第26話

「カーソル君、本当にここに入るのみゃ?」


 アーミャは困惑していた。


「ここ、民間みゃよ?」


 ボクは今、カーソル君に操作されて何の変哲もない普通の民家に入ろうとしていた。知らない人の家に勝手に入るのは非常識だ。泥棒だと思われて通報されてしまうかもしれない。


 必死に抵抗するとカーソル君の操作が鈍くなった。少しは抵抗できるようだ。それでも足がグギギと前に動こうとする。


「や、やめようみゃ…」


 ひたすらカーソル君に呼びかけた。ボクの必死の抵抗や呼びかけも虚しく、民家に入ってしまった。


「お、おじゃみゃしみゃ~す」


 開き直って挨拶してみる。


「…誰も、いないのかみゃ?」


 返事は返ってこない。


 料理をする音や本をめくるような音が聞こえてくる。リビングの中を覗くと人がいた。この家に住んでいる老夫婦のようで、おばあさんが台所で料理をしていて、おじいさんが椅子に座り分厚い本を読んでいる。


 結構大きい声を出しているはずなのに、この民家の老夫婦は何事もなかったかのように生活している。


「みゃっ、どこいくみゃ!?」


 一言挨拶しようと思ったらカーソル君に操作されて二階に上がってしまった。寝室に無断で上がり、そして、ボクを操作しておもむろにクローゼットを開ける。カーソル君がクローゼットからビンを取り出し所持品に入れようとした。


 ダメ、そんなことボクは許さない!


「盗みはダメみゃ!!」


 ボクがそう言うと操作が途切れた。その隙にビンをクローゼットに戻す。


 物を盗んでいいのは野良猫くらいだ。いや、盗んじゃダメだ。欲しい物は悪いことをしないで手に入れないと。そのほうが絶対いいに決まっている。


「こんな盗賊みたいなことやめようみゃ…」


 再び操作されて廊下の何もない壁で止まると、カーソル君がおもむろにメニュー画面を開いた。


 この前買ったスピードリングを選択した。よくわからないけど、これをはめて満足したらこの民家から出られるかもしれない。


「うみゃぁ…これ、取っちゃうのかみゃ?」


 この前カーソル君がプレゼントしてくれた三日月のアミュレットを装備のアクセサリー枠から外されてしまった。カーソル君はそこにスピードリングを装備した。


 なんだか少し体が軽くなった気がする。


 こっそりと三日月のアミュレットを首にかけ直した。カーソル君にバレたらまた外されるかと思ったけど、そんなことはなかった。


「それでなにをするの…みゃっ!?」


 カーソル君がボクを壁に向かって走らせた。それも全力疾走で。


「や、やめるみゃあああっ!?」


 壁と鼻がキスをしそうになり、目をぎゅっと瞑った。鼻をヒクヒクとさせながら、いつ鼻にツーンとした痛みが来るのかと待ち構える。


 …が、一向に何も衝撃は来ない。


 不思議に思い、ゆっくりと目を開けてみた。


「ここ、どこみゃ?」


 ボクは民家から出ていた。


 でも、よくわからない場所を歩いている。


 一面黒色の世界で足元には何もない。そんな何も無い場所から、たまに民家の壁やお店の壁が生えている。


 アーミャは今、マップ裏の世界を歩いていた。


 建物の壁の横を通り過ぎてどこまでも進む。最初はすごく怖くてビクビクしていた。次第に慣れてきて、うたた寝をしていたらついに操作が止まった。


「ここどこみゃ!?」


 わけがわからなくて思考が停止する。


「ここどこみゃ!!」


 ボクの操作も停止する。右に歩いても左に歩いても、上に歩いても下に歩いても。一歩も移動できない。


 でも、カーソル君に操作されないということは今日の冒険はこれでおしまいらしい。今回も前回もボクは全然楽しくなかった。


「カーソル君がなにをしたかったのかよく分からなかったみゃ…」


 その後、転移の石で宿屋に戻った。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【エルフ】


 この物語では身長の高い耳の尖った種族。


 目が良いため弓が得意。エルエルにエルフ。きっとLLシリーズには毎回エルフが重要なキャラとして登場するのでしょう。

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