第19話 散歩

 私は三文文士である。皆からそう呼ばれているので、私はそう名乗ることにしている。だいたい20年くらい村人からそう呼ばれているので、今ではすっかり慣れてしまった。三文文士は、その月光の煌々と燦めく夜に、近所を散歩することにした。畑、雑草。虫の声。畦道。狼のような鳴き声。なかなか悪くない涼しい夜だ。しばらく三文文士は歩いていると、畑の中に何かがあるのを見つけた.......生首だ!!!!いや本当に生首だろうか。西瓜やキャベツと混同していないか。近寄って眼鏡をかけて見たが、どうみても生首である。三文文士、こういう時はどうする、と三文文士は自分で言ってみたが、酷く動揺しているのでとりあえずチョッキのポケットから煙草を取り出した。箱から一本。ライターを点け...と、自分の頭が無いことに気がついた。三文文士の頭はすっかり消えていた。どうりで歩いていて身体が軽くてスースーしていた。月影が震え、夜風が吹いた。三文文士は畑に置き忘れられていた生首が自分の頭部であると気がづいたが、どうともないように散歩を続けた。それが紳士的であるかのように。また夜風が吹いた。


「俺は三文文士...俺は三文文士.....」


三文文士として、三文文士なりに、三文文士的に首のない生活をこれから樹立せねばならなかったが、三文文士はどうすればいいかわからなかった。頭部を自分で縫合するのは三文文士的になかなかプライドが許せないし、そんなことをすれば一階級下の四文文士になってしまう。それどころか五文文士だ。「首がない!?」と叫んだ後には、「頭部が!?」と訂正した。三文文士は三文文士として三文文士なりにこれからを三文文士として生きていかなければならないなぜならそれは三文文士だからであり皆が三文文士と呼んだからつまりは三文の文士というわけで二つが一緒になって三文文士になったそれが三文文士みんなの三文文士こころの三文文士またもや三文文士あああもう疲れた三文文士なんて辞めてしまいたい月影が震えている。

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