第14話

 アーミャは洞窟の前で立ち尽くしていた。


「…手榴弾、よわよわだったみゃ」


 手榴弾が固定ダメージの出る最強アイテムだと思っていたからだ。しかし、モンスターに6ダメージしか与えられなかった。一匹倒すために使った手榴弾はなんと167個。雑魚でこれならボスを倒すためにはもっと必要だ。ボスのHPは雑魚の倍以上あるのだから。


 300個、いや…900個あっても足りるか怪しい。


 ドカン!


「ひみゃっ!?」


 ため息を吐いていると落ちている手榴弾が爆発した。どうやら他の手榴弾が爆発した衝撃で安全ピンのついている手榴弾が爆発したようだ。爆発した手榴弾の近くに落ちている手榴弾も連鎖して爆発していく。


「ゆ、幽霊の仕業かと思ったみゃ…」


 所持品欄を確認すると99個で1スタックの手榴弾が残り16スタックと少し。手持ちの手榴弾を全て使えばボスは倒せるかもしれない。でも、これはレベリング用に買ったアイテム。雑魚一匹でこんなに使うなら使い物にならない。


「こんなのただのゴミみゃ」


 手榴弾での簡単モンスター討伐を期待して、20個しかない所持品枠の余りと所持金をほぼ全部使ったのに、残ったのは所持品枠を圧迫するだけの要らないアイテム。


 レザーグローブと矢を1スタック、今回ドロップしたポーション。そして16スタックのゴミアイテム。道中の雑魚やボスを倒してアイテムがドロップしても、所持品枠に空きがなければ手に入れることができない。


「そうみゃっ!」


 洞窟の入り口を死んだ魚のような目で見ていたら名案を思いついた。


 それはもう栗色の耳と尻尾がピンと立つほどに。


 この洞窟に全部投げ捨ててしまえばいい。そうすれば所持品枠が空いて、運よくボスに当たるかもしれない。次の町で店売りしてもいいけど、買ったときの十分の一以下の値段しか買い取ってもらえない。損するくらいならここで捨てても一緒だ。


 この世界では爆発で洞窟が崩れることはない。


 なぜなら、オブジェクトにはHPが設定されていないから。


 魔法で大地が焼け焦げたり土が抉れないのはこれのお陰だ。迷惑なモンスターの住んでいる洞窟だから、手榴弾か爆発しても人間に被害はない。むしろモンスターが倒せたらお得だ。


 そんなわけだから、安心してここに爆発物を捨てられる。


 運よくボスが倒せたら村人を助けることができる。倒せなかったとしても、次に戦う冒険者のためにボスを弱らせることはできるだろう。そう思ったボクは、手榴弾のピンを抜かずに洞窟に投げ入れ始めた。


「みゃあっ!」


 手榴弾を洞窟に投げ捨てた。


「えいみゃっ!」


 数時間かけてとにかく投げ捨てた。


「飛んでけみゃ〜っ!」


 途中から疲れてしまい、捨てるだけだからと手を抜いた。そのせいで入り口近くにも手榴弾が散乱している。確実にボスにはダメージを与えられないけど、それを投げ入れる気力はもうない。


 そして、最後のひとつ。


「みゃあ…みゃあっ。これでっ、さいご…」


 呼吸を整えると、手榴弾のピンを抜いて全力で投げ入れた。


「どーんだみゃああああ!」


 投げ込むと爆発に巻き込まれないように離れた場所でしばらく待った。


 でも、猫耳を押さえていくら待っても爆発音は聞こえてこない。不安に駆られ、洞窟に近づき耳をすませる。すると、ドカン、ドカドカという爆発音が聞こえてきた。


「なんみゃ、ちゃんと爆発して…」


 爆発音が近く、そして多くなっていく。洞窟の中には散らばる無数の手榴弾。その爆発が近づいてきていた。


「…って、ここ危ないみゃ!」


 足元の手榴弾に躓きながら慌てて離れる。ギリギリのタイミングだったようで、ドカンという爆発を背中に受けた。ゴロゴロと転がり、目の前にあった木に頭をぶつけて目を回す。立ち上がる頃には爆発は鳴り止んでいた。


 そう…


 爆発は、鳴り止んでいた。


「ど、どうなってるのみゃあああああっ!?」


 ガラガラという土や岩が崩れる音と共にダンジョンが壊れ始めた。洞窟の入り口が無くなり、地面が陥没して地割れを起こす。崩れる音が鳴り止むと、ダンジョンだった場所には荒れた土地だけが残った。洞窟ダンジョンは目の前から消えてしまった。


「や、やっちゃったみゃ…」


 これでは駆け出し冒険者のダンジョンチュートリアルができなくなる。次に戦いにくる冒険者のためになればいいと思っただけだった。


 駆け出し冒険者が使うためのダンジョンを無くしてしまったボクは、自分のしてしまったことを後悔した。洞窟で爆発物を使えば、崩れるのは簡単に想像できるはずなのに。


 あれ?


 なんで洞窟にはHPがないから大丈夫だと思ったんだろう?




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【HP】


 ゲームキャラクターの体力。


 ヒットポイントの略称だったりヘルスポイントだったり。エイチピー、エッチポイントと呼ばれたりもする。様々なゲームで登場する謎の多いステータス。


 テレビゲームのRPGでは、攻撃を受けてHP0になると戦闘不能になるが、大抵は蘇生アイテムで復活できる。HPが体の損傷具合だとしたらHP50%以下の状態は半身の消失、HP0は無ということに…無から蘇生できるのはおかしい。


 HPとはいったい、うごごご…

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