第3話
酔った足取りでアーケードの終わりまで行ってみると、また雨が降っていた。
一組の酔っ払いは、雨の中を傘もささずに歩き回った。
お互い身体が火照っていたし、感覚もなくなっていたから、濡れることなど何でもない。
隣で一緒に濡れている女とは、口を利くのものも大儀なくせに、同じものを見ていたかった。
やがて雨が止み、酔いも醒める頃、ユキナがぽつんと言った。
「もう帰ろうか」
「どこへ」
「あなたの部屋へ」
街灯の白い明かりが、すっかりしゃんとなった彼女の横顔を照らしている。
いつだったか、市役所勤めの丸井と呑んで言い争いになった時、奴は言ったっけ。
「そんなに他人の顔色が大事かよ。みんな自分にかまけてストレスまみれになって、いつか歳だけくって、ボケて何もわからなくなっちまうんだ」
だけど、今こうして女と寝ている時、さっき兄に熱い声援を送るユキナを網膜に焼き付けていた時、僕は確かに力を与えられていると実感せずにいられない。
何のための力なんだよ。
ユキナは安らかな寝息を立て、もうスヤスヤ眠っていた。
うっすらと開いて何かを呟くような小ぶりな唇は、明日は誰に、何を喋るのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます