始まりは大変だっていうけどもう大変すぎてメンブレしそう、むりみ4




「お疲れさまぁ。いい感じだったわよ!あともう少しできるようになったら実践に行くわよ!!また明日ヒイロちゃん」

「お疲れ様っしたぁー!」


 お茶会でたらふくお茶とお菓子を食べた後はそそくさと家に帰って兄貴と鉢合わせしないうちに風呂に入って寝る。

 これがアリスになってからのルーティンになった。完全に夜行性人間になってしまったけど元気100倍で生きてる。まぁ元から夜行性だったからいいんだけど買い物に行きたい時にちょっと不便……。

 24時間やってるお店なんかコンビニぐらいしかないから困る、都会では24時間やってる有名な全国チェーン店があるらしいけど生憎うちの住む田舎には1店舗もない。

 全国って言うなら我が田舎にも作れよ、作ってから全国名乗れ……って思ってる。


「つっかれたぁああ、はよ寝よ……」


 ベッドにいつも通りに寝転がってウトウトしていたら珍しくシオン君から遊びの誘いが舞い込んできた。


 【来週暇?】


 唐突な誘いはたまにあるから私はすぐに【暇!】と返信。友人と呼べる人間はいないし家に引きこもっているからいつでも私は暇……アリスになってから日中は寝てるけど遊びのためなら私は動くぞ。


【日曜、昼から遊ぼ】


 久々の遊びの誘いにさっきまでの眠気と疲れがぶっ飛んだ。ついでに1週間ぐらいのモチベが爆上がり、今の私ならワンチャンだけどクロから腕をもぎ取ることができそう。

 既読がつく間に急いで【了解】と返信したらシオン君がここ数年ハマってるオキニのゲームキャラのスタンプが送られてきた。久々に遊びの約束に胸が踊る。


「よっし、遊び予定ゲッツ!!うっしゃあああ!!」


 両手でグッとガッツポーズをして私はスッカスカのカレンダーに予定を書く。久々に埋まったぜ、へへ。ようこそ予定ちゃん。

 次の日から約束の日まで私のモチベーションは限界突破して超がつくほど調子が良くなった。マジで気持ちって大事だよ、これからはモチベを大事にしようと思う……1ヶ月後には忘れてそうだけど。


「おっと、危ない……今日凄く動きがいいね。何かあったの?」

「ヒイロちゃん、アナタ凄く今日は調子が良さそうね!」


 あともう少しでシロさんに攻撃が当たりそうだった、これは訓練を初めて初の出来事でシロさんもアイさんも驚いている。


「仲えい人と遊びに行くんす、近所の先輩なんすけど」

「仲えい……あぁ、仲のいい人ね。モチベーションが上がって良かったよ、このまま持続するといいけどね」


 モチベというドーピングのようなものは私の動きを俊敏に、そして活発化させた。マジで前より凄く動きが鋭くなってる、人間楽しみがあるだけでこんなに変わるのか!!

 願いを叶えればあのクソ兄貴を殺せる、それはかなり長い道のりだからモチベはそこまで上がらない。確かに頑張ってやろうっていう気はあるけどすぐに叶うわけじゃないから……自分でモチベを上げられるように何か頑張ろう、全ては願いの為に!


 ___と、意気込んでこの1週間は頑張った。


 前日は楽しみすぎて寝れず、疲れが溜まりに溜まった状態で行くことになっちまったぜ。目の下にクマを作って行くはめになってしまった……マジでやらかし。パンダ目になってるんだけどどしたらいいんや。


「パンダみたいやんけ、最悪……マジで無理」


 自分の顔面を鏡越しに睨んでため息をつく。ブスがさらにブスになった、マジで目つき悪い殺人熊みたいになってる。ほんとどうにかできないかこの顔。

 集合時間はシオン君の前の予定が終わる午後3時頃になって場所は家から近いところにあるショッピングセンターのフードコート。


「アイツに見つからんと家出れたらええな」


 どうか兄貴が邪魔してきませんようにと強く念じながら私は部屋からそーろりそろりと出る。


「あれ、兄貴おらんやん」


 玄関に着いてびっくり兄貴はどうやらコンビニかレンタルビデオ屋に出かけているようで静かに移動する必要はなかったと知った。くっそ、今までの労働力は無意味だったのか、なんか損した気分だ!!

 はぁっと小さくため息をついてさっさと家を出る。家の近くでばったり兄貴と出会ったらこれもめんどくさい。


「鉢合わせだけは勘弁やな」


 どうか会いませんように、なんて祈ってフラグを立ててしまったけど無事に回収されることはなくショッピングセンターについた。


「平和、平穏、素晴らしい私の運!」


 自分の素晴らしき運の強さに静かに褒め称えてから中に入る。

 フードコートに行けば黒い地雷系の服を着たシオン君が真ん中にちょこんと座っていた。田舎だとクッソほど目立つその服は周りの目をかき集めている。


「マジで田舎であれは……まじかいな」


 周りの目など気にもとめずシオン君は子供ように顔をラキラさせながらピオカパフェを美味しそうに食べていた。

 今日は髪を縛っていないから女の子に見える……なんか周りの小学生キッズがヒソヒソしてるけどネットに晒したりしないよな。今の子供って勝手にインターネットに他人の写真を撮ってあげたり動画を撮って載せたりするからめっちゃ怖い。ネットリテラシーだっけ?それをちゃんと親は学ばせろっつーの!

 学校に入っていないけどSNSで流れてくる情報系のニュースをたまーに見るから意外と知識はあるぞ、私。


「あれに話かけるんか……」


 あの人の周りに座るお年寄りの人や中年のおばさんが冷たい目を向けているし小学生はクスクス話してるし、中学生共はニヤニヤ顔をして見ている。他人のフリをしてもいいだろうか……恥ずかしいと思ったその時__


「んぐ、やっほー。クレハ」

「げ……」


 知らない人のフリをしていたら目があってしまった。ニコニコといつもの胡散臭い笑顔で私に手を振るシオン君、周りの目が痛い。


「なにそのゲッて言葉、先輩に対して失礼なんですけどー?」

「悪かったねー。てか、その匂い……デートしよったん?」


 いつも甘い匂いを漂わせているシオン君だったけど今日はいつもと違ってスッキリとした少し鼻に突く香水を付けている。


「そーそー。そんなところ……嫉妬したん?」


 人を煽るような声と表情をして私の怒りゲージを貯めるシオン君……いやクズ男。

 コイツと心の中で妬み、小さな声でリア充爆発しろと唱えたけどデート後に他の女と遊ぶなんてクズの極みでは?こんなの知ったら彼女さんが泣くぞ、ビンタだぞ。マジ死刑だよ。


「ごめん、冗談。これ、知り合いの香水だから自分のじゃないよ」

「は、そーなんかよ…。シオン君、そんな服よお着れるね……」


 突き刺さしてくる視線に睨みを効かせて視線を頑張ってはらう。ほんと人って気持ち悪い。ムカつく。


「別に誰がどの服を着るかなんて自由じゃん。他人がどう思おうが自分には関係ない、他人なんだしぃ」


 相変わらず自分の信念を曲げないシオン君っ凄いな。やってることはクズかもしれないけど自分の好きを、考えを突き通せるのは凄い。もし、私の中身とシオン君が入れ替わったらシオン君はもっと効率よく兄貴をどうにかできるかもしれない。

 生きるって難しいな……(遠い目)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る