第38話

「た、大変な目にあったみゃあ」


『…まんぞく』


 アーミャは笑い疲れてヘロヘロになっていた。ルカは満足したのか防具屋のカウンターの上で顔を洗うと毛繕いを始めた。


「それにしても、ルカの家族はどこにいったのみゃあ…」


『…かぞく?』


 ボクはルカを探すきっかけになった出来事を話した。ルカとテトが飛び出してきた黒い穴の中にいた男の人が二匹を探していること。町でルカとテトを見つけたけど、戻ってきたらその穴が無くなっていたことを。


 すると…


『…あいたく…ない』


「家族じゃないのかみゃ?」


『…おこられた』


 喧嘩をしたのかもしれない。ボクもカーソル君と絶賛喧嘩中だ。会いたくない気持ちは少しわかる。また喧嘩になったらと思うと会うのが少し憂鬱だ。


 ルカはただでさえ垂れている猫耳をさらにペタンと垂れ下げると話すのをやめた。拗ねたように明後日の方向を見つめている。ボクはそんなルカの横で散らばっている物を片付け始めた。今は防具屋の店員が居ないからいいけど、こんなに散らかしていたら怒られるはずだ。


 男の人が置いていったと思われる散らばった物を所持品に入れていく。枠を空けるためにいくつかアイテムを出してやっと入れ込んだ。


 所持品に入れる前にみゃ~る以外のものも開けて確認すると、どれもおいしそうな匂いがした。ルカの家族の男の人が、ルカ達が食べ物に困らないように置いていったのかもしれない。喧嘩したって言うけど、別に嫌いになったわけじゃないみたいだ。


 片付け終わってもルカの機嫌が直ることはなかった。


「冒険でもしみゃい?」


『…ぼうけん?』


「この町を歩くのみゃ」


『…さんぽ?』


「そう、散歩みゃ!」


 時間が経てばルカも帰りたくなるだろう。きっと家族もそのうち戻ってくるだろう。そう思い、行く宛もなく冒険という名の散歩を始めた。


 森まで歩くとルカがはしゃいだ。


『…みどり! いっぱい!』


「いつも森には来ないのかにゃ?」


『はじめて!』


 ルカはボクの頭の上が気に入ったようで今も頭の上に乗っている。ルカがキョロキョロと顔を動かすため、その度に頭がグラグラと揺れる。尻尾もモフモフと背中を叩く。嬉しいのはいいけど、ルカは一歩も歩いていない。


 これ、散歩…なのかな?


 それにしても、普通に生活していたら森には入るはずだ。ルカは今までどんな暮らしをしていたのか。頭を振り子時計のように揺らしながらしばらく悩んだ。カサカサと草をかき分け、こっそりテトもついてきていた。


 頭の上で寝落ちしたルカを乗せて再び防具屋に戻ってきた。まだ男の人は戻ってきていないようで、黒い穴はどこにもなかった。そして、防具屋の店主も戻ってきて居ない。散歩をしている時に町の中で誰かに会った記憶もない。


 出会ったのはルカと…


 防具屋の入口を見るとヨロヨロと歩いてくる気配を感じた。気づかれないようにそっと近づいて、それをひょいっと持ち上げた。


「テト、捕まえたみゃ〜」


『うわあっ! やめろ!』


「観念するみゃ! テトはもう包囲されているのみゃ!」


『されている〜』


『ルカねえまでっ。やめろ! はなせ!』


 テトはしばらく手の中でバタバタと暴れた。散歩で歩き疲れたようですぐに抵抗をやめた。腕の中で、でろーんと伸びている。見た目も性格も違うけど、家族だけあってルカとテトは行動が似ていた。液体のようにずり落ちそなテトを抱えて宿屋へ向かった。


「誰かいみゃせんか~?」


 いつも宿泊している冒険者で賑わっているはずの宿屋には誰もいなかった。店主もいないし宿泊している冒険者も見当たらない。


「ここにお金! 置いておくのみゃ!」


 カウンターにお金を置くと、いつも泊まっている二階の部屋に向かった。


『…ふかふか』


『はら、へった』


 ルカは疲れが貯まっていたのかベッドに飛び乗るとすぐに丸くなった。テトは部屋の中に入れて床に下ろすとフラフラとしている。


「テトもみゃ〜るいるかみゃ?」


 最初は警戒していたけど背に腹は変えられなかったようで、テトは渋々頷いた。みゃ~るという言葉にルカも反応して、二匹にみゃ~るをあげた。食べ物をあげたことで警戒心が薄くなったのか、テトが聞いてきた。


『カリカリ、ないの?』


「カリカリかみゃ?」


 みゃ~ると一緒に置いてあった物を所持品から出していく。すると、袋に小分けされた物を見てテトが鳴いた。


『それ! カリカリ!』


「これがカリカリなのかみゃ?」


 入っているのが一食分でいいのかな?


 試しに手に乗せてテトの前に差し出すと、テトが勢いよく食べはじめた。


『…カリカリ…たべたい』


 ルカにもカリカリをあげた。カリカリを食べ終わると喉が渇いた二匹のために厨房へ行った。でも、宿屋にはまだ誰も戻ってきていなかった。


「ボクのご飯、どうしようみゃ」


 厨房は借りるとしても料理なんて作ったことはない。いつも完成したものをNPCから買って食べるだけだった。ルカとテトのご飯やみゃ~るは美味しそうだったけど、あれは二匹のために家族が置いていったもの。それに、ボクが食べたら数日で全部食べきってしまう量しかない。


 先にルカとテトに水を持って行ってから厨房で魚を焼いてみた。ルカの歯型がついていたけど味はおいしいはずだった。焦げ目がついたらひっくり返し、火が通ったらパクッと一口。


「味…しみゃい…」


 全然、おいしくなかった。


 部屋に戻ると二匹は寄り添うように仲良くベッドの上で寝ていた。


「みゃはは、ボクは端っこでいいみゃ」


 知らない土地で家族と離れて二匹だけ。きっと心細いのだろう。


 ルカとテトにそっと布団をかけると、二匹を守るように一緒に寝た。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【NPC】


 ノンプレイヤーキャラクターの略。


 テレビゲームの村人や店員など、プレイヤーが操作できないキャラクターのこと。役目を終えるとその場から消える。

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