エモくない青春してたら不思議の国に迷い込んだんだが2



 誰もいない不気味な近所の公園。

 生い茂ってる草や木がザワザワと音を立てて揺れててめっちゃ怖い、めちゃくちゃ帰りたい。クッソ、ホラーだ。



「マジ気味悪っ……」



 そう呟いた瞬間、台風のような……いや台風より強い風が吹いた。


「ギャッ!!」


 勢いよく私は地面に倒れ、地面にびたーっと伸びる。鼻が痛い、マジで鼻血でてないか心配になるほど強く打ったんだけど!


「いったぁあああッ!マジでふざけんなクソ風、カスッ‼」



 お口が悪いのは小学生から自覚している、イラつくといつも以上に治安が悪くなるからマジで良くない。クソ暴風め、呪われて消えてしまえ。



「ほんまウザたらしいわ、膝擦りむいたやろうなぁ……最悪」



 風に対して愚痴をこぼしながら体を起こそうとしたその時、




 ――べちゃっ。




 水っぽい固形物が落ちる音が聞こえた。

 異様に鉄臭い臭いが鼻を突く。



 ――ばきっ!



 ナニカをかみ砕く音が響き、音がした方に視線をサッと向ける。



「は、えっ…………?」



 黒く大きな無数の赤目が私と重なった。




〝  ミ   タ   ナ  〟




 その言葉を言われているような感覚。

 鉄臭い臭いがひと際濃くなり、嫌な汗が頬を伝う。

 


「はッ……な、なんなん」



 さっきまで居なかったはずの存在が、私を見つめている。ソレは5メートル以上もあり、更には横にもデカい、とにかくデカイ。

 じゅるじゅるるとはしたない音を立てながら赤黒いバケモノはタコのような紫色の触手を使って“ナニカ”を拾い上げ、口の部分に放り込む。

 ソレが口を閉じたあと、中からバキバキと何かが砕ける音が聞こえてきた。



「な、はっ……え、な、なんやこれっ」



 この異常な生物の出会いは夢なのか、現実なのか。私は底知れぬ恐怖に苛まれ、じっとバケモノを見た。逃げるべきだと分かっている、分かっているけどこの異常な現実を私のちっちゃな脳みそは処理できずに“逃げる”という判断が下せない。

 バケモノの物の口から腕がべちょっと言う音を立てて落ち、触手がうねうねとせわしなく動き始める。



 《ぐヴぁぐぐうぐぐうう》



 理解できない言葉――言葉なのかも怪しい声に全身が凍る、こんなバケモノがこの世にいるなんてありえない。こんな、こんな非現実的なバケモノがこの世にいるなんて、ない、悪い夢を見てるんだろうな?そうだ、そうこれはただの悪夢だ。


 私の脳が現実逃避を始めようとした時、突如謎の鳴き声を発しながらバケモノは私に向かって走り始めた。



「ひっ!」



 人間の本能は意外と優秀らしい。

 逃げなきゃだめだ、捕まればきっと喰われると脳がやっと理解して私の体を動かす。


 早く、早くとにかく人がいる安全な場所に逃げなければ。


 足を急いで動かすが倒れた時に足を強く打ったのかかなり足がズキズキと痛む。そんなこと今は気にしていられないけどいつもと違って走りにくい。

 逃げなきゃ殺される、ここで死んでしまう。夢だけど詰まりたくない、動け、働けと必死になって動かした。


「なんなんよ!くそっ!」


 全速力で振り返らずに走る。

 気持ち悪いバケモノの笑い声が後ろから響く、まるで私を馬鹿にしているかのような笑い声。


《ギャアハァァッ、キャフフフ、ェヘヘヘッ》


 なにか、なにかこの状況を切り抜ける良い方法はないのか、どうすればいいんだと思ったその時___右足にぬるりとした気持ち悪い〝ナニカ″が這う。



「なっ――」



 視界が回転する___



「いっ!」



 全身が痛い、呼吸が苦しい。

 何が起きた?何をされた?

 何がどうなっている?



