四章 気ままな猫と迷子の猫達

第32話

 アーミャはカーソル君に操作されて王都イルディアの武器屋に来ていた。


「はみゃ~」


 チタン装備やサーメット装備が広い店内にずらりと並んでいる。アーミャが最初にいたトサイ町に売っていたウッド装備やレザー装備など足元にも及ばないくらいの高級武器達だ。キラキラと輝く武器を見て思わず見惚れてしまう。


「今日は武器を買うのみゃ?」


 ボクの横で浮いている三角形、カーソル君に聞いても返事はない。今装備しているのはトサイ町で手に入れたウッドボウ。


 ちなみに防具は緑のローブとこの前買った恋のミサンガ。それと頭に雪のヘアピン。緑の靴は捨ててしまったから、足にはボアブーツを履いている。モフモフしているボアが可愛くて、雪国オスタルから帰ってきても愛用している。


 チグハグだけど、どれも冒険で手に入れた好きな装備達だ。


 最近はモンスター討伐をしていないから、武器は一度も変更していなかった。


 装備…武器屋…?


 カーソル君にはトサイ町でレザーグローブなんて買わされた。ボクは使わない装備だから所持品欄をひとつ埋めるだけの邪魔なアイテム。


 でも、カーソル君は何か目的があってレザーグローブを買ったのかもしれない。そう考えてしまい中々手放せずにいる。


 またボクが使えない装備を買わされたらどうしよう…


 カウンターに近づくと武器屋の店主がボクに話しかけてきた。


「いらっしゃいませ。何を買っていきますか?」


「ええっとみゃあ…」


 買うならチタンボウとサーメットボウのどちらか。攻撃力だけを見るなら間違いなくサーメットボウ一択。


 でもサーメットボウを試しに手に持つと大きい。手の小さなボクには扱いにくい。チタンボウは程よいサイズで持ちやすい。


「何を買っていきますか?」


 カーソル君は悩んでいるボクを無視するように操作を始めた。またボクの使わない武器を買うのだろう。弓はこの操作が終わったら買おう。チタンボウを見つめながら操作が終わるのを待つ。


「サーメットボウ」


「お買い上げありがとうございます」


 …あれ?


 ボクに弓を買ってくれたの!?


 カーソル君はサーメットボウを購入した。欲しいものとは違うけど、ボクの思いが届いたのかもしれない。嬉しくて胸がいっぱいになる。


 装備していたウッドボウを外してサーメットボウを持ってみる。構えてみるとやっぱりボクには大きくて、持たされている感じがする。けど、なんだか強くなった気持ちになる。


 弓の両端に張っている弦を確かめるとボクの大好きなカラムシの弦だった。これなら遠く離れたモンスターも狙えそう。頭の上に置いたリンゴも一発で射れそうだ。


「カーソル君、ありがとみゃ!」


 そう伝えるとカーソル君は満足したようでボクを武器屋から出した。


「武器屋の次は…ぼ、防具屋みゃ…」


 操作をされて移動した先は防具屋だった。防具屋には悪い思い出しかない。ボクを勝手に操作して、カーソル君がボクの装備している防具を売ったり。


 下着を売って…


 は、裸にしようとしたり…


 カーソル君を睨みながら防具屋の扉を開けた。


「いらっしゃいませ。どれを買っていきますか?」


 店員にそう聞かれた。でもカーソル君は悩んでいるみたいで中々購入しない。警戒しながら待っていると、ついにカーソル君が操作した。


「ウッドボウを売却」


「売却ですね。10Gですがよろしいですか?」


 さっきまで装備していたウッドボウを売ろうとした。ウッドボウは最初からずっと一緒に冒険していた大事な武器。


 ポータンを一緒に狩ったし、雲海や砂漠、火山に行くときだって背中に担いでいた。もう相棒と言ってもいい。装備を新しくしたからと言って、相棒を簡単に手放すつもりはない。


「まっ、まままつみゃああああ! キャンセル! キャンセルみゃ!」


「キャンセルですね」


 ボクにとってウッドボウはいくらお金を出されても売りたくない大切な相棒。いくらカーソル君でもウッドボウを売るのは絶対許さない。


 相棒を売ろうだなんて…


 それも10Gで!!


 ボクの必死な抵抗も虚しく、ウッドボウが10Gで売却された。




 ウッドボウを 売却した!




「ボクのあいぼおおお!」


 相棒を売られて悲しみに暮れていると、カーソル君はまだ売却を続けていた。




 雪のヘアピンを 売却した!


 恋のミサンガを 売却した!


 ボアブーツを 売却した!




 ボクが今装備しているものを売っていく。


 ま、まさか…


「や、やめてみゃっ…」




 緑のローブを売りますか?

 ▶はい

  いいえ




 ついにカーソル君がボクの着ている緑のローブを売ろうとした。つまり脱がそうとしている。これを売られると下着姿になってしまう。また店員の前で下着姿になるなんて嫌だ。


「やっ!」


 必死に抵抗してもいくら嫌がってもカーソル君は止めない。何度キャンセルと言っても、なぜか今回は止めてくれない。


 ブチッ!


「いくらっ!」


 徐々に理不尽なカーソル君に怒りが湧き、ブチンという音が聞こえそうなほど頭にきた。


「カーソル君のすることでもっ!」


 そしてボクは言ってやった。


「こんなことをするなら絶交だみゃ!」


 パリン!


 怒りに任せてそう言うと、何かが割れるような高音が鳴りカーソル君の操作が無くなった。急に体の自由が戻り、その拍子にペタンと尻餅をついた。


「…へみゃ?」


 さっきまでボクが着ている緑のローブを脱がそうとしていたカーソル君はどこかに消えていた。


「ふみゃ~買っちゃったみゃ~」


 売却したものは買い戻せない。


 それが、このゲームの仕様。


 せっかく防具屋に来たから、店で一番いい装備を買った。店内で騒いだお詫びも兼ねている。着替えはもちろん更衣室。


 プリズムティアラにプリズムドレス、プリズムブーツに身を包んだピカピカでキラキラなアーミャが誕生した。


 ドレスではあるけど、冒険者が装備をするために動きやすく作られている。死守した緑のローブはまだ使えるから所持品に入れておいた。


 思わずサーメットボウを構えて、鏡の前で決めポーズを取る。


「キラキラみゃ! お姫様みたいみゃ!」


 カーソル君が買いに来たということは、どこかに冒険に行く予定だったのだろう。きっとそうに違いない。


 怒ったらカーソル君が消えたけど、また戻ってくるはずだ。絶交は流石に言い過ぎた。でもカーソル君だって悪い。お互い謝ってそれで仲直りしよう。


「カーソル君、まだかみゃあ?」


 戻ってきたらどこに連れて行ってくれるのかな?


 すぐに戻ってくると思い、ボクが防具屋で待っていると…


 突然、世界が暗転した。


 ブツン!




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【冒険フェーズ終了のお知らせ】


 アーミャのゲーム内での平和な冒険が終わり、事件フェーズに移行します。少しだけ暗くなるのでご注意を。事件フェーズが終わると、やっと現実世界の日常フェーズになります。


 某14番目のファイナルなゲームはレイドの戦闘が履行演出で区切られている。その演出を一区切りとして、前半フェーズ、後半フェーズと呼ぶ。

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