第34話 愛猫達の消失

 三澄徹はテレビの前で正座をして後悔していた。


 こうなる前にするべきことはあった。ルカとテトが一度ゲーム機を壊した後、何か対策するべきだった。ついつい愛猫達を信頼していて大丈夫だと思っていた。その結果がこのザマだ。


 テレビ画面越しに見える俺の顔がなんとも無様だ。


 アーミャは店頭販売用のデモプレイでセーブなんてしていない。リセットされたということは、デモプレイが終わったということだ。


 アーミャの冒険は…終わった。


 そのことを再確認すると、ぽっかりと心に穴が開いたような喪失感が襲ってくる。最初はバカなAIだと思っていた。でも自由気ままに動き回る姿がどこか猫っぽくて愛おしくて。気がつけばアーミャとの冒険は生活の一部になっていた。


「…ミャア」


「ニャー」


 犯猫達が鳴きながら足元をすりすりしてきた。ルカとテトは俺に怒られたのがわかったのか、申し訳なさそうに猫耳と猫尻尾を垂らしていた。俺はその様子に気がつかず二匹を再び怒ってしまった。


「なんだよ、あっち行ってろよっ!!」


「ミャ!?」


「ウニャア!?」


 二匹は怒鳴り声に驚いてすぐに離れた。


 テレビ画面には何も映っていない。起こった事に対して怒っても何も意味はない。それでも今だけはそっとしておいて欲しかった。数秒、もしかしたら数分の間、ぼーっとテレビ画面を見つめていた。


「ニャァー!!」


「ミャアアア!」


 突然、物音が聞こえて正気に戻った。後ろでガタガタという物音、そして愛猫達の叫ぶような鳴き声が聞こえてくる。どうせ運動会でもしているのだろう。そう思いながら音のする方向を向くと、そこには次元の裂け目のような黒い穴が開いていた。


「…は?」


 ちょうど猫の大きさくらいの穴で、ルカとテトの体が半分ほど飲み込まれている。必死にテーブルに爪を立てているが、完全に飲み込まれるまであと数秒といったところだ。助けるために慌てて立ち上がる。が、足が縺れてその場で倒れた。ずっと正座をしていたため足が痺れていた。


「ウミャァァ…」


 顔を上げると、ついにルカが力尽きて穴に飲み込まれた。


「ニャァァ…」


 そして、ルカの後を追うようにテトも飲み込まれていった。


「ルカ…テト…?」


 俺はどうすることも出来ず、黒い穴をただただ見つめた。猫の大きさほどの大きさの黒い穴。どの角度から見ても、まるで次元が裂けているかのように空中に存在している。


「なんだよ…これ…」


 恐る恐る手を入れてみると、俺は吸い込まれなかった。中はそこそこの広さがあり、手を深く突っ込んでも何もない。


 意を決して顔を突っ込んでみると中は一面黒い世界だった。形のある物はひとつもない。だが少し離れた場所に別の黒い穴が開いていた。手が届くかどうかギリギリの場所のそれは、まるで2Dのドット絵のような四角い枠をしている。


「あれに入ったのか?」


 何か長いものはないかと探したら、ちょうどいい所に紙が落ちていた。この前の高いスイーツのチラシだ。一枚手にとって丸め、棒状にして入れてみた。穴の中で手を限界まで伸ばすとチラシが上手く引っかかった。


「あっ…」


 軽く動かすと穴が動いた。引き寄せるようにチラシを動かしていく。すると、テレビ画面が光った。


「嘘、だろ?」


 その画面にいたのだ。


 俺の大切な家族の愛猫達…


 ルカとテトによく似た色の猫が。


 防具屋の店内にある黒い四角い穴の前にいて、何かに驚くと店の外に逃げていった。ゲームは所詮遊び。実際にはルーナもアーミャもいない。それなのに画面の内にルカとテトがいた。嫌な予感がして胸騒ぎがする。ふと画面をみるとアーミャもそこに映っていた。


「そうだ、アーミャだ!」


 俺はチラシを手放して両手でコントローラーを握るとボタンを押した。


「…アーミャが、動かない?」




 アーミャは 動かない…




「なんでだよ! 動いてくれよ!」


 祈るように何度も、何度も押した。


「動け、って…言ってるだろ…」




 しかし アーミャは 動かなかった…




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【愛猫】


 愛犬の猫版。「あいびょう」と読む。


 犬と猫の違いはあまりない。散歩を嫌う犬もいれば散歩が好きな猫もいる。お手をしない犬もいればお手をする猫もいる。人間だって様々な性格があるのだ、犬だから、猫だからと行動を決めつける必要はない。

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