《ギフフ、キャフフ、ゥフヘハヘ》



 ずるずるとナニカに足を引っ張られ、目の前にバケモノの体が視界に映る。



「はなっ……離せっ」



 鼻を塞ぎたくなるような鉄の匂いと腐敗臭に全身から汗が吹き出す。


 死ぬ。


 脳内にその文字が大きく浮かんだ。

 バケモノが血濡れの大きな口を開け、私を持ち上げ、そのまま私を口の中へ放り込もうとしたその瞬間――



「なんで人が居んだよ!ふざけんなっ‼」



 男の怒声が響き、バケモノの腕が吹き飛び私の身体は解放された。

 地面に落ちる、そう思ったけど地面に叩きつけられる寸前で男が私を担ぎ、少し乱暴に地面に降ろす。


「マジでなんでこんなとこにさぁ……どうなってんだよ。マジでふざけんなよクソ野郎!」


 イラついた声でそう言いながら男はバケモノに向かって何か細いモノを投げつける。それはバケモノの体に何本も刺さって奇妙な叫び声が公園に響き渡った。


「死んどけ雑魚ッ!」


 赤黒い血のような液体を噴き出し、べちゃりと言う音と共に地面に倒れるバケモノ。辺り一帯バケモノの血で汚れ鉄臭い臭いが鼻を刺激する。


「た、助かった……ん……か?」


 謎のバケモノが倒れたことで全身の力が抜けた、こんなに恐ろしい夢を見たのはいつぶりだろう。もう二度と体験したくない、なんならこの悪夢は永久に記憶から忘れ去りたい。


「死ぬかと、おもた……よかった…………」


 バケモノが動かなくなったのを見て私は全身の力が抜けて地面に座り込む。へにゃへにゃっと座り込む私の前にバケモノを倒した男が不機嫌そうな顔で立った。

 こ、こえぇ……めっちゃ不機嫌ですやん。


「おい。アンタ」

「な……なんでしょうか…………」


 まじまじと私は助けてくれた男を見る。

 不機嫌そうな男は男にしては小さく色白で小柄でまだ声変わりをしていないのか声が幼い。今流行りの黒髪キノコ頭でフツウの人と違って男は白い眼で怖い。あと目のラインに赤いアイラインが施されていて、珍しい白と黒と赤の中華っぽい服を着ている。

 コスプレしている人に見えるけど多分違うんだろう……。

 男の服をよく見れば赤い模様だと思った部分は殺したバケモノの液体のようで思わずオエッと嗚咽を漏らしてしまった。グロ耐久あるにはあるけど大量の血はちょっと……おえぇ、むり。


「こんなとこで吐くなよ、汚ねぇ。で、いつまで座ってんの?チビ」

「す、すんません……」


 チッと舌打ちをして私をゴミのような目で見る男に少し腹が立った。なんだこの男、予想以上に口が悪い。思わず謝ってしまったがその得体のしれないバケモノの解体、降り注いだ血を見て吐かないやつはいないだろ、考えろよ……。

 グロッキーな姿を見ないように目を伏せればまた男は舌打ちをしてからため息を吐いた。性格の悪さが限界突破しててマジで早く帰りたいんだけどどうしたらいいのかな?ん??



「アンタ、なんでここに居るか知んないけど、ぜってーに俺から離れんなよ。離れたら助けねぇーし死んでも知らねーから。いいな?」


 ギロリと言う効果音が付きそうなほど強く睨まれてたじろぐ。殺気漏れてます……と言いたいけど彼を不機嫌にさせてしまいそうなので言わない。よく我慢できたぞ私。

 こんな殺気を漏らしている暴言厨といて大丈夫なの……私、この男に殺されたりしないよね? 心配でしかないんだけど。


「私の事、殺したりせん……スよね?知らん人に付いて回るのは……」


 小学校低学年で習う知らない人にはついて行かない!という教育……なんだっけ、【いかのおすし】に従って私は男を疑う。助けられたからとりあえずついて行きます!なんて危ない、人間1度優しくされた相手にはころっと行っちゃうから気をつけろと先輩(シオン君)に言われたから警戒を忘れない。


