第36話 三澄透の悪夢


 三澄透はひとしきり泣いた後、ルカとテトが吸い込まれた穴を見た。頭が入るサイズだったはずのそれは、拳ひとつくらいの大きさになっていた。徐々に小さくなっているようだ。


「やばいっ!」


 俺はもうわけがわからなくて、とりあえずあっちでルカとテトが食べ物に困らないように入れられそうな物を手当たり次第投げ込んだ。一週間分を小分けしていたキャットフード、小腹が空いた時用のカニカマ。


 そして、おやつのみゃ~る。


 プレミアムかにゃんも試供品があったため投げ込んだ。ふりかけのかつお節は袋が大きくて入らなかった。パウチは箱ごと入れようとして失敗した。とにかく入れられるだけ投げ込んだ。


「…あっ」


 穴が指くらいのサイズになり、最後の最後にみゃ~るを押し込んだら、次元の裂け目のような黒い穴は消えていった。テレビ画面を見るとゲーム画面の内の黒い穴も消えていた。その場所には俺が入れたと思われる食べ物が散乱している。


「よか、った…」


 って、よくない!!


 俺は慌てて部屋から飛び出した。この時、いつもなら画面中央にいるアーミャが居なかったのだが、慌てていた俺はそのことに全く気づかなかった。


「母さん、親父! ルカとテトがっ!!」


 コタツにぬくぬくと入りながら年が明けるのを待っていた両親に、ルカとテトがゲーム内に入って消えたことを説明した。だが、何度説明しても二人には信じてもらえなかった。


「夢でも見てたんじゃない?」


「どうせ寝ながらゲームしていたんだろ?」


 俺だって信じられない…


 でも、確かに俺は見たんだ!


 ルカとテトが黒い穴に吸い込まれてゲーム内に入っていったのを。食べ物だってゲーム内に移動していた。LLVIにキャットフードやみゃ~るのグラフィックは存在しないはずなのに、ゲーム内にはそれっぽいものが確かに表示されていた。


「で、でもっ! 俺は本当に見たんだ!」


「そろそろカウントダウンが始まるぞ」


「せっかくここに居るんだから、見ていきなさいよ」


 何度説明しても親父と母さんは本気にしなかった。説明しているうちに、俺もあれが本当に起きた出来事だったのかがわからなくなってきた。ルカとテトも消えたわけじゃなくて、家の中のどこかで寝ていて気がついたら何事もなくひょっこり現れそうな気がしてきた。


「あれは…夢、だったのか…?」


「そうそう、年末に一緒にミケタマを見ないから悪夢なんて見るんだぞ」


「まだ初夢じゃないわよ。よかったわね!」


 時刻は二十三時五十二分。


 年明けまで、あと十分を切っていた。


 その後、年が明け…一日、二日と時が過ぎていった。


 三が日が過ぎても、ルカとテトが顔を見せることは…なかった。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【初夢】


 一年の最初に見る夢。


 夢の内容で一年を占う。縁起がいいものと言われる夢は、一富士二鷹三茄子、四扇五煙草六座頭。


 まあ、ナスやタバコが嫌いな人もいるため、自分の叶えたい内容が夢に出てきたら正夢になるということにすれば縁起がよいだろう。

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