第31話

「まいどあり!」


「ありがとみゃ〜」


 アーミャは商業都市アムルドに来ていた。


 屋台で販売していた店主に「そこの可愛い嬢ちゃん、安くするよ!」と言われてつい装備を購入した。通りかかる人に同じことを言っているとは分かっていても、可愛いと言われたらやっぱり嬉しくなる。


 購入したのは手装備の恋のミサンガ。


 手には何も装備していなかったからちょうどよかった。それに、恋もしてみたいからちょうどよかった。利き手に装備して歩き出そうとしたら店主が引き止めた。


「そうそう、お祭りがあるのを知っているかい?」


「おみゃつり?」


「今、雪国オスタルでお祭りをしているんだ。嬢ちゃんも興味あるだろ?」


 雪国オスタルは、その名の通り雪の降る寒い地方の国。お祭りは興味があるけど寒いのは苦手だ。猫獣人になったことで苦手意識が更に強くなった。わざわざ寒いところに行くくらいなら、その辺で日向ぼっこしていたい。


「雪国かみゃあ…ボクは行かないみゃ…」


「オスタルに行くなら、防寒対策にボア装備を買って行かないかい?」


「行かないから要らないみゃ」


「ボア装備を買って行かないかい?」


「だからっ! 要らないみゃ!!」


「ボア装備を買って行かないかい?」


「…か、買うみゃあ」


 そうだった。可愛いと言われてつい普通に会話している気分になったけど、この世界の人間…NPCは同じことしか言わない。断るのに疲れてしまい、つい購入した。


「まいどあり!」


 お祭りの情報を教えてボア装備を買うまでがイベントだったのだろう。その証拠にボア装備を購入すると店主の会話がプツリと途絶えた。


「みゃあ…せっかく買ったから行ってみるかみゃあ…」


 買ったからには使わないともったいない。所持品欄のボアコートとボアブーツを見て、ボクはため息を吐いた。


 あれ?


 NPCって…なんだっけ?


 ●


「ずずずっ。ざむいみゃ〜」


 雪国オスタル行きの大型船から降りて、白い大地を踏みしめた。


 身に纏っている緑のローブに雪がしんしんと降り積もる。寒くて凍えて鼻水が出てくる。足裏に雪の冷たさを感じて尻尾が逆立つ。


 慌ててボアコートを羽織り、ボアブーツに履き替えた。途端に寒さが軽減されて体がポカポカと温まる。


 今まで履いていた緑の靴を持ち上げると、様々な冒険の無理が祟ったのか靴裏に穴が空いていた。


「今までありがとみゃ」


 冒険を共にした緑の靴に感謝をしながら所持品に入れた。お祭りから帰ったら捨てておこう。新品のボアブーツを踏み鳴らし、アーミャはお祭りを見て回った。雪で作られた大きなフェンリルの雪像。


 今までなら怖かったけど、火山での冒険を思い出すと雪像くらいじゃもう怖くない。だって動かないと分かっているから。


 雪像に近づいてみると、細部まで彫られていて本当に動き出しそうな躍動感がある。思わず口をポカンと開けて感動する。


「すごいみゃあ~」


 雪で作られた遊具もあり、すべり台で滑ったり等身大の迷路に挑戦した。かまくらの中には食べ物やお土産の屋台になっていた。


 遊び疲れて屋台でホットココアを買った。飲みながら歩いていると気になる屋台を見つけた。


 シャッフルモモンガというミニゲームの屋台。三匹のモモンガがドングリを頬袋に入れてシャッフルするように動き回る。その中の一匹だけ色の違うドングリを頬張っていて当てると景品が貰えるようだ。


「一回どうですか?」


「挑戦するみゃ!」


 お祭りは楽しまないと。でも挑戦するからには本気で挑む。


 目の前で横一列に三匹のモモンガが行儀よく並んだ。そしてドングリを頬張った。色違いのドングリを頬張るモモンガをじっと見つめる。


 三匹は左右に移動して入れ代わる。ヨチヨチと入れ替わる。たまに転けて慌てて持ち場に移動する姿が愛くるしい。


「これくらいなら楽勝…みゃみゃっ!?」


 楽勝だと思っていたのにモモンガの動きが急に素早くなった。


 屋台のかまくらを縦横無尽に動き回る。あっちへいったりこっちへ跳ねたり。やっとシャッフルが終わったのかモモンガは元の位置に戻った。


「どのモモンガを選択しますか?」


「目がっ、目がまわったみゃあ〜」


 モモンガを目で追っていたら頭をグルグルと動かしていて、気がついたら目が回っていた。体も動かすくらい素早くて足元がふらついている。


「どのモモンガを選択しますか?」


「うみゃあ〜」


「どのモモンガを選択しますか?」


「ええっとえっと右側みゃ〜」


 目を回しながら選択する。選んだモモンガが、頬袋からペッとドングリを出した。


 出てきたのは色違いのドングリ。


 アーミャはミニゲームを見事成功させた。猫獣人の動体視力が初めて役に立った瞬間だった。ファンファーレと共に店員が景品を渡してきた。


「おめでとうございます! 景品の雪のヘアピンです!」


「うみゃあ〜ぐるぐるみゃ~」


 所持品に入れようとしたら所持品枠がいっぱいで持てなかった。ちょうど頭に何も装備していなかったから、その場で雪のヘアピンを装備した。


 当たったのは嬉しいけど、その後ずっと目が回って大変だった。猫獣人の動体視力が役に立ったのに、その動体視力のせいでしばらく千鳥足で歩くことになったのだ。


 尻尾の先の白い部分を雪と間違いお尻の下敷きにしたり、通行人を蹴ったと思いペコペコと謝ったら看板だったり。踏んだり蹴ったりなミニゲームだった。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【ミサンガ】


 色とりどりの刺繍糸を編んだ組み紐。


 体に付けるお守りで、付ける場所によって意味が変わる。利き腕は恋愛、反対の腕は学業。利き足は勝負、反対の足は金運。


 一度付けたら取ってはいけない。切れるまで付けると願いが叶うとされている。お守りなので切れたら神社のお焚き上げで燃やすのがよいだろう。




 ちなみに、ここまでが三章です。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

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