第13話
アーミャは壁抜けをした後、もう一度乗り合い馬車に向かった。
村人から依頼を受けたけどダメだったと運転手に伝えても何も返事が返ってこなかった。自分から見てきてくれと頼んできたのに頼んだらおしまいなんて、ボクをなんだと思っているんだ。馬車の中に入り、他の冒険者に助けを求める。
「この先の洞窟に迷惑なモンスターがいるみゃ。村人が困っているからレベル10以上のパーティーはいみゃせんか?」
誰からも返事は返ってこない。乗っている時も一言も声が聞こえてこなかった気がする。馬車が止まった時だって、すごい衝撃だったのに誰も悲鳴を上げていなかった。
「ええっと、いないん…ですみゃ?」
NPCは必要なこと以外言わない。ううん、言えない。
なぜなら、設定されていないから…
それが、この世界のルール。
それなのに急激に不安が増す。役目を終えた人形のように微動だにしない冒険者達。ボクだけが異質な存在のように感じる。急激に体温が下がり尻尾が震える。怖い、離れないと、そう感じたボクは馬車から離れてトボトボと洞窟ダンジョンへ向かった。
本当はダンジョンなんて、洞窟なんてすごく怖い。
けど、一応秘策があるのだ。
次の町に行ったときのレベリング用に大量に買っておいたアイテムが。今使ってもレベルが上がるから問題ない。ここのボスにも効いたはずだ。
馬車で感じた不安を振り払うかのように、無理矢理気分を明るくして尻尾を揺らす。所持品からその秘策のアイテムを取り出した。
「手榴弾っ、みゃ!」
理屈はよくわからないけど、手榴弾は誰が使っても固定ダメージが出るすごいアイテム。それはそれはとてつもなくすごく強い。
パーティーで冒険をしていた頃、剣術士のジルは途中から使わなくなったけど、これがあれば荒事はだいたい解決できる。
だからいっぱい買った。
それはもういっぱい。
所持品欄にはひとつの枠にアイテムが99個持てる。それ以上持つ場合は別の枠を使うことになる。所持品欄を開く。そこには手榴弾という文字がギッシリと並んでいた。
「みゃっはっはっ! これだけあればどんな敵だって楽勝みゃ〜」
ポータン討伐で貯めた所持金がほぼ全て無くなったけど、これで敵を倒せばレベルも上がるし所持金もさらに増える。
一石二鳥…もとい一手榴弾二得だ。
洞窟に入ろうとすると、ちょうどいい所に鳥のモンスターが飛んできた。こちらにはまだ気がついていない。
「鴨がネギを背負ってきたみゃ…この石で倒してやるみゃ!」
モンスターに気づかれていなければ先制攻撃することができる。アーミャは大きく振りかぶって投げた。
ポータンとの長く苦し…くはない、ほのぼのとした金策ついでの弓の練習のお陰で、手榴弾が飛んでいる鳥のモンスターに命中した。
アーミャの こうげき! 1ダメージ!
手榴弾は爆発することなく鳥のモンスターに当たり、地面に落ちてコロコロと転がる。アイテム説明には書いていないが、手榴弾とは本来、安全ピンを抜かないと爆発しないようになっている。
「クエエエエー!」
「このピンを抜けばいいのかみゃ?」
ピンに気がついたアーミャは、所持品から再び手榴弾を取り出してピンを抜いた。そして、飛行の邪魔をされて激昂した鳥のモンスターに投げつけた。当たると同時にドカンという爆発が起きる。
「やったかみゃ!?」
ワクワクとしながら爆発の煙が消えるのを待つ。数秒すると煙が晴れてきた。徐々にモンスターの輪郭が見えてくる。バサバサと翼を羽ばたかせ、鳥のモンスターが地面に降り立った。
アーミャの こうげき! 6ダメージ!
「クエエエエー!」
「…みゃ、みゃんで?」
アーミャの攻撃はモンスターに全くダメージを与えられなかった。傷ひとつ付いていない羽毛をなびかせて鳥のモンスターが叫ぶ。
先制攻撃は不意打ちのため、そのターンはモンスターからの攻撃がこない。だが、先制攻撃はもう終わっている。
自分のターンが終われば、次はモンスターのターン。
それが、この世界のルール。
「クエクエッ!」
モンスターが余裕の笑みでアーミャを見下す。その場で地面を蹴り、大きな爪で足元の土を抉った。飛んでいた時は小さく見えたが、その大きさはアーミャの倍以上あった。レベル差も恐らく倍以上あるだろう。
「こ、こみゃいでえええ!」
痛いのは嫌いだ。
逃げられないと感じたボクは、がむしゃらに手榴弾を投げた。所持品から出しては投げていく。怖くて目を瞑ってひたすら投げた。
アーミャの こうげき! 1ダメージ!
安全ピンを抜いたり抜かなかったり。爆発したりしなかったり。
アーミャの こうげき! 6ダメージ!
アーミャの こうげき! 1ダメージ!
とにかくモンスターにドカドカと投げつけた。
アーミャの こうげき! 6ダメージ!
アーミャの こうげき! 1ダメージ!
アーミャの こうげき! 1ダメージ!
そして、正気に戻った頃には…
レベルアップ! レベル6になりました!
「へみゃっ!?」
レベルアップ音に驚いて目を開けると、モンスターが地面に転がっていた。爆発していない手榴弾が地面に散らばる中、倒したモンスターが消えてドロップアイテムが出現した。
ポーションを てにいれた!
「た、倒せたのか…みゃ?」
気が抜けてその場でペタンと座り込んだ。猫耳も一緒にペタンと垂れ下がった。相手のターンでもアイテムが使えるなんて今まで知らなかった。ここでふと、疑問が生まれた。
あれ?
ターンって、なに?
―――――――――――――――
気ままミャtips
【メタ発言】
メタフィクション発言の略。
ゲームや小説などのキャラクターが、本来プレイヤーや作者、読者しか知らないはずの情報を発言すること。
ストーリーやバグ、ターンなど、アーミャがたびたびメタ発言を不思議に思うことがあります。メタ発言があると、それだけで話が書けますね。
だからweb小説の主人公はゲーム世界に転生する必要があったんですね。
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