「俺はクロ。これで知らない人じゃねーからいいだろ、早くついてこい」

「は、はぁ?何言ってん?」


 謎の理屈にポロッと素が出てしまった。


「なんだよ、これで知人ぐらいにはなっただろ。何が不満なんだよ」


 名前を知らないとは言ったけどそうじゃない、そうじゃない。知人の定義バグってるんじゃないのかこの人。


「名前知ったきって知り合いっちゅーってわけじゃ………」

「うっせぇチビ。アンタは弱っちい雑魚人間なんだから黙って俺に――」


 クロと名乗る男が突如、いたいけな人間であるはずの私の体を突き飛ばす。


「どけッ‼」 


 再び地面に倒れ、地面に今度はキスをかます。ファーストまだなのになにしてくれるんだと言いかけた瞬間、クロの苦しそうな声が聞こえた。


「く、そがっ……〝5つ″食ってんやろコイツ!」


 顔を顰めて怒鳴り散らすクロの胸から赤黒い触手が貫通している。


「アンタ、それ……つき……さ、刺さって…………」

「うっせ……へーきだわ!黙ってろカス!」


 そう言っている彼だけど誰がどう見ても平気じゃない。暴言を吐く余裕があるようだけど表情がとても痛々しい。


 《ぎあぁふうぅうあああああ、きゃぁふふうう‼》


 血が白い服を更に赤く染め上げている、バケモノは小さい子供の笑い声で笑いながら私《こっち》に向かってくる。


「ひっ!無理無理っ‼来んなしっ‼」

「動くなクソチビ!」


 クロが叫んだ瞬間、迫っていた触手が全て地面に落ちる。

 切り落とされた触手は赤黒い液体をまき散らし、ビチビチと跳ねて溶けていく。気持ち悪すぎて鳥肌が立った、日本にこんな生き物がいるなんて無理すぎる。


「さっさ死ねよ、めんどせぇ。おいチビ、そこからぜってー動くなよ!」

「言われんでも動かんし!無理無理、こんなキモイやつおるとかほんま無理!」


 まだバケモノは生きているようでぎゃあぎゃあと喚き散らしている。あの気持ち悪い触手をうねうねさせてるけどマジで気持ち悪い。


「腹ブチ開けた代償はでけーからなクソブツ」


 クロの手にどこからともなく不思議な形をしたナイフが現れ、彼の周りにも複数のナイフが出現した。マジックってやつにはスゴすぎるけどどうなってんの?


「マジで雑魚の癖にでしゃばってんじゃねーぞミジンコ野郎」


 ナイフがふよふよ宙を浮いているなんてありえない、ありえない事なのに目の前でそれが実現している。そのままクロはバケモノの攻撃を避けながら、ナイフを次々投げ付けていく。何本ものナイフは全て深くバケモノに突き刺さるがバケモノは余裕そうに笑っている。

 一通り投げ終えるとクロはバケモノの前に無防備に立った、いきなりなにしてんのこの人。


「よし、空きができたし喰ってやんよ。さっき食いすぎなきゃてめーなんかすぐに食えたのにさー、ほんとうぜぇ」


 彼の中心に黒い液体が地面に溢れ出してくる。背筋が凍るほど恐ろしい恐怖感を感じた。冷たい風が全身を包み込んで視界がぐらぐらと揺らぐ。冷たい水の中へ沈んでいくような不思議な感覚に動くことができない。


「断食後に3体もは流石に吸収が遅いなぁ」


 地面から黒い〝口のような物″が現れ、巨大な口はバケモノを簡単に丸々飲み込む。


《ぐヴぁぎゃあぁああああああっっ!》


 バキバキとバケモノを砕く音が響き、バケモノが大きな悲鳴を上げたと同時に口が閉じた。閉じると同時にクロは口をごもごと動かし、口に含んだナニカをゴクリと飲み込んだ。


「味うっす……でもいいね」


 そうクロが不機嫌そうに呟くと同時に口は音を立てて消え、辺りは何事もなかったかのように静まり返った__


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