花畑の花に似て




「二人だけずるいぞ」

「そうだな、ずるいなぁ」

「お願いだからその話は後にしてください、アルバートにカルミネ。今日はトゥリパの花畑に行くんですから」

 昨日こっそり二人で私を搾り取りに来たクレメンテとエドガルドに、文句を言う二人。

「だからだよ」

「はい?」

「こういう時はエリアを優先すべきなんだよ。いつも引っ込み思案だから、しかも今は主役だ。だからエリアを後にした二人はずるい」

「……すまない」

「すみません……」

 どうやらエリアの事を気遣って「ずるい」と言っているのが分かった。

 確かに、エリアは引っ込み思案だし、積極的でもない。

 それもそうだ、そういう虐待を受けてきたのだから。

「ぼ、僕は、気にして、ません……から」

「気にしてるだろ、ほら、いつも目をそらして。目をそらしてる時は気にしてるんだろ!」

 アルバートがエリアの顔を手で包むようにしてから、じっと見つめている。

「……エリア、貴方が嫌でなければ、今日は一緒に、どうですか?」

「い、嫌じゃ、ないです……!」

 誘えば嬉しそうに応えてくれるのが幸いする。

「二人はここに居る間はいいのですか?」

「ここに居る間はエリアを優先すると決めたからなぁ」

「で、決めた矢先に二人がやっちまったからな」

「「……」」

「はい、あまり二人を責めないでください。二人も二人で色々思うところあったんです」

「わかったよ」

「すまんな、意地悪して」

「やっぱり意地悪してたんですか」

「はははは、エドガルドとクレメンテは両方とも精神が子どもっぽいからな、つい」

 カルミネが楽しそうに笑うと、エドガルドとクレメンテは顔を見合わせていた。

「とりあえず、この話は一端やめにしてトゥリパの花畑に向かいますよ」

 何とか話を中断させて、花畑に行く準備をする。



「──これは見事ですね」

 一面のトゥリパ基チューリップの花畑。

 様々な形色種類豊富に咲いている。

「綺麗……これがお母様が一番好きだった景色……」

「エリア……」

 エリアは涙をこぼして鳴き始めた。

「すみません……涙が……止まらないんです……」

「いいんですよ、エリア」

 私はハンカチを渡す。

「すみません、ダンテ様……」

 エリアは涙を拭いながら言う。

「お母様が生きてたら……僕は」

「エリア、貴方はお母さんがもっとこの景色をみれられ無かった事を自分の所為にしてますね?」

 私の言葉にエリアは黙り込む。

「カリオさんからの話や情報をちゃんと見ましたか、妊娠自体は望まれないものだったけど、貴方は確かに貴方のお母様に、愛され、望まれて生まれてきたのです。だからお母様は貴方に名前をつけた、エリアという美しい名を」

「ダンテ様……」

「だから自分を卑下しないでくださいね?」

「……はい」

「そうだぞエリア、お前はダンテの伴侶なのだ、もう少し自信を持て」

 エドガルドが言う。

 エドガルドは公式的には伴侶ではなく比翼副王なので、そういう風に励ますのは理由があるからだ。

「は、はい……!」

「あのエドガルドがああ言ってるんだ、エリア。もうちょい自信持とうぜ」

 アルバートが明るくエリアの肩を軽く叩く。

 エリアは少し縮こまった。

「アルバート」

 カルミネが叱るようにアルバートの名前を呼ぶ。

「ああ、すまない」

 エリアは暴力行為も受けていた為、叩かれる感触だけでも今も苦手なのだ。

「わ、悪いのは、ぼ、僕、ですから……」

「いいや、悪いのはアルバートだ。お前がそういうのが苦手なのを知ってたのにうっかりやったコイツが悪い」

「ああ、俺が悪い、すまなかったエリア」

「そ、その……」

 狼狽えるエリアに、私はそっと手を握って言う。

「ごめんなさいとかすみませんばかりはあまり良くないですね、気遣ってくれてありがとう、とかそういう風なのがいいでしょう」

「き、気遣ってくださり、ありがとうございます……」

 おずおずと言うエリアに、カルミネが微笑んだ。

「どういたしまして」

「──無理をせず、少しずついきましょうね」

「はい……!」

 漸く落ち着いてくれたエリアにほっとしながら花畑を散策する。


 やはり、形とか匂いもチューリップだなぁと思いながら歩き回る。

 すると開けた場所で前世でいう民族衣装を着て踊っている女性達がいた。

 軽やかに踊る彼女らに、皆が拍手をおくり、鞄の中にお金を入れている。

「ダンテ殿下、この人数なら銀貨1枚か銅貨10枚でも十分ですよ」

「わかったよ」

 そう言って私は銀貨を鞄の中に入れた。

「もしかして貴方様は」

「ダンテ殿下?」

 女性達が私に小声で声をかけてきた。

 私はしーっと秘密にするような仕草をして微笑むと、彼女達は喜色満面になり、さらに楽しそうに踊って見せた。

「ダンテ様の天然タラシ」

「やめてくれないかな?」

 フィレンツォの言葉に私は即座に拒否反応を示す。

 別にその気は全くないし、彼女達の踊りが素敵だから見てみたいだけだった。


「踊りと言えば、三つの学院総合でダンスパーティがありましたよね」


 私が思い出すように呟くと、フィレンツォも頷いた。

「ええ、最初にどなたがダンテ様と踊りになられるのかでもめにもめましたよね」

「あー……」

 と、学院の事を思い出す。

 三年の時にあったダンスパーティ。

 婚約者がもういるから他の人と踊る気は無かったが、誰と最初に踊るかで前日までもめにもめた。

 エドガルドは参加できないのでふてくされていたので後で二人きりで踊るので何とか機嫌を取った覚えがある。


 もめた理由は全員が他者を踊らせるのの譲り合いだった。


 最終的に、王族だからクレメンテが最初で、次にエリア、アルバート、カルミネの順で踊った。


 ダンスの練習はインヴェルノ王国に居たときにやっていた。

 正直神様が援助してくれなかったら私はまともに踊れていなかったと思う。

 それくらい、私はダンスのセンスが前世は無かった。


──いや、一般人が社交ダンスの経験する人なんてそうそうないぞ?!──


 社交ダンスなんてものは一般的ではない、いや趣味でする人はいるけれども──まぁ、そうそう居ない、社交ダンスをする人も。


 キャンプファイヤーで囲んでダンスする位しか経験の無い私には少々ハードルが高すぎたので神様がその「センス」を組み込んで体がそのように動くよう補助してくれた。

 おかげで誰にも恥をかかせずにすんだ。





『人間どうしようもならない場合があるからなぁ』

──本当ですよ──

『まぁ、私がついているんだ、安心しろ』

──本当頼みますよ、神様──





 神様とのやりとりを終えて、戻り皆を見る。

 何か話し始めている。


 ちょっと嫌な予感を感じつつ、私は聞かないことにした。

 神様も何もいってこねぇし。


「──では皆さん、花畑をもう一度巡りましょうか?」

「ああ」

「は、はい」

「わかりました」

「ああ、分かった」

「勿論だ」

 ガヤガヤと花畑を巡りながらどの花が皆に似ているかなど話してみたら、意外に食いつきが良く、あれこれと話合うことができた。





 ちなみに、夜、エリアが女性達の着ていた服を身につけて寝室に訪れて、そのままいたそうとしたのは私が原因だと思われる。








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