手を振るブルーナに手を振り返す。

 この後何事もなく、乗馬は終わり、興奮したブルーナはもう一回乗りたいとおねだりを繰り返し、十回ほど、乗馬することになった。

 それが終わると漸く乗馬熱は落ち着き、お昼寝の時間も再度乗馬熱が出て、「おうまさんすごかった」と繰り返しなかなか寝付いてくれず、こっそり睡眠魔法を使ったのは内緒だ。

 フィレンツォにはバレてたが。


「ダンテ様、そういうずるは……たまにはいいんですよ。ダンテ様無理ばかりしますから」


 しっけいな、とは思いつつも。

 また新しい子育てが始まる、そんな予感にあふれていた──






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