第28話

 アーミャは水の都までやってきた。


「ここはいつ来ても涼しいみゃ~」


 海に浮かぶ綺麗な街並み。水路が多く、都市の中を小舟で移動する珍しい都。ここには王都イルディアで信仰している女神・ディアーナの神殿がある。


 昨日、カーソル君が慌てたようにフェリーに乗せて、すぐに操作を止めてしまった。今度こそパーティーに入っていた頃のメンバーがいる場所まで連れてきてくれたのかもしれない。


 自分で探しても見つけられないことは学習済みだ。カーソル君に操作されるまで都を散歩することにした。


「どこに行こうかみゃ~」


 都を一望できる高台からのんびり眺めてみたり、ここでしか食べられない料理を食べてみたり。小舟に乗って寝てしまい目的地を通り過ぎたり。今日もアーミャは自由気ままに冒険した。


「みゃっ!」


 中心街をトコトコ歩いていると、突然操作された。カーソル君が帰ってきたのかもしれない。今回こそはと期待して、ボクは操作に身を任せた。


 着いた場所は水の都の神殿だった。


 壁にはめ込まれたステンドグラスが綺麗な建物。神殿という名に相応しい神秘的な雰囲気がある。


 でも、近づいたら何か力みたいなものを吸い込まれそうな感覚になり、散歩では立ち寄らなかった。


 そんなボクの気分を無視して、カーソル君は神殿内を堂々と進ませる。中に入ると更に吸い込む力が強くなる。


 胸に付けた三日月のアミュレットをギュッと握って、その力に必死に抗う。


 神殿の奥まで進むと、関係者以外立ち入り禁止の雰囲気が漂う場所に入った。神殿の人に怒られないか不安だったけど、どうやらカーソル君は神様のため顔パスらしい。


 階段を降りると海中に入った。窓の外には海が広がる。海面から差し込む太陽の光が床に魚の影を映し出す。


「おっきなステンドグラスみゃ~」


 ボクだけで来たら迷子になりそうだ。でもカーソル君がいれば迷うことなく操作してくれる。テーマパークのアトラクション感覚で神殿内を見て回る。


「あれが女神様かみゃ?」


 その中には女神・ディアーナの石像や、その昔、神獣として信仰されていたフェンリルの石像もあった。


 しばらく歩くと小さな四角い池のある部屋に入った。


「ここには綺麗なお魚さんが泳いでいるみゃ~」


 しゃがんで魚を見ていると、カーソル君がメニュー画面を開いて三日月のアミュレットを外した。


「また何か装備するのみゃ?」


 そして、三日月のアミュレットを地面に空いていた窪みにはめた。ちょうど三日月の形をしていて、まるでここに填めるべきものであるかのようにすっぽりと収まった。


「みゃっ!?」


 ゴゴゴゴ、と何かが動く音が聞こえてくる。池の水がなくなり、そこに階段が現れた。魚は水が無くなると同時にどこかへ消えていった。


「お、お魚さんが消えたみゃ…」


 ボクが驚いてしばらくその場いても、カーソル君は一向に何も操作をしてこなかった。いつもならこの意味深な階段にすぐ入るのに。


「あっ! ボクのアミュレットも…消えたみゃ…」


 三日月のアミュレットは役目を終えたかのように、いつの間にか綺麗に消えてなくなっていた。いつの間にかカーソル君からの操作も終わっている。


「…うみゃっ? もう、終わりかみゃ?」


 神殿に入って歩き回り。この階段を出して、ボクのアミュレットが消えて…それで今日はおしまい?


「ここ! 入らないのかみゃ~?」


 大声で聞いてみても返事は返ってこない。階段とにらめっこをしていたら何があるのか気になってきた。興味が湧いて体がウズウズしてくる。


 ボクのアミュレットを犠牲にして何が起きたのか。それを確かめるために階段を降りた。


「明るいみゃ」


 階段が微かに蒼白い光を帯びていて、まるでアーミャを導いているかのように明るい。


 階段を降りると一本の通路に出た。左右には水路が引いてあり、水の流れる音が心地いい。


 水路には大小様々な花が植えられいて、階段と同様に蒼白く光っている。アーミャが歩くと水面が揺れ、壁に波紋が映し出される。


 蛍のような光の粒が空中に浮いていて、まるでお伽噺に出てくるような幻想的な景色が広がっている。


 通路の一番奥に丸い球体を見つけた。表面には何かが当たったような凹凸があり、蒼白く光っている。


 なんだろう?


 見てるとすごく懐かしい気持ちになる。ボクは知らず知らずの内に、それに手を伸ばしていた。


「うみゃっ!?」


 指先が触れた途端、視界が白い光で埋め尽くされた。何かがボクに入ってくるのを感じる。それはどこか懐かしくて、温かくて、優しいものだった。


 視界が戻ると、目の前にあった球体は消えていた。


「帰ろ…」


 なぜか、もうここには何もないと感じた。スタスタと来た道を戻る。なぜか迷わずに神殿に出られた。


 最初に感じていた吸い込まれるような感覚は、いつの間にか無くなっていた。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【アーミャ】


 栗色の髪の毛の内巻きミディアムボブの猫獣人の女の子。


 アクアマリンのように蒼く輝く瞳。明るい性格で怖いものが苦手。元々LLVIに登場するエルフのゲームキャラクター・ルーナだった…らしい?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る