第2話 シルヴァリオン
何か心地よい気だるさが全身を循環しているような感覚があった。
「う~ん……」
複数の電子音が覚醒しきっていない頭に響いてくる。
重い瞼をあげ、しばらく目の前に広がる光景にほっと安堵した。
ああ、いつもの妄想か。
空想、妄想、想像の中で何度も何千回、何万回も細部に至るまで設定したあのコックピットの映像が視覚として脳に刻み込まれていく。
手にした操縦棹やフットペダルのフィット具合に思わず気持ち良い呻きが漏れ出てしまう。
「ううん……ん?」
頭の中で設定し想定した小気味良い駆動音とわずかな振動が、操縦棹とシートを通して悠希の意識を覚醒させる。
「うぇ!? なによこれ!?」
メインスクリーンに映し出されているのは、見たこともないような原生林に見えるし、空には月のような天体が4つ、5つ? も連なっていた。
「ボクは夢を見ているの?」
< 意識レベルは正常です。ご安心ください >
「ぬわっ! あんた誰よって、もしかしてイクスなの!?」
< ご名答。私はマスターが設定した超次元量子コンピューターの疑似人格支援プログラムのイクスです >
「そ、そうよね。ってことはぁ! ボクが乗ってるのって、まさか、まさかぁ!?」
< はい。人型戦術機動兵器 ミラージュキャリバー 機体名シルヴァリオン になります>
そうだ。そうなのだ、ボクこと風間悠希は、自らが製作したオリジナルロボットプラモデル、シルヴァリオンに搭乗していたのだった
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「メドゥーサシーカーで機体外観は確認できたけど、ほんっとシルヴァリオンそのままだったわ」
コックピットのコンソールパネルを操作する手つきも、まるで体が覚えているかのようにスムーズだった。
表示されるデータは、機体が正常稼働中であり使用可能な武装リストが表示されている
「武装って、そんなもの、えっと、日本政府に捕まっちゃうよね」
< 現状でその心配は無用です。なぜなら、ここは地球ではないからです >
「はへぇ?」
素っ頓狂な声を上げながらもモニターに映る映像がそれを裏付けていく。
「と、とりあえず降りて確かめてみるわ、映像がフェイクかもしれないし」
< マスターへ、機体外部の大気成分を分析中でありますが、未知の粒子が存在しており安全が保障できません。さらに複数の野生生物と思われる生命体が機体周辺で確認できています >
イクスがモニターに映し出したのは、大木にへばりつく2m以上はありそうな大蜘蛛に似た生物や、目が4つもある狼のような獣などである。
さすがにシルヴァリオンへ攻撃はしてこないようではあるが、警戒し遠巻きに見ているという状況らしい。
「ね、ねえイクス、優先目標を教えて……ちょっと混乱してる」
< この地は地球より遠く離れた惑星と推測されます。まず行うべきは対話可能な知的生命体の捜索と接触、さらには水食糧の確保が可能かどうかの調査であると思われます >
「そ、そうよね、でも空気は大丈夫なの?」
< 大気成分とマスターの皮膚細胞とのマッチングテストを実施していますので、もう少々お待ちください >
「う、うん、じゃあとりあえず人探しだね、ふぅ……シルヴァリオン、一緒に生き抜こうね」
木々の間で膝をついていた白銀の巨体が、重厚だが滑らかな駆動音を発しつつ立ち上がる。
頭部の大型バイザーが特徴的な機体だった。
その下のフェイスカバーにいわゆる口は存在せず、女性的なツインカメラアイがバチリと悠希の覚悟に応えるように輝いた。
全身のフォルムはスリムではあるが、重なり合った装甲の造形の美しさは、リアル系ロボット特有の機動兵器的な心象を与える。
一歩、また一歩と大地を踏みしめて歩く自分が作りあげた、悠希のためだけの愛機シルヴァリオンの歩行に、彼女は涙を流しつつこみ上げる思いをかみしめていた。
「まさかね、本当にシルヴァリオンに乗れるなんて」
< 耐震動 耐G 緩和のグラヴィティー干渉抑制システム、順調に起動中 >
ほぼ揺れはない。
まるで3Dゲームを自室でやっているような感覚でシルヴァリオンを操縦できているのだ。
「想定していた機能がほぼ実装されてるのね。じゃあメイン動力炉はやっぱりニュートリオンドライブ?」
< イエスマイマスター >
「こ、興奮してきたけど、ここが原始惑星だったら宝の持ち腐れよね、誰か、誰かいてほしいけど、ってねえイクス? シルヴァリオンの背部ブースターは大気圏内でも飛行可能じゃなかったっけ?」
< 肯定ですが、それは地球の大気圏内に限定されます >
「えっとこっちじゃだめなの?」
悠希がどうしてと首をかしげている。飛行しながら調査するほうが遥かに効率的だろうと、ようやくその考えが浮かんだからなのだが。
< この惑星の大気成分が地球と大きく異なっております。呼吸に適した酸素・二酸化炭素濃度ではありますが、未知の粒子のためか地球と同じようにベルヌーイの法則が発現するか不明な状況です >
「ベルヌーイの法則か、たしか翼の上と下を通る気流の違いで揚力を生むとかだっけ」
< 解析と飛行シミュレーションが完了するまでは、匍匐飛行も控えたほうがよろしいでしょう >
「つまり歩くしかないってことね」
ちょうどその時であった。
レーダーの索敵範囲は未知粒子の影響で狭くなっているとはいえ、約1km先に大型質量のある物体に動態反応があることを示していた。
「イクス」
< 全長10m~13mほどの巨大な質量を持つ物体もしくは生命体が戦闘状態にあると推測 >
悠希がフットペダルを踏み込みながらシルヴァリオンを一気に加速させた。
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