第22話

「…うみゃ?」


 アーミャは目が覚めた。ふかふかの布団から起き上がると目を擦る。


「ふかふかの布団みゃ」


 腕を上げたり、片手をギュッと握ってはパーにしてみる。


「筋肉痛、治ってるみゃ…どうなってるみゃ?」


 不思議に思いつつも布団から出ると、カランカランと何かが床に落ちた。


「エリクサーみゃ…」


 それはエリクサーの空き瓶だった。ずっと握っていたようで、片手の掌に瓶を強く握ったような跡がついていた。知らない間にこれを飲んだのだろう。


 ボクが覚えてる最後の記憶は、幽霊に操作されていたこと。もしかしたら幽霊がエリクサーを飲ませてくれたのかもしれない。ボクは大切にエリクサーのビンを抱えると、瓶の縁をそっと撫でて所持品に入れた。


「トサイ町の宿みゃ…」


 ダラの町にいたはずなのに、なぜかボクはトサイ町にいた。お風呂に入り、すぐに外に出た。どこをどう見ても正真正銘、ゲームの開始地点であるトサイ町だった。


 ここは名前のないはじまりの町だったはずなのに、今はトサイ町だと確信が持てる。昨日までいた次の町の名前はダラの町だ。


 …あれ?


 ゲームって、なに?


「にゃにが、どうなってるみゃ…?」


 そして、腹ごしらえのために料理屋に入って更に驚いた。所持金がすごく増えていたのだ。それもポータンで稼いだ以上のお金を。


「いらっしゃいませ、どれを食べますか?」


「みゃんでこんにゃに持ってるのみゃ!?」


「どれを食べますか?」


「ボクがみゃんでこんなに持ってるかわかりみゃすか!?」


「どれを食べますか?」


「あっはい選ぶみゃ…」


 店主に何を聞いても同じ言葉しか返ってこないのは知っていたのに、驚きのあまりつい聞いてしまった。その対応で少し冷静になったボクは、出てきた料理を無言で食べた。


 よくわからないけど、ボクを操作する幽霊はいいやつみたいだ。


 ボクの命を狙っている悪魔でも、死神でもなかった。


 むしろ神様みたいな存在かもしれない。


 たまに嫌なことはするけど、この世界でボクのために動いてくれる大切な存在。名前はわからないし言葉も届かないけどここまでしてくれるんだ。もう友達といっても過言ではない。


 …でも、友達だからってボクを脱がそうとしたのは許さない。


 もしも直接会えたら頭に噛みつき…は、しないけど、爪をたてるくらいならいいよね。だって人前で裸にされそうになったのだから。


 ●


「ふみゃ~あ…みゃっ!?」


 やることもなくダラダラと町を歩いていると体が勝手に動いた。栗色の尻尾がついつい揺れる。先っぽの毛色が白いところで弧を描く。


「こ、この前は悪いやつだと思って悪かったみゃ」


 話しかけても返事がこないのはわかっていても、少しでも相手に届けばいいと思って謝る。ついつい屋台の美味しそうな匂いにつられて寄り道をする。


 前に入っていたパーティーのメンバー達は全然見つからないけど、誰かが一緒にいると思えば前向きになれる。


「そんな急かさなくてもちゃんと歩くみゃ。今日は何するのみゃ?」


 今日もボクは、この世界を自由気ままに冒険する。


 ボクが歩いて、顔の見えない誰かが操作をして。


 まだ行ったことのない、この世界のどこかへ。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【数字】


 数字には様々な表記がある。日本でよく使われるのは「1、2、3…」のアラビア数字、「一、二、三…」の漢数字、「I、II、III…」のローマ数字。


 縦書きの小説では一般的に漢数字が使用されている。

 零、一、二…一○、一一、一二…。


 ただし、横書きで一一と書くと少し読みにくいため、デフォルトが横書きのweb小説では作者によって表記が変わる。




 ちなみに、ここまでが二章です。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。

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