第2話

 …ザザッ、ザザザッ。


 目を開けると、一面黒い世界にいた。


 地面も壁も、さらには空まで真っ暗なため、上下感覚がおかしくなる。まるで宇宙に投げ出されたような、そんな状態。


 前進を続けても足音ひとつしない。誰かを祝うような軽快な音楽がどこかから流れてくる。


 ここ、どこ?


 周囲を確認すると、いつも一緒にいるパーティーメンバーがどこにもいない。そのかわり、仲間との思い出が空中に次々と浮かび上がる。


 旅の楽しい思い出。


 仲間との、悲しい別れ。


 強敵との生死をかけた戦い。


 世界の命運をかけた、辛い選択。


 そのどれもが、ついさっき起きた出来事のように感じる。思い出の下には不自然な空白があり、人の名前のような、そうではないような不思議な文字が表示されている。


 ローマ字で「SAKATA」と書かれているかと思えば、英語で「DIRECTOR」や「MARKETING」と書かれていたり。ボクには関係なさそうな文字が表示されては消え、また違う文字が表示されては消えていく。


 …えっ。


 これって、走馬灯?


 走馬灯を見るような場所。それが意味するところは、ここが死後の世界、もしくはそこへ向かう直前ということだ。


 戦っていればいつかは死ぬ。一人の冒険者として数多くのモンスターの命を奪ってきた。時には、人間の命さえも。


 いくらボクが長寿のエルフ族とはいえ、いつか自分にも訪れる。その覚悟は旅の中で何度もしていた。


 みんな、どうなったのかな?


 でも、それだけが心残り。気がつけば走馬灯が消え、音楽も止まっていた。そして、最後に一行の文字が画面中央に浮かんだ。




 THE END




 …えんど。


 そっか。おわりかあ…


 これだけは意味がわかった。


 ぼーっとその文字が消えていくのを、ただただ見つめる。全身から血の気が引いていく。エンドということは、救いたかった世界は終わってしまったのだろう。


 世界を救ったらやりたいことがいっぱいあった。


 食べたいものだって、まだまだあった。


 命を賭けて守りたい人達もいた。


 それに…それに…


 倒れたコップから水が零れるように、やり残したことが零れ落ちる。それなのに、ここが死後の世界だからか、声を出して嘆くこともできない。


 ガチャン!


『ニャー!』


『ミャー!!』


 何かに世界が操作された。


 空中に三行の謎の文字が表示された。




 キよマニにゃーゲーム

 ▶はい

  いいト




 絶望した顔で、その文字を見つめる。


 次の瞬間。まるでゲーム機の電源を落とすかのように、表示されていた文字が、ボクの意識が、一瞬でプツンと消えて暗転した。


 …ジジジ、バチッ。




 ―――――――――――――――

 気ままミャtips

【つよくてニューゲーム】


 テレビゲームのクリア後に、レベルや装備、アイテムなどのデータを引き継いで最初から強い状態で遊ぶことができるゲームシステム。


 英語の場合は「NewGame+」と表記される。


 ちなみに、テレビゲームは和製英語であり、英語ではコンピューターゲーム、もしくはビデオゲームと呼ばれる。

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