親として
「ヴァレンテ陛下からお話を聞きたい?」
「ええ、ヴァレンテ陛下は十人の伴侶がおられるそうではないですか、だから話を聞きたいなと」
私がそう言うと、フィレンツォは少し考えてから頷いた。
「分かりました、なんとか致しましょう」
「助かる」
ヴァレンテ陛下に話しを聞けば、少しは親としてよく動けるかもしれない。
そんな淡い期待を抱いて、返事をまった。
「僕が伴侶達にしてたこと? いや、普通に嫌がる事はしない、それだけだよ」
「はい?」
ヴァレンテ陛下と運良く話ができたが、聞かされた内容に疑問符がついた。
「ああ、もっと正確にはやって欲しい事をする、もかな」
「やって欲しい事……」
「ダンテくん、君はすごーく頑張り屋さんだと聞いている。だから言おう、伴侶達が望む以上の事をしずぎると、君が潰れるよ」
「……」
「僕は十人伴侶がいるからさ、十人が計画的に子作りしたから君とはちょっと立場が違う」
「確かに、そう、ですね」
「君の所は四人の伴侶が子どもを欲しがって、君が根負けして四人全員が同時に妊娠した」
「はい……」
「だからこそ、君は限度を超えちゃいけない。君の体は一つなんだから」
「……」
「まぁ、納得いかないところもあるだろうけど、君は君の体も大事にしないといけない、子育ては大変なんだから」
「はい……」
ヴァレンテ陛下の言葉が納得できるようでできない箇所が多々あった。
親は子どものために何かしないといけない存在だ。
などと、考えてふと思った。
──ヴァレンテ陛下子どもの教育に悪いって言われてなかったか──
──もしかしてだから嫌がる事をしないなのか?──
「あ、その顔僕が子どもの教育に悪いって言われてるの想像してるでしょう?」
ヴァレンテ陛下に指摘されてぎくりとなる。
「うん、確かに僕は教育に悪いところもあるよ」
ヴァレンテ陛下事実だって認めてるー!!
「でも、それとこれとは話がちょっと違ってくる、まだ小さな赤ん坊と産んだばかりの伴侶は大切にする。授乳もかわりの道具が開発されてるしね」
「……」
「オムツ替えだってそうさ、そういうことは僕もちゃんとやったよ。子ども達全員」
嘘はついてなさそうだ。
「ダンテ、君はまだ若い。その上子どもも多くなると思う」
「はぁ……」
「そのときはまた僕に話しを聞きにくればいい、教育に悪いとか言われているけど、親としての責務を果たしてる僕にね」
「……はぁ」
と返事をするしかなかった。
「やっぱり一気に四人と子作りするのは大変なんだなぁ」
一人部屋で休みながら愚痴る。
「ダンテ殿下、当たり前ですよ」
「だよなぁ」
フィレンツォのツッコミにボケを返す気力もない。
「ダンテ様、貴方様の選んだ道だからという事で自分は無理をしなければならないというのはやめてください」
「……うん」
「貴方様にはその傾向が強くあります、そして一時収まったその傾向はまた強くなりつつあります」
フィレンツォの言う通りだ。
「……ですから、また私がしっかりと監視させていただきます」
「ははは……お手柔らかに」
空笑いを返すのが精一杯だった。
フィレンツォにどつかれてベッドにゴーを繰り返しつつも親としての仕事などをこなしているうちに、秋になった。
「ダンテ、破水した」
その日、カルミネは淡々と述べてきた。
「え?! ふぃ、フィレンツォー!!」
「いや、大丈夫自分で歩け──」
「今は絶対安静です!」
フィレンツォが以前のように芸術的に車椅子をもって滑り込んできた。
カルミネを車椅子に乗せて、フィレンツォと共に分娩室へゴーする。
「……」
「か、カルミネ、大丈夫、ですか」
「ああ、特にはな」
「あの……腕を」
「大丈夫だ、それに折りたくないしな」
カルミネはアルバートやクレメンテと違って冷静だった。
そして出産もすぽんと終わった。
びっくりするほど順調で早く終わったのだ。
「女の子か」
「名前は考えてますか?」
「ディアナだ」
「……私の頭文字から?」
「ああ」
少し気恥ずかしいが、生まれてきた可愛い私の娘ディアナ。
──君も幸せにね──
そしてここで問題が発生した。
エリアの精神が不安定になってしまったのだ。
皆が生まれているのに、自分の子だけ生まれない。
お腹の中で死んでしまったんではないだろうか。
それとも生まれてくるのが嫌なのだろうか。
とか、まぁ。
マイナス思考にぶっちぎって暗い表情を浮かべている。
他の皆の言葉が耳に入らない程、陰鬱になってしまっている。
「エリア」
こうなったら私の出番だ。
「だ、ダンテ、様」
エリアは私の顔を見てうつむいた。
「僕の赤ちゃんだけ生まれないんですまだ……」
「生まれないのが不安?」
エリアはこくりと頷いた。
「だって、もしかしたら死んじゃってるんじゃ──」
「大丈夫、生きてますよ貴方のお腹の中が居心地よくて出るのが嫌みたいです」
お腹を触って言う。
実際、赤ん坊は生きている。
エリアの胎内で、ゆっくりと魔力を蓄えながら育っている最中だ。
元々の魔力はエリアは四人の中で最も少ない。
その分赤ん坊は母胎に負担をかけないように魔力を吸い取っているのだ。
「きっと冬には生まれますよ」
「でも、冬を過ぎても生まれなかったら……!」
「大丈夫、おまじないをしますから」
そう言ってエリアの唇に私はキスをした。
魔力タンクである私の魔力をエリアの体の負担にならないように注ぐのだ。
しばらくキスをして解放すればぷはっとエリアは息をした。
「これで大丈夫です」
「ダンテ様……」
「エリア、大丈夫、元気な赤ん坊が生まれてきますよ」
「……はい」
エリアは漸く落ち着いたように、私にしなだれかかってきた。
私はエリアの髪を撫で、彼が眠るまで側にいた。
「ダンテ、すまない。私達ではどうにもできなくて」
ブルーナを抱えたクレメンテが私に謝る。
「いいんですよ、エリアの赤ん坊の生育状況もしれたので」
「ちゃんと育っているのか?」
不安げにカルミネがたずねる。
「はい、育っていますとも」
その言葉にほっとしていた。
「性別は?」
「そこは見てません」
「だよなー」
アルバートが当然のように言う。
見ちゃいけないものだから仕方ないのです。
「冬頃には生まれると思いますよ」
「そうか」
「そのときは皆で祝福してあげましょう」
「ああ」
「勿論だ」
「当然!」
私は冬が待ち遠しくなった。
早く生まれておいで、私とエリアの赤ちゃん──
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