無自覚の不調




「おはようダンテ」

 泣いて甘やかされてすっきりしたエドガルドが晴れやかな表情で私に言う。

「お早うございます、エドガルド」

 私は起きて、下着と衣服を身につける。

 エドガルドは先に身につけているようだった。

「ダンテ」

「どうしたんですエドガルド」

「お前の愛が枯れることはないだろうさ」

 エドガルドは笑ってそう言い、部屋を出て行った。


──どゆこと──

『少しふっきれただけだ、気にするな』

──なるほど──


 神様の言葉に納得しつつ、エドガルドの後を追うように部屋を出る。


「ダンテエドガルドはどうだった?」

 アルバートとカルミネに通路の途中で出くわす。

「やはり不安だったのでしょう」

「やっぱりな」

 アルバートが納得したように頷く。

「エドガルドは公式には比翼副王、伴侶ではないからな」

「そこはどうにもできませんからね……」

「でも、少し落ち着いたように見えたから安心したぜ」

「同感だ、エドガルドの不安は酷かったからな」

「お二人の目から見ても」

「というか全員の目から見てもだな」

 私はふぅと息を吐く。

 エドガルドは公では伴侶では無く、私の比翼副王だ。


 実際はエドガルドも伴侶扱いなのだが。


 公ではそれができないのが彼を苦しめていた。

 今も心のどこかに引っかかっている、軽くはなったとはいえ。

「上手くいかないものですね」

 私はため息をつく。

「何を言う、ダンテは自分ができる範囲で精一杯頑張っているだろう?」

「寧ろこれ以上頑張ってどうする」

 アルバートとカルミネが釘を刺すように言う。

「頑張りすぎですかね? 私」

 二人は頷いた。

「休んでるように見えて無理してるもんなー」

「フィレンツォから聞かされていたがここまでとは……」

 呆れた様に言われた。

「観光事態が負担になってるのに無自覚だしな」

「ああ、そうだな」


「と、いう訳で──」


 アルバートとカルミネに捕まれる。

 同時にエドガルドやエリア、クレメンテが姿を現した。


「しばらく別荘ここでゆっくりするぞ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」

「問答無用ー!」

 わーっと、全員が入れる部屋へと押し込まれる。


 そしてベッドにぼすんと横にさせられる。


「……」

「大丈夫大丈夫、したいけど、今はそういうのじゃないから」

 困惑した私に、アルバートは言った。

「部屋でゆっくりしよう」





 アルバートの言う通り部屋で全員でゆっくりとするだけだった。

 特産品の物はフィレンツォに買い出しに行かせて、持ってきて貰った。

 フィレンツォに申し訳なかったが、フィレンツォは──


『いえ、それも私の仕事ですので』


 と言った。

 皮肉でも無く、本心から。


 それくらい分かる付き合いだ。



 副王の仕事で疲れているエドガルドは私の側で横になり、うたた寝状態になっていて。

 エリアはその逆サイドでクレメンテと一緒に私にくっついていた。

 アルバートとカルミネは、この休憩が終わったら回る場所を探していた。


 なんか、色々と申し訳ない気分になった。


 ふぅと息を吐き天井を見る。

 しばらく天井を見ているとまぶたが重くなってきた。


 私はそれに応じるように目を閉じた──





『相変わらず、無理しがちだな』

「無自覚なんだからしかたないでしょう」

 神様に対して私はそう答えた。

『だが、周囲が気づいている、それだけでありがたいではないか』

「それなんですよね」

 私は息を吐き出す。

「ただその分申し訳ないというか……」

『こればっかりは改善するには時間がかかるからなぁ、二十二年以上かけて、やっとここまでだからな』

 呆れた様に言う神様に、私は頭が痛くなった。

「言っときますけど、エドガルドの件を細かく話さなかった神様も悪いんですからね」

 と言ってやると、鼻で笑われた。

『だから言っただろう、細かく話した方がお前には悪いがヘマをする率が高くなると』

「ちくせう」


 色々と見透かされているのでストレスになる今日この頃。


『お前はもっと周りを頼っていいのだ』

「と、言われましてもね……」


──次期国王が伴侶と副王頼りのへっぽこなのはどうかと思う──


『お前はそこまでではないだろう』

「と言いましても、政の勉強をした身としては……」

『お前の父も母に頼っているのだぞ』

「え、マジで」

『伴侶として色々と活動していたのはしっているな』

「それはまぁ」

『その中で国王を補助していたのだ』

「うへぇ」

 子育てもしつつ、父の面倒も見つつ、その上で民の為に行動していたとかすごすぎる。


『さて、ダンテ』

「なんですかい?」

『お前はどんな国王になりたいのだ?』

「……まぁ、父みたいな王ですかね。民に慕われる王様に」

『ならばより伴侶達を頼れ』

「でも……」

 エリアやエドガルドのように傷をまだ抱えている者もいる。

 傷?

 そんなものしりません的なクレメンテもいるが。


 クレメンテは割と心配な所がある。

 傷を抱えているのに、知らぬフリをして強がるから不安なのだ。


 王族故のプライドというよりも、私の伴侶になった事で傷を見ない振りしがちなのが不安で仕方ない。


『そこも踏まえての新婚旅行だ、しっかりフォローしつつ、無理はするなよ』

「なにその無理ゲー」

『何を言う、無理ゲーに近かったハーレムルートを見事「攻略」したのだぞお前は』

「神様の助言もあってですけどねー!」

 やけっぱちになって言う。

『だからこれからも助言はする、安心しろ』

「それならよかった」

『取りあえず今日はしばらくはゆっくり別荘で休めいいな』

「ふぁい」

 私はそう言うと視界が暗転した。





「……」

 目覚めると、カルミネとアルバート以外の三人はぐっすり私の側で眠っていた。

 私が起きようとすると、カルミネが止めた。

「もう少しだけ寝ていてくれ、三人が寝ているからな」

「分かりました」

「お前がゆっくりと休んでいるから三人も休めるんだ」

「……」

 どうやら私が無自覚に無理していると、三人も気が気でないようだ。

「分かったら、休んでくれ」

「ありがとうございます、そうします」

 そう言って私は再び目を閉じた。






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