第27話 三澄透の休息
「今日こそはあの場所に行きたいなあ」
砂漠のオアシスでスピードリングを購入してから、三澄透は中々遊べていなかった。
年末で仕事が忙しいため、スピードリングも睡魔と戦い購入した。スピードリングを使ったバグは一度は自分でやってみたかったバグだった。最近はそれを楽しみに毎日仕事をこなしていた。
「とおる~おかえりにゃ~」
「え…っと? ただ…い…ま?」
自宅に帰ると母さんが玄関で待ち構えていた。愛猫のルカを抱えて、いつもより少し高めの声を出して猫なで声で話しかけてくる。
か、母さん。それは若い子がすればかわいいかもしれないが、その年齢でするとただの痛いおばちゃんだから…
「最近やけに楽しそうじゃにゃい?」
俺が嫌そうな顔をしても、母さんは素知らぬ顔で猫なで声を続ける。ルカになりきっているつもりらしい。
「いや、毎日忙しくて全然楽しくないから」
「そんにゃこと言って、去年の今頃なんてヒイヒイ言ってたじゃにゃい〜」
ヒイヒイって…
今日はやっと時間ができたのだ。すぐにでも夕飯と風呂を済ませて部屋に行きたい。靴を脱ぐためにしゃがむと母さんがルカを頭に乗せてきた。
「あんた、彼女でも出来たの?」
「…は?」
「どんな子? 紹介しにゃさいよ〜」
なんで俺に彼女ができたことになるんだ?
こうなると母さんはしつこい。俺からなにかしらの答えが帰ってくるまで逃さないだろう。母さんはルカを抱っこして、にゃあにゃあと唸っている。
そうだな「彼女」か…
俺はルカを見てこう答えた。
「じゃあ今度母さんに紹介するよ」
「まあ! やっぱり彼女が出来たのね!」
俺はそう言うと、喜ぶ母さんの横を通りすぎて自分の部屋へ逃げた。
「ルカ~どんにゃこ連れてくるとおもう~?」
まあ、紹介するのは今母さんの目の前にいる俺の愛猫のルカだけどな。ルカだって女の子だ。人間の年齢にすると、ルカはそろそろ俺と同じくらいの年齢になる。
一緒に寝たことだって数えきれないくらいある。お互い一緒にいて安心する仲だ。頭やお腹を撫でても嫌がらない。
もう、俺の「彼女」といっても過言ではないだろう。
夕飯を食べて風呂に入った。
あとはゲームをして寝るだけだ。
「ニャア」
「ミャー」
部屋に入るとルカとテトがテレビの前を陣取っていた。最近忙しくて二匹とも全然遊べていなかった。
ルカとテトの夜のお世話はこの時期になるとすべて母さんに任せている。どちらが忙しくなっても交代できるように、いつもは朝は母さん、夜は俺で分担している。
そういえば最近、家に帰るとすぐにバタンキューで、ルカとテトをゆっくり撫でていない。
今撫でたい所だが…悪い!
今日はどうしてもやりたいことがあるんだ!
「また今度遊んでやるから、母さんのところにでも行ってこい〜」
ルカとテトを抱っこすると廊下に出して部屋の扉を閉めた。二匹の不満そうな鳴き声とがりがりと扉を引っ掻く音が聞こえるが気にしない。
気にしたら負けだ。俺だって最近忙しくて不満なのだ。ささやかな楽しみくらいあってもいいだろう。
「よし、始めますか!」
俺はアーミャが自由気ままに動き回っているゲーム機のコントローラーを持った。
「たしかここだよな? よしっ。合ってる」
攻略サイトを見ながらアーミャを操作して、目的地の民家に入れた。そして二階に移動させる。
「せっかく来たし拾っておくか」
民家の寝室にアーミャを動かす。クローゼットの前まで行き決定ボタンを押す。そして、使うと攻撃力の上がるアイテムを拾う。
…拾う、はずだった。
「あれ? 反応しない?」
なぜかアイテムが回収できない。いつの間にかクローゼットの光も消えてしまった。
「これも、このソフト関係のバグか?」
まあ、ついでだったし別にいいか。
気を取り直して本来の目的まで行った。そこは一見何もない廊下の壁。
アーミャにスピードリングを装備する。
スピードリングは移動速度が上昇するアクセサリー。それだけならよかったのだが、このアクセサリーを装備して、とあるコントローラーを使うとマップの壁抜けができる。
本来はジョイグローブという、15連射できる連射機能付きのコントローラーが必要。だが、数十年前に発売したコントローラーで、今でも動作するものを俺は手に入れることが出来なかった。
「でも、アーミャならきっと…」
祈るような気持ちで普通のコントローラーのABボタンを連打する。そのままアーミャを壁に歩かせると、難なく壁を抜けた。
「よし成功っ!」
そして、マップの裏側の黒い世界をアーミャが歩きだした。
このバグは、連射コントローラーでABボタンを連射すると移動完了処理がキャンセルされて歩数消費なしに進むのを悪用している。
歩数がカウントされないため、壁の判定を無視することができるのだ。ただし、連射を止めたり立ち止まると歩数がカウントされてしまう。
そうなると一巻のおしまいだ。
*かべのなかにいる*
状態になってしまう。
さながらイライラ棒のような感覚でマップの裏側を冒険する。LLVIの民家などの小さいマップは複数まとめて一枚の大きなマップになっている。レトロゲームなので容量の関係もあるのだろう。
壁抜けをすると、そのマップ上にある場所なら入ることができる。そして、配置されている小さいマップには入るための条件のあるマップも存在する。
このバグは、その条件を無視して壁から入れるのだ。
その後、普段絶対来れないマップの裏側からLLVIの世界を堪能した。
「おおっ! ここってこんなことになってたのか…」
マップの裏側を冒険した満足感やら日々の疲れで、気がついたら俺は寝落ちしていた。
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気ままミャtips
【ゲームネタ】
この物語に登場するゲームネタやバグは、ありそうなものを適当に改変しています。「なんか聞いたことある!」「このバグ知ってる!」と思ったら、たぶんそれが元ネタです。
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