第40話 迷子猫の密談

『…といれ』


 深夜二時過ぎ。ルカは夜な夜なトイレのために起きた。ウロウロと動き回るが部屋の中には猫砂の入った猫用トイレはない。開いていた窓から抜け出すと、砂場を探して用を足した。砂をかけると辺りを見た。


 ここ、どこだろう?


 ルカの猫種であるスコティッシュフォールドはあまり動かない猫だったりする。その上、ルカは名前を覚えるのが苦手。飼い主やテト、さらには自分の名前も覚えていない。


 唯一覚えている名前は、おやつとみゃ~る、カニカマに、ごはんとカリカリ。たまに出てくるおいしい食べ物、プレかみゃも覚えている。見事に食べ物の名前だけである。


 そして方向音痴だったりする。家猫のルカにとっての世界は三澄家の中がすべて。移動するのはいつも同じ道で、もしも家の中で迷っても歩けば必ず誰かに会う。子猫の頃からずっとそんな環境にいた。


 だが、ここは見知らぬ土地。そのことをすっかり忘れてトイレのためだけに出てきルカは、マーキングをしないで歩いてしまい、自分がどこに居るのかわからなくなった。


『…どうしよ』


 うにゃうにゃと悩んだ末、ルカは結論を出した。


『…ねむい』


 ルカはちょうどいい木陰を見つけて丸くなって寝た。


『ルカねえ! どこー!』


『…?』


 テトの鳴き声が聞こえてルカの目が覚めた。呼びかけに答えると、すぐにテトがやってきた。その後、テトのマーキングのお陰で二匹は宿屋には戻れたが、どの部屋で寝ていたのかわからず宿屋の一階で一緒に寝た。


『ルカねえ。ごはんくれるから、あのひとはいいひと』


『…うん。みゃ~るくれた』


 二匹にとってアーミャはご飯をくれるいい人、という立ち位置になった。


 テトはすぐに寝たが、日中寝ていたルカは中々寝られなかった。ふとカウンターの上で光っていたお金が気になり、ルカは珍しくいたずらをした。お金をカウンターの内側に落とすと、満足したような顔で丸くなった。


 数時間経ち、二匹はドタドタという物音がして目が覚めた。


『ルカねえ、おはよう』


『…おはよ』


「あ! こんなところにいたみゃ!」


 二匹はお互いの鼻をくっつけて挨拶をした。所謂鼻チューというやつだ。ちょうど宿屋の二階から降りてきたアーミャもそれを目撃した。


「なにしているのみゃ?」


 そう聞かれて二匹は答えた。


『『あいさつ』』




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【鼻チュー】


 猫同士の挨拶。


 鼻キスとも呼ばれる。人間が人差し指を差し出すと猫が鼻をくっつけるのはこれをしているから。本人、もとい本猫にしかわからないが、鼻をくっつけることで匂いを感じ取っているらしい。

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