第25話

「にゃんにゃにゃ~ん♪」


 所持金に数字がいっぱい並んでいると、それだけで心に余裕ができる。昨日は天国のような場所に行って気分がとてもいい。アーミャは陽気に歌を口ずさみながらスキップをして冒険に出かけた。


 こんなにお金があるんだ。


 少しくらい、贅沢してもいいよね?


 今まで感じていた不安や恐怖の積み重ねでストレスが溜まっていたのだろう。アーミャはいくつもの町を移動して王都イルディアに着くと、そこから出発する飛空艇に乗って空の旅を始めた。


「ようこそ! 海のバザールへ!」


「はみゃぁ~」


 照りつける太陽が到着を歓迎しているようだ。心地よい潮風が気持ちいい。アクアマリンのような目をキラキラとさせて周りを見た。ここは船が頻繁に行き来していて様々な地方の食べ物が売られている。漁も盛んで新鮮な魚も売られている。


 お金が貯まったら一度は来たいと思っていた。まだ色々と不安は残っているけど息抜きも必要だ。新鮮な生魚を見ているとよだれがでてくる。口を拭いながらバザールの大通りを歩く。


「新鮮な魚はどうだい? おいしいよ!」


「アジを二匹くださいみゃ!」


「あいよ!」


 気になったものを少しずつ、食べられそうな数を購入して所持品に入れていく。


「ここが…みゃぐろ専門店…」


 そして、ついに今日の目的地、高級マグロ専門店までやってきた。マグロなんて生まれて一度も食べたことがない。エルフだった時は興味がなくて一度も入らなかった。猫獣人になった影響なのか、魚がすごくおいしそうに見えてしまう。


 特にマグロは名前を聞いただけでうっとりとしてしまう。


 あれ?


 このお店は扉が開けられなかったんだっけ?


 軽く押すとカランカランという音が鳴ってすぐに扉は開いた。扉が開かないと思っていたのは気のせいだったらしい。中に入ると店員に席へ案内された。


「注文はどれにしますか?」


「こ、高級みゃ…みゃぐろ丼みゃ!」


「高級マグロ丼ですね」


「みゃいっ!」


「少々お待ちください」


 店員は注文を受けるとカウンターへ行き、料理が完成するとボクの目の前に高級マグロ丼を置くと、お金を受け取り離れていった。


「こ、これが…みゃぐろ丼…」


 丼に盛られたご飯の上にマグロが山のように盛られている。キラキラとマグロが輝いている。見ているだけでどんどん唾が溢れてくる。唾をゴクリと飲み込み、マグロを一切れ持ち上げて口の中に運んだ。


「みゃっ、みゃぐろうみゃいみゃあ~♪」


 食べた瞬間、口の中いっぱいに幸せが広がった。その幸せを噛みしめるように、ゆっくりとマグロを食べ始めた。味わって食べているとカーソル君が現れた。そして、アーミャは操作された。


「そ、そんみゃ~」


 食べかけの高級マグロ丼から引き離されていく。まだ半分以上残っているのに。ボクは小さくなっていく高級マグロ丼を名残惜しい気持ちで見つめることしかできなかった。


「みゃったくもう! まだ食べ終わってみゃかったのに…」


 カーソル君に操作されるがまま飛空挺に乗り、ボクは再び空の旅を始めた。着いた先で高級マグロ丼よりもいいものがなかったらへそを曲げてやる。


「と、とろける…みゃ…」


 行き先を知らないまま乗った飛空艇は海とは真逆の砂漠に着いた。潮風ではなく砂埃の舞う砂漠のオアシス。照りつける太陽が体力を奪っていく。


 猫は汗の出る所が肉球と鼻くらい。温度管理が苦手で、普段は過ごしやすい場所に移動して過ごしている。猫獣人であるアーミャはその名残で暑いのが苦手だったりする。


 砂漠はおいしいものが何もない。おいしい野菜やおいしい魚なんてどこにもない。あるのは不味い保存食。乾燥していて外にいるだけで髪の毛がゴワゴワになる。


「こんみゃところ早く帰りみゃい」


 文句を言っているとカーソル君がボクを操作して一軒のアクセサリーショップに入れた。


「らっしゃい! ここでしか手に入らないものがいっぱいあるよ!」


「スピードリング」


「まいどあり!」


 店から出るとカーソル君がボクの操作を止めた。スピードリングを買うのが目的だったらしい。


 今日はやけにグイグイと移動させられて疲れた。もしかしたら今日はカーソル君が忙しい日だったのかもしれない。


 ボクも…高級マグロ丼を食べていて忙しかったのに…


 どうでもいいスピードリングのせいで最後まで食べることができなかった。暑さで体力が奪われて怒る気にもなれない。


 猫耳の中に砂埃がジャリジャリとくっついている。すぐにでも洗い流したくて、転移の石を使い一目散に宿屋へ走った。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【猫獣人】


 猫耳と猫尻尾のついた種族。


 猫の目は赤色が見えないが、この物語の猫獣人は人間と変わらない色覚と視力を持っている。人間よりも数倍耳がいい。動きが俊敏で格闘士に向いている。毛の生えている場所は人間とほぼ変わらないためケモ度は低い。

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