なんかヤベェ帽子野郎と旧友に再会したんだけど情報量多くね?4



「これで11回目かなぁ?別のアリスのとこに案内しても2日も持たなくてさ!!大変だったんだよー?死んだ子が多すぎて多過ぎて困った困った」


 殺しちゃうから気をつけてね、と最初に言っていたけどまさかそんなに犠牲者が出ているなんて思っていなかった。

 というか私たちの心配はないのかコイツ……普通こっちを心配するだろ。


「前回のアリス達は意外と持ったけどね、1週間は持っ___」

「アレは僕に暴言を吐いたからだ‼ぼ・く・

は!!我慢した、したけどアイツらがやめなかった!忠告したのに辞めなかった、だから仕方ねェ…ねェの!アイツらが悪い!!」


 帽子屋はキレ気味でそう言ってから食べかけのシュークリームをウサギに勢い良く投げつける。投げつけられたシュークリームは帽子屋が慌てて“口で”、口でキャッチしてそのまま捨て__え、食べたんだけどこいつ!?

 ケロッとした顔で投げ受けられたシュークリームを飲み込むウサギに思わず顔が歪む。


「ちょっとこれ、カスタードぜぇんぶ抜き取ってるじゃないか!」

「オェ、食うなんて気持ち悪い!やめろ、無理!!オエェ!!」

「ウサギ、あんたそりゃないやろ……」

「カスタードだけ抜き取るって、アナタ飛んだ才能ね……」


 今のはちょっと引く、投げつける方もヤバいけどそれを食うか普通。


「帽子、赤のアリス、2人して酷いね!?酷くない!?」

「酷くない!!赤のアリスも言ってる、次そんなことしたら首を落とす、落とすから!ぜったい!!」


 ビシッとウサギに指をさしてそう言うと帽子屋は席を離れて休憩スペースを囲う柵の上に背を向けて座った。話しかけたらヤバいオーラを出してる、今話しかけたら四肢が吹き飛ばされる気が。今日はもう話しかけられない。話しかけても攻撃されない大丈夫な人はシロさんぐらいだろうな。

 帽子屋の手足についてる鈴がひっきりなしに鳴っていてちょっとうるさい……。


「殺したって言ってたけど……帽子くんになにがあったのよ」


 呆れた様子でアイさんがウサギに質問する。私もちょっと何があったか知りたい、そんな暴挙に出るなんて何があったんだ。


「初めのアリス達は2人に暴言を吐いて帽子屋が怒ってぷっちん。次のアリス達は白のアリスに陰湿な嫌がらせをして帽子屋が怒ってぷっちんでばぁーん」

「物騒やんな、兄貴と似とるな……」

「おメーの狂った野郎と同じにしないで!!」


 うっかり思ったことが口に出てしまい一瞬身構えたけど何も飛んで来なかった。私にナイフを投げるよりも鈴を取るのに必死みたいで唸りながら腕に噛み付いている。

 しっぽを追いかける犬っころみたいでちょっと面白い。たまに帽子屋って犬みたいなところがあるんだよな、可愛くはないけど。まじで可愛くない。


「殺さないよう女王サマに何か言われるんじゃないの?女王サマってもっとルールに厳しいって思ってたんだけど違うのかしら?」

「厳しいよ!最初はあの子、あんな感じじゃなかったよ?僕みたいに冷静でしっかり意思疎通は取れてた、取れてたけど……」

「けど?」


 まともに意思疎通ができる帽子屋を想像してみたけど今のこの帽子屋からは全く想像がつかなかった。これがまともな時があったなんてどういう変化なんだよ、びっくりだわ!


