第19話
「みゃみゃっ!?」
アーミャは兎のモンスターのお墓に供えるものを探していた。市場であるものを見つけてピーンときた。耳もピーンと立っている。なんなら尻尾も同じくらい立っている。
おいしいニンジン 900G
兎はニンジンが好物。ニンジンが嫌いなボクとしてはニンジンの味なんてどれも一緒だ。味の違いなんてわからないし、おいしいニンジンの見分け方なんて更にわからない。これにはおいしいとついているから、おいしいに違いない。ボクは値段も見ずに行商人から即購入した。
「すみみゃせん! おいしいニンジンくださいみゃ!」
おいしいニンジンを大事に抱えて兎のモンスターのお墓に向かった。到着すると、お墓は掘り起こされていて大きな穴が出来ていた。そして兎のモンスターが泥まみれで跳ねていた。
「らび?」
「いっ、生きてたのかみゃ!?」
近寄って兎のモンスターの体に付いている泥を落とす。泥を落とすと、不思議なことにボクが散々サッカーボールのように蹴り続けてボロ雑巾のようになっていた体が元通りになっていた。不思議だけど今は謝ることが先だ。
「サッカーボールみたいに蹴ってごめんみゃ。体が勝手に動いたのみゃ」
体が勝手に動くのもおかしいが、生き物をサッカーボールのように蹴るのはもっとおかしい。そのことに気づかず、ボクはよくわからない謝罪を続けた。兎のモンスターは言葉を理解したのかボクの足にすり寄ってきた。
「ゆ、許して…くれるのかみゃ?」
「らび!」
「これ、お詫びのニンジンみゃ…」
おいしいニンジンを渡すと兎のモンスターがかわいく両手で受け取り、かわいく首を傾げた。しばらくするとポリポリとかわいく食べ始めた。
「らびっ!」
「うみゃあ〜らびっ! みゃ〜」
アーミャは 魅了に かかった!
きっと許してくれた。言葉は全くわからないけど許してくれたような気がする。こんなにかわいく食べてくれたから許してくれたはずだ。
「ハグ…は、小さくて出来ないから、抱っこしてギュってしてもいいかみゃ?」
ハグは仲直りの印。ボクが探しているパーティーメンバーの一人、ティアと最初で最後の喧嘩をした後にもハグで仲直りをした。
抱っこをするためにしゃがんで手をそっと出すと、かわいい兎さんがぴょんと避けた。ボクの目の前でまたかわいい踊りを始めた。ボクの仲直りの印がハグであるように、かわいい兎さんの仲直りの印は踊ることなのかもしれない。そう思い、ボクは喜びながら踊りを見守った。
「らびらび~」
その場でくるくると回る。サッカーボールのように蹴る前と同じように。体が光り、手や足にかわいい衣装を身に纏っていく。それが終わると最後に何かが弾けるように体を反らしてかわいい服を着た。
「らびっ!!」
「うみゃ~かわいいみゃあ~」
かわいい踊りを魅せてくれたお礼に、尻尾をブンブンと振りながら拍手をする。変身が完了したかわいい兎さんは、ゆっくりとボクに近づいて片手を掴んだ。
そして…
「痛いっ! 痛いみゃっ!?」
唐突にプロレス技を決めてきた。
体を動かそうとしても全く動かない。怖いのも嫌いだけど、痛いのも嫌いだ。痛さと怖さを比べるなら、体を勝手に動かす幽霊のほうがやさしく感じる。
アーミャは 毒に かかった!
「らび!」
「や、やっぱり…蹴ったこと怒って…っ!」
それはそれは、多種多様なプロレス技を使ってボクを蹂躙してくる。
アーミャは 混乱に かかった!
「らびっ! らびらびっ!」
「あれ、痛くみゃい? …ってやっぱり痛いみゃぁ!!」
アーミャは 暗闇に かかった!
「痛くて暗いみゃああああああああ!」
アーミャは 麻痺に かかった!
「みゃばばばばばばば」
数時間もの間、プロレス技を一方的にかけられ続けた。
かわいい兎さんはボクをボコボコにして溜飲が下がったのか、ピョンピョンと跳ねてどこかへ消えていった。かわいいものにはトゲがあるっていうけど、すごく痛かったしすごく怖かった。
幽霊はこのことを知っていたのだろう。
だから変身する前に倒したんだ。
なんだか少し、体がだるい…
アーミャは のろいに かかった!
―――――――――――――――
気ままミャtips
【mたRb。】
丸くてかわいい兎のモンスター。
かわいい杖を出して華麗に変身します。変身後はかわいく暴れます。それはもうかわいくプロレス技とかを使い蹂躙してきます。状態異常という名の爪痕を残していきます。倒すなら変身前か無防備な変身中にしましょう。
そんなの卑怯じゃないかって?
ダメダメ、手段なんて選んではいられません。
罪を憎んでラビを憎まず。
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