第3話

 酔った足取りでアーケードの終わりまで行ってみると、また雨が降っていた。


 一組の酔っ払いは、雨の中を傘もささずに歩き回った。


 お互い身体が火照っていたし、感覚もなくなっていたから、濡れることなど何でもない。


 隣で一緒に濡れている女とは、口を利くのものも大儀なくせに、同じものを見ていたかった。


 やがて雨が止み、酔いも醒める頃、ユキナがぽつんと言った。


「もう帰ろうか」


「どこへ」


「あなたの部屋へ」


 街灯の白い明かりが、すっかりしゃんとなった彼女の横顔を照らしている。


 いつだったか、市役所勤めの丸井と呑んで言い争いになった時、奴は言ったっけ。


「そんなに他人の顔色が大事かよ。みんな自分にかまけてストレスまみれになって、いつか歳だけくって、ボケて何もわからなくなっちまうんだ」


 だけど、今こうして女と寝ている時、さっき兄に熱い声援を送るユキナを網膜に焼き付けていた時、僕は確かに力を与えられていると実感せずにいられない。


 何のための力なんだよ。


 ユキナは安らかな寝息を立て、もうスヤスヤ眠っていた。


 うっすらと開いて何かを呟くような小ぶりな唇は、明日は誰に、何を喋るのだろう。

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