自由気ままにミャーゲーム
ほわりと
一章 気ままな猫が世界に降り立つ
第1話
栗色の髪の毛を揺らしながら見上げると、入口に飾ってある小さな看板が揺れた。
劣化で文字が擦れているけど、描かれている絵から防具屋だということがわかる。冒険者なら装備の購入のためによく訪れる場所だ。
でも、いつもパーティーを組んでいた仲間と一緒だったから一人だけで入ったことはない。
今、この瞬間までは。
緊張で手が震える。パーティーメンバーいわく、ボクには変な浪費癖があるらしい。言われた時はそんなことないと怒ったけど、こうして一人で買い物をすることになると不安がよぎる。
こんな緊張、ダンジョンのボス戦前にも感じなかったよ。
「大丈夫、ボクだけで買い物くらいできるみゃ…」
握りしめている手を何度も力をニギニギと握り直す。アクアマリンのように蒼く輝く瞳をギュッと閉じる。
すぅ、はぁ、と深呼吸を二回。木製の取っ手に手をかけ、覚悟を決めて防具屋の扉を開けた。
「おじゃみゃしみゃ~す」
「らっしゃい、購入かい? それとも売却かい?」
控えめにカランカランという音を立てて入ると、すぐに声をかけられた。いかにも防具職人らしい佇まいの不愛想な男性。どうやら、この人が店主のようだ。
「らっしゃい、購入かい? それとも売却かい?」
軽く会釈をして店内の商品を見る。その間、ずっと店主が同じ質問を何度も繰り返してくる。
「らっしゃい、購入かい? それとも売却かい?」
これでもう、かれこれ十回目の同じ質問だ。
店内をゆっくり見て回る暇を与えてくれない。話しかけるのは売られている防具の相場を確認してからのつもりだったけど、諦めてトボトボとカウンターへ向かう。
「らっしゃい、購入かい? それとも売却かい?」
「…うみゃあ。ええっと、売却みゃ」
そう。ボクは買うつもりで入ったわけじゃない。
買う気がないのにお店に入るなんて冷やかしもいいところだけど、ボクにとっては死活問題。今持っているアイテムを少しでも高く売らないと今後に関わるのだ。
「どれを売るんだい?」
店主にそう聞かれ、事前に決めていた言葉を伝えた。
「武器以外、全部売却みゃ!」
アイテム欄から消費アイテムが売却されていく。ポーション以外が全てお金に変わると、次は装備の売却が始まった。
「みゃ? …みゃみゃっ!?」
自分の手が何かに操られているかのように、機械的に装備を脱がしていく。
さっきまで着ていたものがカウンターの上へと移動する。売却が始まってから、なぜか自分の意志で体が動かせないでいる。
自分が今着ている装備が売却されていく光景を、ただただ見守ることしかできない。
消費アイテムやアクセサリー。
帽子に手袋それに靴。
そして…
「や、やっぱり売るのやめるみゃ…」
ついに、上着のチュニックの売却が始まった。自分の両手が裾を掴み、ゆっくりと脱がしていく。
これを脱ぐとアンダーウェア、つまり下着だけになってしまう。
胸はまだささやかな膨らみしかないから、正真正銘アンダーな下着だけしか履いていない。いくらお金が欲しくても、そんな状態で街中を歩くような痴女になるつもりはない。
「やみゃっ…やっぱりやめるみゃぁ~!」
なぜこんな状況になったのか。
その始まりは、今から数時間前まで遡る。
―――――――――――――――
気ままミャtips
【装備】
ゲームのキャラクターが着ている服。
キャラクターの装備を全て外すことを全裸と呼ぶ人もいる。
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