祝福とお説教




 クレメンテと私の娘ブルーナはすくすく育っていた。

 今ではふっくらむっちりしている、赤ちゃん特有のぷっくり感が出ている。

「ブルーナ、私の可愛い赤ちゃん」

 クレメンテはブルーナにつきっきりだ。

「今は過保護くらいがちょうどいいさ」

 とカルミネは言う。

 つまりだ娘が大人になったときに過保護にならないように、クレメンテとやりとりしていく必要がある。


 そんなこんなで、赤ん坊の成長と育児と、まだ妊娠中の伴侶の対応に追われている夏。


 それはやって来た。


「……どうしたアルバート」

「カルミネどうしよう、破水したっぽい」

 アルバートの言葉にカルミネは水を拭きだした。

 エリアはあわあわとしている。

「フィレンツォー! アルバートが破水したー!」

「かしこまりましたぁあああ!!」


 車椅子を掴みながら滑るようにフィレンツォが入ってきた。

 もはや芸術的としか言えないレベルだ。


「アルバート様、さ、早く!」

「う、うん」

 おどおどとしているアルバートを私が支え、車椅子に乗せて分娩室へと向かう。


「うう~~! こえぇよぉ」

「私の腕を握ってください、折っても構いませんので」

「お、折るなんてできねぇって!」

「ご安心を、クレメンテの時、骨にヒビが入りましたので。すぐ治癒魔術で治しましたが」

「クレメンテこぇえ……」

「出産にはそのくらい手に圧がかかるんですさぁ」

「う、うん」

 アルバートが私の腕を掴み、医師達が分娩準備を始める。


 そして出産が始まった。

 アルバートは「ぐるじぃいいい!」と叫んで私の腕の骨をへし折ったが、出産は無事に終わった。


 へし折った腕を他の皆に見られたときは悲鳴を上げられたので、へし折られて出産が終わったらすぐに治そうと決めた。


「と、とにかく、俺の出産無事終わって良かった!」

「ダンテの腕が無事じゃなかったですがね」

「ははは……もう治癒魔法で治しましたから大丈夫ですよ」

 手を動かしてみせる。

「俺はダンテの腕は掴まんぞ、適当な棒を掴む」

 アルバートが私の骨を折ったのを見て、カルミネはそう言った。

「で、赤ん坊の性別は?」

「男の子ですね」

「男の子かー……名前何にしようか」

「決めて無かったんです?」

「ダンテならなんてつける?」

 とアルバートに聞かれた私は少し考えて口にしました。

「アルフィオ」

「俺の名前からか、ふふ、なんかこそばゆいな」

「いいのですか?」

「ああ、いいとも」

 まだつかれた様子だが、アルバートは赤ん坊に言った。

「アルフィオ、元気に育つんだぞ」

 と。

 赤ん坊、アルフィオはふぎゃあと泣いた。

 返事をするかのように。





 それから怒濤の日々が始まった。

 まだ妊娠中のカルミネとエリアの側の世話に、生まれてきた赤ん坊二人の世話。

 そして、アルバートとクレメンテのケアを大忙しなのだ。


 ぶっちゃけ自分の事後回しにしすぎた結果──



「「「「「もう少し自分を大事にしてくれ(ください)!!」」」」」



 と全員に言われ、フィレンツォにアイアンクローでベッドにだぁん!と寝かしつけられる程だった。


 それが複数回続いて──


「ダンテ、親になったのは分かるわ。でもここでは私達を頼ってちょうだい」

 と母上に説教される羽目になった。

「もうしわけございません母上……」

 ベッドの上から母上の説教を聞いている。


──何故かって?──


 無理して倒れたんですよ、疲労困憊状態になり気力で保てませんでした。


『お前の悪癖相変わらず治らんなぁ』

──しゃーないでしょう──


「貴方が倒れてしまってはエドガルドに、伴侶の方達が皆心配するわ」

「いやぁ、皆自分の事で忙しいでしょうし……」

「それでもよ。あの子達は皆貴方を愛しているんだもの」

「……そう、ですね。すみません、母上」

「謝るのは私ではなくて、あの子達へ、でしょう?」

「はい……」

「とにかく今日は休んで。何かあったらすぐ伝えるから」

「はい……」

 母上が出て行き、一人自室で横になっていると、ノック音が聞こえた。

「どうぞ」

 そう言うと、フィレンツォに付き添われてきたアルバートと、クレメンテだった。

 二人は赤子を抱いている。

「ダンテ、また無茶をしたそうだな。お前昔から無茶するのどうにかできないのか?」

「そうだ、親になったからといって一人だけ無茶をするのはやめてくれ」

 二人が私を咎める。

「ダンテ様の無茶癖は幼少時より出ていました、治すのは困難でしょう。ですが」

 フィレンツォは私の頭を撫でながらいう。

「皆様がいれば、きっと良くなります。実際良くなってきました」

「でも、良くなってこれだからな」

「親になるという事で、結構ピリピリしているのですよ」

「なるほど」

 クレメンテとアルバートはダンテに近づき赤子を見せる。

「この子等の良い親に、私達の良い伴侶にしようとするのは嬉しいが、無理はするな」

「そうだぞ、ダンテその通りだ」

 すやすやと眠る赤子二人を見て、私は息を吐いた。


──確かにその通りだな──


「……そうですね。もう少し皆を頼れるよう努力します……」

「努力じゃない、義務だ」

「ハイ」

 クレメンテの圧のこもった言葉につい片言になってしまう。


──尻に敷かれてるな自分──


 と、思いながらも、フィレンツォが用意してくれた果実をかじった。

 さっぱりしてて美味しかった。



 ゆったりと休んでいると、フィレンツォが思い出したように言った。

「そういえば、アウトゥンノ王国から祝いの品が届きました。クレメンテ様宛に」

「私に?」

「クレメンテに?」

「ええ」

 と、フィレンツォは祝いの品の一部を持ってきた。

「ほとんどが金品でしたので……自分たちで選んで欲しいとのことです」

「でも、数着女の子用の服が入ってますね。赤ん坊用の」

 白いフリルのついたものから、果物柄の物などがあった。

「……兄上達はもう」

「あと、離乳食用の物が缶詰で送られてきましたよ」

「離乳食ですか、ありがたいですね」

「ええ」

 クレメンテと微笑み合う。

「フィレンツォ、俺の家からはー?」

 アルバートがたずねるとフィレンツォは苦笑し──

「一応金銭がわずかにとどきました」

「だよなー俺の家伯爵だし、王族とは桁が違いすぎるのが悲しい!」

「アルバート、量や質が思いではありませんよ」

「クレメンテに諭されるのが意外──」

「ふぎゃあふぎゃあ」

「ああ、ごめんよ、えーっとこれは……」

「オムツですね、私が取り替え──」

「「ダンテはもう少し休んでろ」」

「ハイ……」

 私は大人しく休んでいることにした。



──プリマヴェーラ王国のヴァレンテ陛下にちょっと話しを伺いたいなぁ……──



 そんな事を思いながら。






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