「あの子魔法がなかったら簡単に倒せそうでしょ?3回目にアリスの安全のために魔法を禁止したら案の定襲われちゃってさ、助けた時には狂っちゃっ___」

「おい、ウサギ!」


 ダンっ!と壁を殴る大きな音が響き、机の上に小さな鈴が2個転がる。帽子屋の口から血?のようなものが垂れているから鈴を食いちぎって外したっぽい……口で引きちぎるってやばすぎでしょ。

 シャンシャンうるさいから外したんだろうけど食いちぎって外すなんて凄いな。


「それ以上、口を開くな。話すな、アリス達は僕が案内する。帰れ」


 さっきはあんなに嫌がってたのにどういう風の吹き回しなんだろうか。イライラした様子にシロさんが「落ち着いて」と声をかけるけど帽子屋は聞く耳を持たない。相当嫌な記憶だったのか体が震えている。

 本気で怒ってない?ちょっと大丈夫?嫌な予感しかしないんだけど……。


「そ、それは良カッタ……」

「必要最低限、僕らに関わるな」


 黒い霧が薄れ、赤くて大きいぎょろぎょろ目が一瞬見えたけど直ぐに霧で見えなくなる。見間違いだと思いたいけど恐ろしすぎて記憶に刻まれてしまった。

 いつの間にかにナイフをウサギの首に当ている、一瞬すぎて見えなかった……ナイフを当てられてる本人は焦る様子もなくニコニコ笑ってる。今にも刺されそうなのによく笑ってられるなんて流石ウサギだけど今回は笑えないと思うほどやばい。


「気分が悪い、帰る……必要なことは明日言え」


 そう言うと珍しくシロさんを置いて帽子屋は帰ってしまった。あんなにイラついているところ初めて見た、ウサギって人を怒らせる天才……プロだわ。喧嘩の番組に出てちょっとボコられてきて欲しい。


「アリスも案内人もズレたやつがおおいからねぇ。ほんと困るなぁ…帽子屋別格だね!」

「アリスってズレた人、そんなに多いん?」

「とても多いよ、みんな何かしらの強い思いを抱いているからね。変えたい、生きたい、幸せになりたい、殺したい……犯したい」

「うげ……」

「思いの強い願い事を持ったアリスしかアリスには選ばれないからね!」


 ふふっと鼻を鳴らしながらウサギは紅茶を飲みカップを置く。

 確かにシロさんもアイさんもちょっとズレてるところがあるし私だってまともな人間という部類ではないことを自覚してる。クロなんかあれは常識から外れすぎてる……アリスのズレてる代表と言っても過言ではない。

 帽子屋もウサギもいい勝負になるほどおかしいしアリスはまともな人には絶対務まらないな。


「ああ、そうだ。皆に需要なお知らせがあるんだけどさ」

「お知らせ?なんや?」

「ちょーっと待ってね‼」


 そう言ってウサギはごそごそとコートの中を漁り、コートの中に収まらないはずのどでかい本を取り出した。


「それ、どっから出したん」

「企業秘密ってやつ?ふふ、ちょっと待ってね!えーと…えっと、あした、あーしたあした――あった!!」

「何があるのよ?祭り?旅行?」

「違うよ!!明日はね……を行うよ!!」


 私とアイさんの「はぁ!?」という事が重なる。

 まだあれからそんなに時が経っていないのに再び現れた異端者。シロさんが犠牲になったあの異端者戦は未だ夢に出てくるほど記憶に残っている……。


「異端者討伐は明日、帽子屋に頼んで案内してもらう予定だからそのつもりで居てね!」

「嘘やろ……?異端者って頻繁に出んのやないの?」

「出るも出ないも運だから仕方ないよ!」


 女王サマが決めたことなら行くしかない、行くしかないけどまたあの時みたいになってしまったらと思ってしまって怖い。

 シロさんは何も知らないからいつもと変わらないニコニコ顔でいるけどアイさんと私は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ふふ、ボクはあの子の機嫌を治しに行かなきゃ行けないからそろそ行くね!明日、頑張って戦ってね。白のアリス、ちょっと手伝って」

「分かってますよ」


 不機嫌極まりない帽子屋の機嫌を取りに2人はお茶会から去った。


「ヒイロちゃん、明日……何が何でも生き残りましょう。あの時みたいにならないように絶対に油断しちゃだめよ」

「わかっとります」


 明日のお茶会のために私とアイさんはお菓子を口の中にぶち込んだ___

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