第17話
アーミャは目の前に広がる惨状を見て絶望した。
さっきまで踊っていた兎のモンスターがボロ雑巾のように地面に転がっている。
「蹴るつもりなんて…なかったみゃ…」
こうなった原因は、アーミャが今まで蹴り続けていたからである。サッカーボールのようにポンポンと。誰かに体を操作されて、兎のモンスターが動かなくなるまでずっと蹴った。HPが0になるまで蹴るのをやめなかった。
「友達に…なりたかったみゃあ…」
友達はサッカーボールではない。
「ぐすっ。後でっ、なにかお供えものを持ってきてあげるみゃ」
穴を掘って簡単なお墓を作った。兎のモンスターを地面に埋めると、墓標として兎のモンスターが持っていた杖を立てた。お墓の前で手を合わせる。せめて天国に行けますようにと祈ると、ボクは次の町に向かった。
●
次の町に入ると、まずは腹ごしらえをすることにした。冒険者は旅をするため一日三食の食事を食べないこともある。なんならモンスターとの戦闘で二日や三日食べられない時もある。パーティーに入っていた頃の仲間、忍者のイオなんて回復が必要な時以外は食べなかった。
でも、ボクは食べられる時にはなるべく食べたい派だ。
昨日の夜は何も食べられなかったから少し奮発しておいしいものを食べよう。そう思い所持金を見た。
所持金 980G
ポータン討伐で貯めた所持金は大量に手榴弾を買ったことで全て溶かしていた。宿屋の宿泊代は500G。その代金を引くと、ご飯に使えるのは480G。そんな少ないお金でおいしいものは食べられない。
「す、すくみゃい…」
耳と尻尾をへんにゃりと曲げながら安そうな料理屋に入る。店内には忙しそうにレジ打ちをしているおばちゃんと、忙しそうに料理を作っているおじちゃんがいた。
ここは家族経営のこじんまりとしたお店だったらしい。その証拠に二人と似たような雰囲気の女の子が、これまた忙しそうに店内を動き回っている。
「いらっしゃい! ここで食べていくかい? それとも持ち帰るかい?」
「あっ、ここで食べみゃす」
「それならそこに座りな!」
おばちゃんに案内されるがまま席に座る。キョロキョロと机の上を見ると、メニューの書いてある紙はどこにもない。
「どれを食べるんだい?」
おばちゃんがそう言うと、直後に料理の購入メニュー画面が表示された。そうだった。この世界ではこうやってアイテムを購入するんだった。はじまりの町でもこうしていた。
はず…なのに…
なんでメニューが机の上にあると思ったんだろう?
「どれを食べるんだい?」
おばちゃんにさっきと同じ質問をされて、慌てて料理の購入メニュー画面を見た。
▶モンタシチュー 300G
ポータンソテー 280G
・
・
・
おいしいサラダ 30G
キャンセル
モンタは牛のモンスター。つまりモンタシチューは牛肉のシチュー。ポータンはボクがはじまりの町で散々倒していた豚のモンスター。だからポータンソテーは豚肉のソテー。買うならこの二つのどちらかだ。
モンタのお肉はじっくり煮込むとやわらかくておいしくなる。シチューに入っているのなら、じっくりコトコト煮込まれているはずだ。モンタのことを考えていると口から涎が垂れてきた。
「どれを食べるんだい?」
「モンタシチ…」
モンタシチューを注文しようとして、あることに気がついた。
「モンタシチューだね!」
「やっぱりキャンセルみゃ!」
危なかった。これを注文すると兎のモンスターのお墓に供えるものが買えなくなる。でも、いくらのものを買うかは決めていない。予算はあるに越したことはない。ボクはメニューを下に下に、どんどん安い料理を見ていった。
モンタシチュー 300G
ポータンソテー 280G
・
・
・
▶おいしいサラダ 30G
キャンセル
「どれを食べるんだい?」
「ええっとえっと、おいしいサラダお願いみゃ!」
「おいしいサラダだね!」
おばちゃんにまた同じことを聞かれて、慌てて一番下に書かれていた一番安いおいしいサラダを注文した。おばちゃんはボクの所持金から30G減らすと、テーブルの上においしいサラダを置いた。
「ゆっくりしていきな!」
おばちゃんはニコニコしながらボクにそう言うと、また忙しそうにレジ打ちの仕事に戻った。他にもおいしそうなもがあったのに。サラダじゃお腹、全然ふくれないよ。尻尾を地面に垂れ下げて、サラダを無言で食べた。
「また来てね!」
サラダを食べ終わり、店から出る時に女の子にそう言われた。その子に軽く会釈をして、少し歩いてから気がついた。
注文はおばちゃんが受けた。
料理もおばちゃんがすぐ出した。
会計だっておばちゃんがやっていた。
それなら…
あの忙しそうなおじちゃんと女の子は、ずっと何をしていたんだろう?
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気ままミャtips
【G】
ゲームの所持金の単位。
ゲームなどの創作物でよく使われているお金の単位。某ゲームを作るゲームでは、この単位がデフォルトで設定されている。グラムでもギガでも、名前を呼んではいけない黒い悪魔のイニシャルでもない。
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