第35話
「ふみゃっ!?」
「ニャー!」
「ミャー!」
急に世界からすべての光がなくなり、暗くなったかと思えば世界に光が戻った。そして目の前に次元の裂け目のような黒い穴が開いた。突然のことでアーミャが戸惑っていると、何かが二つ飛び出してきた。思わず尻餅をついた。
「いたたたみゃあ…」
まったく、何かが出てくるなら事前に予告してくれればいいのに。落ち物ゲームなら灰色のおじゃまが表示される所だ。飛び出てきたものはボクが立ち上がった頃には防具屋から出て行ってしまった。
この穴っていったいなんだろう?
突然出てきて何かが飛び出してきた不思議な黒い穴。気になって穴の中を覗こうとしたら白い棒で頭を小突かれた。
「みゃいたっ!?」
透の こうげき!
アーミャに 1ダメージ!
当たった場所を両手で押さえる。また武器が出てきて攻撃されるかもしれないと思ったボクは涙目になりながら距離を取った。でも何も起こらない。余裕が出てきて足元を見ると、白い棒だと思ったものは一枚の紙だった。
紙で髪を叩くなんて笑えない冗談だ。落ちている紙を拾い上げる。書かれているものを見て、ボクは思わず感動した。
「みゃあぁあああ!」
なに…これっ!!
そこには小さな器の中に綺麗に並べられている宝石達が描かれていた。綺麗に四角くカットされたルビーにトパーズ、ペリドット。そして一際輝く丸くて大きな真珠達。まるで空に浮かぶ月のように綺麗だ。その月を守るようにふわっふわの雲のようなものが乗っている。
こんなキラキラな宝石箱、見たことないみゃぁ…
この宝石箱の名前は大きくこう書かれていた。
「…しりゃたみゃあんみゃつ」
白玉あんみつ。
「…みゃいっぷすぺみゃる」
ホイップスペシャル。
新発売 期間限定!
白玉あんみつホイップスペシャル!
税込1200円!
「ほしいみゃ〜かわいいみゃあ〜」
興奮のあまり呂律も頭も回らない。こんなお伽噺に出てくるようなキラキラしたものがあるなんて知らなかった。数字が書かれているということは買えるということだ。「税込」「円」というのはわからないけど、きっとこの世界の通貨「G」の親戚かなにかだろう。
きっとそうみゃ。
これ、どこで買えるのかみゃあ…
新発売なのに期間限定で安くなる理由はわからない。でもお得なら是非とも欲しい。興奮しすぎて心の声まで猫の語尾になってしまう。
「…ねが…だ、…れよ」
「うみゃっ!?」
誰かに話しかけられてボクは正気にもどった。
どうやら感動のあまり夢の世界にトリップしていたようだ。でもキョロキョロと辺りを見ても誰もいない。それなのに、確かに声は聞こえてくる。
「…でもいい。…ミャは全然動…し…」
猫耳をピンと立てて耳を澄ませると、それは黒い穴から聞こえてきた。また何かが出てきて攻撃されるかもしれない。もしも幽霊だったら怖い。カーソル君が居なくて不安だけど、ボクは恐る恐る話しかけた。
「そ、そこにっ! 誰か…いるのみゃ?」
「神様でも…悪魔でもなんだっていい…」
「ボクは神様でも、悪魔でもないみゃ」
それは、今にも泣き出しそうな声で。
「俺の命が必要なら、いくらだってくれてやる」
「…命なんていらないみゃ」
聞いていてボクまで悲しくなるような男性の声で。
「大切な、家族なんだ…だから…」
ボクの声を無視して一方的に祈るように、一人言のように呟いていた。
「なんみゃ…これも人の言うことを聞かないNPCかみゃあ…」
「ルカと…テトを…」
ボクは話しかけるのを諦めた。そしてボクは防具屋の出口へ向けて足を踏み出した。今、ボクには話を聞かないNPCの言うことを聞くよりも大事な用事があるのだ。この紙に書かれている宝石箱を今すぐにでも買いに行きたい。
「返して…くれ…」
一歩、また一歩と出口へ向かう。その間、後ろから男性のすすり泣く声が聞こえてくる。その声は愛するものを助けたくて、それでも自分ではどうすることもできなくて。そんな悲痛な声に聞こえた。
まったく、大の男が泣くなんてだらしない男みゃ!
だらしない…男、みゃ…
「かえ、し…て…」
「…みゃあ」
ただのバカだと思われるかもしれない。NPCだと思った相手を助けるなんて自己満足で意味のない事かもしれない。カーソル君ならきっと無視するだろう。でも、確かにそこに今、困っている人がいる。
「まったくもう、仕方がないみゃあ…」
そこに愛があるのなら…
無視されてもいい。
助けたい。
ボクはため息をつくと黒い穴の前まで戻った。答えが返ってこないとは思いつつも、自分に言い聞かせるように胸をはり、大きな声でこう言った。
「ボクがなんとかするから、そこで大人しく待ってるみゃ! 報酬はこの、しりゃたみゃあんみゃつみゃいっぷすぺみゃる、みゃ!」
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気ままミャtips
【白玉あんみつホイップスペシャル】
寝ている時に夢で登場した謎のスイーツ。
何がスペシャルでどれがホイップされているかはわかりません。白玉がホイップされていたら恐怖ですね。この物語が初出で別作品に出張することが稀によくある。私の書いた物語でこのスイーツが出てきた場合は基本的に同じ世界であり、同じ店が販売しています。
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