エドガルドとの事
「エステータ王国は外は暑いですが施設などは涼しいですね」
「そうでなくては、民が暑さでやられてしまうからな」
アルバートの言葉に、そういえば前世の夏も暑くてエアコンがないとやってられない位だったはずと思い出した。
四季のある日本の酷暑っぷりを思い出して、心の中でグロッキーになる。
この世界も四季はあるし、暑い場所は暑いが家の作りなどでどの家も過ごしやすいようにはなっている。
スラムのような地区はない──けれど、平穏とは言いがたい。
プリマヴェーラの件とか。
完全に平和ではないこの世界。
仕方ないだろう、完全な平和などどこにもない。
個人の自由がある限り。
──その自由を私は愛しているから、その自由を残したまま、私はこの不完全な世界をよりよくする方法が無いか考えるだけ──
だが、それはずっと後の話。
まだ国王にならないのだ、というかなりたくない。
「ダンテ、そんなに今はまだ国王になりたくないか」
エドガルドに指摘され、私は目を丸くする。
「顔に出てました?」
「ああ、出ていた」
「なりたくないというか、なってやっていく自信がまだないのもあるんですよ」
「父上を見ればお前でもやっていけると思うぞ?」
「あれは母上がいるからでしょう?」
「まぁ、確かにな」
私はふぅと息を吐く。
「正直当分は皆さんとともにゆっくりと過ごしつつ王として自分はどうあるべきか、どうなりたいかを考えたいんです」
「……そうか」
「ただ父上が母上といちゃつきたいと駄々こねて退位しそうで怖いんですよ」
「「「「あー……」」」」
私の発言にエリア以外の四人が納得の声を発する。
「ご安心をダンテ様」
「何を?」
「そんな事したらリディア様にボコられるじゃすみませんから」
「デスヨネー」
フィレンツォの言葉に遠い目をする。
あの御祖母様が何もしない訳がないし、母上も母上で何もしないはずがない。
よって父上が駄々こねて退位はあり得ない。
それ以外の何か不慮の事故による退位はあり得そうだが、あの父上だ、まずない。
「父上は本当に母上を溺愛しすぎている」
「ああ、そうだな」
エドガルドと私はそろって頷く。
表向きには良き夫婦に見えるが、実際は父が母を愛しすぎている所がある。
幼少時とか、父が母の事で自慢をしなかった事はない。
それを考えると、エドガルドが私への感情をこじらせた件は父も原因があるのではないかと思ってしまう。
──つーか絶対そうだよな──
『まぁ、一理ある』
──デスヨネー──
神様と軽く会話をして、そして戻ってふぅと息を吐く。
「もしかしてアレか、エドガルドが何かこじらせてたのに影響与えてたのって二人の父君もなのか?」
アルバートが口を出してくる。
「……今考えると否定できないですね」
「なるほど……」
結果毒もあって愛をこじらせて、私を強姦しよう何てことをしようとした──何てことはしゃべれない。
あの出来事は私とエドガルドだけでいい。
「そういやエドガルド」
「何だ」
「何でお前性的行為に嫌悪とか示してたんだ?」
「……」
「アルバート、言いたくないこともあるでしょう」
私はアルバートをたしなめる。
「それに、兄は執事に裏切られて女性との性行為をさせられそうになったことも喋っていると聞いてます、おそらくそれでしょう」
「あーそういやそうだな。すまない」
「いや……いい」
エドガルドはそう述べて、私に近寄り囁いた。
「すまない」
エドガルドの言葉に私は小声で返す。
「いいんですよ」
本当、未遂だったし、当時のエドガルドは精神毒の所為でおかしかった。
その結果あのような行為をしようとしたのもある。
だから私はエドガルドを責めることはしない。
──が、言いたいことは山ほどある──
全員幸せにするもといエドガルドを自死させない為には強姦阻止ルート以外無いという現実の無情さ。
その為にエドガルドは苦しい思いをし続けたという事に関する申し訳なさ。
どうすればいいのか分からないが、エドガルドを苦しめたのは毒もあるが私自身なのだ。
愛故に思い詰めて、苦しみ抜いて、苦しみを吐き出せず。
それを強いたのだ。
自死と愛故の苦しみ。
二択のうち私は後者を選択したのだ。
事情を詳しく知らぬとはいえ、知らされなかったとはいえそちらを選択したのだ。
鬼と呼ばれても仕方ないと我ながら思った。
この世界に鬼とかそういうのはいないから酷い最低とか言われても仕方ないが。
エドガルド。
私の愛おしい兄君。
公式に伴侶になることのない存在。
その体に私の子を宿せない存在。
他の伴侶とは異なる「伴侶」。
私の愛しい人の一人──
比翼副王という公式の立場で。
私の伴侶扱いではないエドガルド。
それでいいといいながら、それで満足ができない。
仕方ないと思う。
エドガルドの立場は愛人のようなものだ。
公式に伴侶と認められない。
それがエドガルドの心を歪ませた。
伴侶と認められない、愛されない、そう思い込んだエドガルドは強行しようとした。
ゲーム中のエドガルドは主人公を犯して他の誰かを見ないようにさせてきた。
結果エンディングでは自死や殺されたりする結末に至る。
愛していることを言うことも無いまま。
──まぁ、それもないんですけどね今は!──
自室でゆっくりとベッドの上で考えていた。
そんな事もあり、エドガルドはトラブルメーカーなところがある。
愛されているはずなのに、他の四人と違う。
それこそがエドガルドの心に影を落とす原因なのだ。
──でもとれる気がしない──
結婚してからより、それが顕著になって結果カルミネがたしなめる役になっている。
同い年だが、精神的に大人びているカルミネの存在に私は安心する。
ノック音が聞こえた、エドガルドだ。
「どうぞ」
「……ちゃんと他の四人の許可は取ったぞ……」
「分かりました」
エドガルドは、ベッドの上に乗っかり、私に抱きつく。
「……やはり怖いのだ」
「怖いのですか、私の愛が貴方に注がれなくなることが」
「……」
エドガルドはこくりと頷いた。
「大丈夫です、エドガルド。私は貴方を愛するとあの日決めたのです。その愛が枯れるのであれば、いっそ私を殺してくださって構いません」
「!?」
「女神インヴェルノに誓いましょう」
微笑んでそう言うと、エドガルドは破顔し、泣き始めた。
私はそっと優しく、泣く彼を慰め続けました──
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