第42話

 アーミャ達は月の雲海に来ていた。


『…ふかふか』


『もふもふ、きもちい』


「ふかふかでもふもふできもちいみゃ~」


 二匹の気がすむまで旅をすることにした。気持ちの整理なんてすぐにはできない。時間が経てばトールが居なくて寂しいと思うはずだ。


 二匹が帰りたいと思ったらあの黒い穴が出てくるのかはわからない。もしかしたらこの世界のどこかに移動しているかもしれない。


 だから旅をしている。というのは建前で、ルカとテトと一緒にいるとボクが楽しいだけだったりする。


 トールには悪いけど、このままルカとテトとずっと一緒に旅をするのもいいかも。


 あの雲の形、鮭に似ている気がする…


 なんだか鮭のムニエルが食べたくなってきた。ボク達は一人と二匹で夕方まで雲海のベッドでお昼寝をした。


〘なんか、こういうのいいな…〙


「…んみゃ?」


 うたた寝をしていると、どこかから黒い穴の中から聞こえてきたトールの声が聞こえた。キョロキョロと探してみても、黒い穴はどこにもない。空耳だったようだ。ガックリと肩を落とす。


 でも、なんだか…


 声を聞いたら胸の奥が温かくなるような感じがした。なんとなく、ボクを操作していたのはトールなのかもしれないと思った。


『…おなか…へった』


「ルカ、もうカリカリはないみゃ」


 所持品欄にはもうカリカリは残ってない。あとはみゃ~るが数本だけ。


「みゃ~るでもいいかみゃ?」


『みゃ~る! みゃ~る!』


『みゃ~るは、おやつ』


 みゃ~るを開けるとすぐにルカがペロペロと舐めはじめた。おやつと言いつつも、テトもお腹が空いていたのかみゃ〜るを嬉しそうに舐める。


 みゃ〜るはルカとテトのためにトールが置いていったもの。今まで我慢していたけど、いい匂いがしてきて一口食べてみたい。二匹と仲良くなったと思うから、少しくらい分けてくれないかな。


「ルカ、テト、ボクもみゃ〜るを少し食べて…」


『『だめ』』


「…みた…かったみゃあ」


 あはは、残念。


 まだそこまで仲良くなっていないらしい。この分だと所持品のみゃ~るも一口も味見はできないだろう。


 転移の石を使って町に戻ると、ダラの町の料理屋に行った。前に来たときは家族経営だったから必ず誰かがいると思って。


『…おなか…へった』


『もう、うごけない』


 ルカとテトはみゃ~るを食べてもお腹がいっぱいになることはなかった。


「ここも、誰もいないみゃあ…」


 人が居るはずだった料理屋には誰も居なかった。働いているはずの店員も食事をしているお客も誰一人いない。


『…たべもの…におい!』


『たべもの、ある!』


「あっ! ちょっと待つみゃ!!」


 ルカとテトは店内に入ると、料理の匂いを嗅いでカウンターの下を潜り、厨房へ走った。慌てて追いかけると、火にかけられたフライパンの中にある鮭のムニエルに前足を伸ばしていた。


「勝手に食べるのはだめみゃ!」


『おなか、へった!』


「お腹が減っても勝手に食べるのはだめみゃ!」


『なんで、だめ?』


 お金を払って食べた方がおいしい。でも、改めて考えてみると、なんでダメなのかはわからない。


 ボクがうーん、うーんと悩んでいると、テトが皿に乗っている鮭のムニエルを見つけて食べはじめた。


「あっ、テト待つみゃ!」


 慌ててテトを両手で持ち上げると、今度はルカが食べはじめた。両手が塞がっていて止めることができない。


「ルカも食べるのをやめるのみゃ!」


『たべないの?』


「ええっとえっと、そうみゃ! お金を払って食べないと怒られるのみゃ!」


 二匹が納得するかは別にして、ボクは自分が納得できる答えを言った。


『…もぐもぐ…おこられないよ?』


 たしかに今は誰も居ないから怒られる心配はない。


「えーっとそうみゃ! お金を払ったほうがおいしいんだみゃ!」


 ボクがそう言うと、二匹は首を傾げた。


『『おかね、もってない』』


 鮭のムニエルを食べた後、お店のカウンターにお金を置いて宿屋に泊まった。


「ふみゃ~きもち~みゃ~」


 お風呂上がりにボクはベッドでうつ伏せになり、二匹にマッサージをしてもらっている。前足を使い、フミフミと首の辺りを押してほぐしてくれる。


 最近、ルカを頭に乗せて歩くようになったら体が凝るようになった。


 夕飯の鮭のムニエルの代金はボクが払い、払ったお金分のマッサージを二匹にしてもらうことにした。マッサージにはまったのか、黙々とボクをフミフミしてくる。


『…きもちい?』


『ここ、どう?』


「そこいいみゃあ~」


 目を閉じて気持ちよくフミフミされているとテトが聞いてきた。


『あーにゃは、おかね、もらうの?』


「誰からみゃ〜?」


『トール、から』


 トールからお金を貰う?


 二匹をトールの元に送り届けた後の報酬のことを言っているのかもしれない。ボクは二匹に一枚のチラシを見せた。




 新発売 期間限定!


 白玉あんみつホイップスペシャル!


 税込1200円!




「これを貰うつもりみゃ~」


『おいしい?』


『たべもの?』


「宝石箱みゃ~」


 きっと食べ物じゃないと言うと、二匹は興味をなくしたのかまたフミフミをはじめた。それから数分しないうちにルカがダウンした。


『…つか…れた』


「みゃはは、疲れたら休んでいいみゃ」


『なら、てとも』


「そんみゃあっ!?」


 気持ちよかったからもう少し続けて欲しかったのに…


 猫は自由気ままで気まぐれ。遊びに集中していても急にぱっとやめてしまう。そんな生き物。ガックリと肩を落とすと布団で丸くなった。


「ルカ、テト、おやすみみゃ」


 ボクの足元で力尽きてベチャっと寝ている二匹をそっと撫でると一緒に寝た。


 あれ?


 鮭のムニエルなんて、この前来た時はメニューになかったはずなのに…


 なんで今日は厨房で作られていたんだろう?




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【フミフミ】


 猫が前足を使って揉むように何度も踏む行動。


 猫が一心不乱にフミフミする姿はかわいい。

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