第29話

 アーミャは火竜火山に来ていた。


「ボクじゃ勝てないから帰ろうみゃあ…」


 ここは高レベルのモンスターがいるダンジョン。洞窟ダンジョンでモンスターを倒してからモンスターを一匹も倒していない。


 所持金がいっぱいあるため、モンスターを倒して稼ぐ必要がなかったのだ。レベル6のアーミャが入っても倒されに行くようなものだろう。


 それでも、カーソル君はボクを操作して火竜火山に入ってしまった。


「ひみゃっ!?」


 カーソル君はボクを操作してどんどん前に進ませる。怖くて何度も何度も帰ろうと提案すると、思いが届いたのか道を逸れてマップ端に歩き出した。


「よかったみゃ…って、よくみゃいっ!」


 そこは崖で、下にはグツグツと煮えたぎる溶岩がある。


「こんな所に入ったらとろけるみゃ!?」


 そんなボクの叫び声も虚しく、崖に落ちる寸前まで追いやられた。崖から落ちるのは怖いし溶岩に落ちたら絶対痛い。


「いっ、嫌みゃ…」


 必死に抵抗を続けると、ついにカーソル君が諦めた。操作が止まり、その拍子に躓いた。


「っとと。た、助かった…みゃっ!?」


 安心したのも束の間、急にグイッと操作された。再び崖に足を踏み出す。そして、ついに何もない場所に足を置いた。落ちる、と思って目をギュッと閉じる。


「うみゃあああああああっ!」


 ボクは急降下して溶岩に落ちていく…はずだった。


「へみゃっ?」


 目を開けると、ボクは溶岩の上を歩いていた。グツグツと煮えたぎる溶岩の表面は熱くない。


「ど、どうなってるのみゃ?」


 気がつけば、ボクはダンジョンのボスのいる陸地のすぐ近くまで来ていた。


 ここのボスは双頭のドラゴン・オルトロス。このドラゴン、とにかく強い。前回ボクが戦った時は四人パーティーでやっと倒せた。それも高レベルで、だ。


 ソロでレベルの低いボクは瞬殺されるだろう。


 カーソル君は歩きながらメニューを開き、所持品欄からあるアイテムを選択した。何度も使おうとしているけど、使えないアイテムみたいで名前が灰色になっている。


「こここここれを使えばいいのかみゃっ!?」


 それは、フェンリルの氷像。


 フェンリルはこの世界の神話に登場する悲しい狼。最初は守護獣として崇められていた。しかし、時が経つにつれて信仰心が薄れ、その強大な力を人々に恐れられた。その結果、フェンリルを守護獣として崇めていた人々の手によってどこかに封印されたという伝承が残っている。


 なぜか持っていたフェンリルの氷像を不思議に思いながらも、こんなところから早く出たいと思ったボクは、フェンリルの氷像を所持品から取り出した。


「うみゃっ!?」


 所持品に入るような物だから、きっと小さいものだと勝手に思っていた。それなのに、出てきたのはボクの身長の五倍以上の高さがある氷像だった。驚きのあまり尻餅をつく。見上げて見上げて、更に見上げてやっと頭が見える。


「こ、こんにゃのが入ってるの、知らなかったみゃ…」


 アーミャは今まで所持品の管理が適当だった。何が入っているのかなんて全く確認していなかったのである。


「ふみゃあ~」


 それにしてもよく出来ている。フェンリルの氷像は苦痛の表情を浮かべていて、まさに会心の一撃を食らった時を再現しているようだ。


 ジュッ、という小さい音が聞こえてきた。それは何回も聞こえてくる。回数を重ねるごとに間隔が短くなる。


 あれ?


 氷像って、こんなところに置いていいものなの?


 何かが頭に吹きかけられた。恐る恐る氷像を見上げる。そこには、氷が溶けてボクを見下ろす大きなフェンリルがいた。体の氷はまだ溶けていないみたいで身動きは取れないようだ。そのフェンリルはおもむろに口を開けてボクに顔を近づけてきた。


 …えっ。


 生き…て、る…の?


 所持品欄って生き物も入れることができたんだ。そんなことを感心している場合じゃなかった。目の前にはフェンリルの大きな口。その口で食べられたらひとたまりもない。急激に怖くなったボクは尻餅をついたまま慌てて後ずさる。急いで転移の石を使ってこの場を離脱した。


「みゃあ…みゃあ…」


 こここ怖かったよぉ…




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【小説】


 小説を書ける人ってすごいですよね。

 どの作者様も尊敬します。


 この物語はきっと小説のようなナニカ。


 ちなみに、猫はそれっぽく書いているはず。

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