性格改善~今更ながら~




「はい? パーティに参加して欲しいと?」

「そのようです」

 ジラソーレ伯爵から、息子の件が完全に片付いていないから、息子の跡継ぎの地位を盤石にする為に非常に失礼であるけれども、どうか参加して欲しいと来た。


 無視するのも手だが、ロザリアさんが可哀想なことになりそうなので参加することにした。


 聞いた話、ロザリアさんはジラソーレ伯爵の跡継ぎとの婚約者という特殊な立場であるため、ベネデットが跡継ぎで無くなるとその婚約は解消されてしまう。

 今までの所業から解消されてしまえと思わなくもないが、ロザリアさんはベネデットを愛している。

 ダメなところもひっくるめて。

 それを引き離すのはどうかと思うので──


「ロザリアさんの為です、参加しましょう」

「ベネデットの為では無いんだな」

「ロザリアさんはベネデットを愛していますから」

「それなーロザリア、ベネデットのダメなところ含めて愛してるってのがねー」

 アルバートが疲れたようにため息をつく。

「ダメなところを含めてと言うか何と言うか、まぁそういうのがな」

 カルミネが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。

「ただ、ちょっと嫌な予感がするので私とエドガルド、カルミネとフィレンツォの四名で行こうと思います」

「え、ちょっと俺は!?」

「クレメンテとエリアの念入りの護衛です。お二人よりも強いでしょう?」

「ぐむむ」

「そうだ、アルバート。お前は話を引っかき回すからな、だから留守番だ」

「ところで、エリアとクレメンテは?」

「違う国の方に何か起きたら外交問題になりかねませんから」

「既にお前達の時点で外交問題な気がするんだが……」

 カルミネの言葉に私は苦笑して返した。



「──来て下さったのですね」

「ジラソーレ伯爵殿お招き下さりありがとうございます」

「いえ、礼を言うのはこちらです……!」

 深々と頭を下げる姿。

 何度見てもいい気はしない、学生時代何度見たことか。


 事情は違えど、親が子どもの不始末を大きくなってまでしなければならないとはなんともいいかがたい。


「会場はこちらになります」

 ジラソーレ伯爵の案内でパーティー会場へとたどり着く。

 かなりの人数の客人達が一気にこちらを向いた。



「ダンテ殿下、お忙しい中……」

「いいえ、ロザリアさん達の頼みであれば」

 そう答えて微笑み返す。

 エドガルドが不服そうに私の服をつまんでいるとカルミネがそれをやんわりとやめさせた。


「他の方々は?」

「馴れない環境に疲れてしまっているので休みです。アルバートはその二人の付添、カルミネとこちらに来ました」

 私がそう言うとロザリアさんは安心したような表情を見せた。


 多分彼女もアルバートが問題を大きくしてしまうのを危惧していたのだろう。


 ロザリアさんの背後には、ベネデットが不服そうにしている。

「ベネデット、君は相変わらず表情筋が硬いね」

「余計なお世話です、ダンテ殿下」

 普段とは違うが、そこそこ丁寧にベネデットは返してきた。

 むすっとした顔は相変わらずだが。

「ベネデット?」

「!?」

 ロザリアさんが他の人に見えないように手をつまんでいる。

 かなり痛そうだ、赤くなっているし。


「ダンテ殿下は旅行中に来て下さったのよ、歓迎の言葉くらいいわなければ」

「そ、そうだな。だ、ダンテ殿下。来て下さり、感謝致します」

「いいえ」

 ベネデットの使い方を覚えたらしいロザリアさんがこちらにふふっと微笑んできたので、私も微笑み返す。


 パーティは滞りなく進んでいった。


「では、次期ジラソーレ伯はベネデット──」

 次期当主の指名の際、会場が薄暗くなった。

 対魔術ガラスをぶち破って、黒ずくめの集団が入ってくる。

「フィレンツォ、エドガルドとカルミネをお願いします」

「承知致しました」

 私はそう言って集団に向かっていく。

 集団はベネデットに向かっているのでこちらには来ていない。


 無詠唱の魔術で雷撃で集団のみを麻痺させる。


「後のことはお任せして宜しいですか、ジラソーレ伯爵殿?」

 集団を無効化したことで、私はそろそろ部外者になりたかった。

 今回の件に関しては。





 結論から言うと、ベネデットの能力はともかく、性格がすこぶる悪いため次期党首にしたくない勢がベネデットを狙って起こした事件らしい。

 今回の件で、さすがにベネデットもロザリアさんを自分が原因で危険に巻き込んだこともあり、かなり角が取れたようだ。


 あの事件のあとあったベネデットには今までの行為を謝罪された。


 が、私は気にしてないと返した。


──あれがなかったら張り合いもなかっただろうしね──


 別にいなくても何とかしていただろうが、色々と気づきも得られたし、私の方では万々歳だ。





「あのベネデットから謝罪が来るとは思わなかったですね」

 私は苦笑いを浮かべながら屋敷のリビングでくつろぐ。

「今回の件が無かったら一生ダンテへの態度がアレなのを考えればあって良かったな」

 アルバートの言葉に、私以外の全員が頷いた。

「結構あの噛みついてくるの面白かったのですが」

「面白い?」

「ダンテ頭は確かか?」

「平常ですよ、私の性格が悪いだけです」

 くすりと私は笑って言う。

「だって、勝てない相手に噛みついてくるのは子どもの相手をするようで楽しいじゃないですか」

「あ、割とダンテ性格悪かったのか」

「今知りました?」

「いや、薄々気づいてた」

「ならいいでしょう?」

 くすくすと笑う。

 エリアだけ、あわあわとしてて、可愛らしい。

 他の皆も可愛らしいが。

「エリア、そんなにびくつかなくても大丈夫ですよ」

「そうですよ、エリア」

「は、はい……」

 微笑んでみれば安心したような表情を浮かべる。


「とにかく、私は疲れました」


 肉体的な疲労感は少ないが、精神的な疲労感は結構あるので起き上がり自室へと行こうとする。

「じゃあ、俺達が抱き枕になろうか?」

 アルバートとカルミネがそう言うと、私はまぁそれでは終わらないだろうと思いつつも──

「ええ、お願いします」

 了承して、アルバートとカルミネの二人とともに自室へと向かう。



 結果だが、アルバートとカルミネの二人にたっぷりと奉仕されて、ぐっすりと眠った。



 搾り取られるのとは別なので、割とすっきりと次の日起きれた。

 まぁ、次の日他の三人がどうすれば私にそうできるかと内緒話をしていたが聞こえないふりをして新聞を読み続けた。


 新聞の見出しはベネデットの件。


 性格改善とか大きく書かれていた。

 この国でも、ベネデットの性格のアレ加減は周知の事だったのだろう。


 ふぁ、とあくびをして新聞をたたんでソファーに寝そべる。

 今日は惰眠を貪ろう、そう思って。






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