第22話 牛乳
夢の中で私が牛の胃の中に入ってしまってそこから出られなくなってしまったのは、たぶん覚醒時に私が牛乳ばかり飲んでいたからだろうと思う。私の父親は金遣いが荒く母とも仲が悪く、生活力のない人だったが、毎朝牛乳をバイクで配達する仕事をしていて、夜家に帰ると母と私たち(兄、姉、私)を口汚く罵った。けどそんな日々もいつかは終わるもので、父と母はすぐに離婚した。私は大人になってからも牛乳は好きだったが父のことは好きになれなかった。ある日私が法律事務所の仕事から帰ってシャワーを浴びてからベッドにもぐると、枕の中身が牛の骨だらけだった。サイドテーブルに蟻のように小さくなった父がいて、こう言った。「私の子よ、私のことを嫌わないでくれ。牛乳も嫌わないでくれ。いろいろ迷惑はかけたが、言いたいことはそれだけだ。」そして枕の中の骨をすべて捨てたあとに私は眠った。そして私は夢の中で牛の胃の中から出られなくなった。幽閉されたラプンツェルのように。だけど私はこれからも牛乳は大好きだろうし、亡くなった父のことは好きにはなれないだろう。グエエ、モオオ、と牛が一聲鳴いてもそれは変わらない。なんにも知らないみたいに牧場の草が揺れた。私はいつまでもこの暖かい牛の胃の中にいられたらなぁ、と思って目を開けたらベッドで目が覚めた。朝日が窓から差していてなんとなく父を許せるような気がした。
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