亡き母を思う君
旅行の計画は決まった。
春にプリマヴェーラ王国、夏にエステータ王国、秋にアウトゥンノ王国をめぐるというものだが、今は冬、なので此処――インヴェルノ王国でゆっくりしようという話になった。
「さて、ゆっくりすると行っても何をするべきでしょうか……」
ベッドに横になったまま、静かに情報魔法で作られた本──SF的に言えば、空中に浮いているモニター見たいな物に触れて、次のページへ行く、そんな書物を目に通す。
内容は、プリマヴェーラ王国の旅行本だ。
「申し訳ございません、ぼ、僕、そういうわからなくて……」
「エリア、別に貴方を責めたくて本を読んでいる訳ではないですよ」
「そうだ、エリア。お前は自分を卑下しすぎだ」
今日は一緒に寝るのは、エドガルドとエリアなので、二人は両脇で、空中に浮いている本を見ながら、そうやりとりをする。
寝ると言ってもセックスする訳ではなく、ただ本当に一緒に寝るだけだ。
「エリアが行きたい場所はありませんか?」
「あ……そ、それなら、トゥリパの花畑に行きたいです……」
「トゥリパの花畑?」
私はちょんと本をつつくと、そのページが開かれた。
花の形状を見る限り、チューリップっぽい花だ。
色とりどりのチューリップの様な花が咲き誇る花畑で、春のプリマヴェーラの人気スポットの一つらしい。
「いいですね、ところでどうしてここを?」
「……カリオおじ様から……ぼ、僕の本当の……お母様が……一番好きだった場所……らしいです……」
「エリア……」
少し泣きそうなエリアの頭を撫でて抱き寄せる。
「僕、見たこと、ないんです。本当のお母様の顔も、だから……」
「だから、一番好きだった場所にだけでも行ってみたいんです……」
「エドガルド」
私はエドガルドの方を見ると、彼は頷いた。
「ああ、決まったな」
「な、何ですか?」
理解していないエリアに、私はしっかりと言う。
「エリア、貴方のお母様の事を調べましょう、プリマヴェーラに行くまでに、そしてお母様の何かが残っていないか調べて貰いましょう?」
「……!」
「ご両親を亡くして、カリオさんに頼ってきた貴方のお母様がどういう方だったのか私ももっと知りたいのです」
「あ、ありがとうございます……!」
エリアは涙を流して、何度も私にお礼を言った。
──エリアのお母さんってどんな人なんだろう?──
『調べるよう頼んでみるといい、残っているはずだ』
──了解です──
神様の言葉に私はそう返した。
「……」
翌日、私は机に向かって手紙を書いていた。
内容はプリマヴェーラ王国国王、ヴァレンテ陛下宛だ。
エリアの実母について調べて欲しいと言うお願いと、春になったらプリマヴェーラ王国を伺います、という内容を書いている。
「よし、これでいい、と」
少しでも、できるところから始めたい。
現在カリオさんはヴァレンテ陛下のところにいる。
王族の従者としての教養等をたたき込まれている最中らしい。
クレメンテの従者をしていたブリジッタさんはここにいて、フィレンツォの手伝いをしているけれども、エリアの世話役だったカリオさんは立場が違うのでまだここにはこれないらしい。
それならば、ちょうどいいと思った。
ヴァレンテ陛下にカリオさんに事情聴取もとい、エリアのお母さんの話を聞き出して欲しいと思ったのだ。
封筒に入れて封蝋をして印璽を押す。
「よし、フィレンツォ。これをヴァレンテ陛下に」
「かしこまりました、ダンテ様」
フィレンツォはそう言って部屋を出て行った。
一人になった部屋で私はのびをする。
ちらりと外を見ると、春の兆しが見えていた。
雪解けと暖かな日差し。
「もう冬もうじき終わりか」
一人そう呟く。
冬が終わる前には、エリアのお母さんの情報が来るだろうと思いながら、外を眺めた。
一週間後──
ヴァレンテ陛下からの手紙が来た。
割と分厚い。
リビングに集合して私達は手紙の封を切る。
一枚の身分証明書類が入っていた。
『アリーチェ・リッラ』
と、名前が書かれた女性は──エリアと瓜二つと言っていいほどそっくりだった。
「この人が……僕の……本当の……お母様?」
「──エリア……」
エリアは身分証明書類の写真に釘付けになっている。
私はそれ以外の資料に目を通すことにした。
資料を読んだ結果、エリアのお母さんである彼女は、天涯孤独となった後、色々求婚されたそうだが「道具として利用されそうな予感がした」と思い、父母の残した手紙を元にカリオさんを頼ったそうだ。
元々体が強くないと書かれていた彼女だ、どちらにせよ、早死には確定だろう。
これはヴァレンテ陛下が即位するほんの少し前の話なので、今は違うらしい。
もう少し早くヴァレンテ陛下が即位してくれればと思わないでもない。
国毎に、家庭や文化などが違うが、プリマヴェーラ王国は以前は女性は「家を守り、子どもを産む」に重きを置いていたが、現在は「性別関係なく家の事はしやがれ馬鹿野郎!」とヴァレンテ陛下のお言葉で変わってきているらしい。
ヴァレンテ陛下も子どもが可愛くて仕方ないから、子育てをしたいが伴侶達に「教育に悪い」としょっちゅうたしなめられているとぼやきがあった。
──そりゃ、アンタは教育に悪い部分あるわな──
とは思うがそう言うつもりはない。
陛下の伴侶方々からの手紙から、ヴァレンテ陛下は人を信用しすぎるところがある。
お人好しすぎるところがある。
その結果、今回の事態が起きた。
だから、次回以降起きないように、今対策を練っている最中。
今回の件を公にしてくれた事を感謝する。
との内容が書かれた手紙と最後に──
『うちの「馬鹿」が貴方を口説いてごめんなさい』
とあった。
それに私は苦笑いをしそうになったが堪えた、褒めて欲しい。
エリアの方を見れば、彼は泣いていた。
嗚咽をこぼしながら泣き続けていた。
「お母様、お母様……!!」
いろんな感情が交じり合った声、痛々しい声だった。
私はエリアを抱き寄せ、髪を撫でた。
エリアが私に抱きつき、私にすがるように泣きじゃくり始めた。
──どうして
『まぁ、あの時ここまで明かすのはちょっと時期尚早だったのでな』
──どうにかできなかったの?──
『お前がスパダリならな』
──ちくせう、私のせいかよ──
慈悲深くで意地悪な神様に悪態をつくしかできなかった。
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