第16話
「…村人、いなくみゃった」
アーミャは洞窟ダンジョンが無くなったことを教えるために村人の居た場所まで戻った。しかし、戻ってみると村人の姿はどこにもなかった。
次にここを通る駆け出し冒険者達には悪いけど、村人はもう洞窟のモンスターに恐れる必要はない。だから安心して村で生活するといいと村人に伝えたかったのに。
「馬車もにゃいっ!?」
乗り合い馬車まで消えていた。運転手に言われたから村人を助けたのに、乗車料金をちゃんと払って乗ったのに、こんな道端で置いていかれてしまった。
まったく二人とも、ボクに頼んでおいて勝手にいなくなるなんてっ!
「みんにゃ薄情もの達みゃ!」
舌っ足らずな言葉で迫力はないが、頬を膨らませてイカ耳になって怒った。
少し落ち着くと自分のレベルを確認した。レベルは鳥のモンスターを倒した時から変わらず、レベル6。洞窟ダンジョンを壊してもボスの経験値は貰えず、ダンジョン中にいたはずの雑魚モンスターの経験値も全く貰えなかった。
せめて村人に感謝されれば大量に消費した手榴弾にも意味があったと思えたのに。
力なく耳と尻尾を垂らすとトボトボと歩きだした。
●
「ふみゃあ~」
暖かいひだまりの中、目が覚めた。洞窟ダンジョンを破壊…もとい攻略したこともあり、移動が遅かった。そのため、アーミャは道中の木陰で一晩過ごした。
起き上がると背伸びをする。尻尾もつられてまっすぐ伸びる。軽く目を擦ると次の町に向かって歩き出した。
この世界では基本的にどこで寝ても、つまりはセーブをしてもモンスターに襲われることはない。なぜなら、寝ている時は一歩も歩かないから。襲ってくる人、盗賊や帝国兵もモンスター扱い。
歩行しているとエンカウントして、その場で戦闘が始まる。
そう、ちょうど目の前のあれみたいに。
「ふみゃあ~あれはなにみゃぁ~」
ちょうど次の町が見えてきた時、町の前でぴょんぴょんと跳ねているピンク色のモンスターを見つけた。
丸くてかわいくて小さくてかわいくて。アクアマリンのような目をキラキラと輝かせて、そのモンスターに警戒されないようにゆっくり近づく。モンスターは首を傾げながらかわいく鳴いた。
「らび?」
「鳴き声もかわいいみゃあ~」
ピンク色の二つの長い耳がピンと立っている。自身を大きく見せるために背伸びをしているみたいでかわいい。尻尾は丸くてもふもふかわいい。兎のモンスターみたいだ。かわいいモンスターはボクが近づいても警戒しない。むしろ自分から足元をすりすりしてくる。
この世界にずっと住んでいて、こんなにかわいいモンスターを見たことがない。
友達に、なれるかみゃぁ…
つい心の声まで語尾が「みゃ」になる。それほどまでに最近のボクは飢えていたのだ。仲間や友達という存在に。
思い返せば、猫獣人になってから誰とも心温まるふれあいなんてしていない。むしろ人間の醜さ、冷酷さしか感じなかった。同じ言葉を繰り返されるような事務的な対応しかされず、頼み事が解決したら道端に置いていかれた。
誰かにすりすりされることなんてこれが初めてだ。
頭を撫でようとしたら、かわいい兎さんがぴょんぴょんと跳ねてボクの目の前に立った。
ポン!
「らびっ!」
「ふみゃ~らびっ! みゃ~」
かわいい兎さんが何もない空間から杖を取り出した。取り出す瞬間にパステルピンクのかわいい煙まででた。かわいい兎さんは杖を掲げると、その場でくるくると回り始めた。体が光り、かわいい衣装を身に纏っていく。
「ボクのために踊ってくれてるのかみゃ?」
「らびらび~」
ボクの言葉に返事をするかのように、かわいい兎さんが頷く。
友達になれるかもしれない。こんなにかわいい踊りをボクのために見せてくれている。言葉が通じなくても心を通わせることができるのだ。もう親友と言ってもいいだろう。
その場で座り、尻尾を揺らしながらかわいい踊りを見ていると、突然ボクの体が動いた。まったく、タイミングが悪い幽霊だよ。
こんな時に体が勝手に動いたらかわいい踊りが最後まで見れない。不満に思いながらもボクの体は勝手に動く。ボクは立ち上がると一歩、また一歩と、かわいい兎さんに近づいていく。目と鼻の先で立ち止まるとボクを操っている幽霊は、ボクの足を大きく振り上げた。
「やっ、やめてみゃあああっ!?」
そして、かわいい兎さんを全力で蹴った。
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気ままミャtips
【tips】
テレビゲームで使われる場合は、コツやテクニック、ヒントなどを表す言葉。
ここでは本編で登場する用語などの説明を書くことが多い。本編には全く関係ないことが書いてあることも稀によくある。
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