ボクらのプラモウォーズ ~コズミックリベリオン~

鈴片ひかり

第1話 はじまりのアブダクション

 5月のGW明けの夕暮れはどこか祭りの後の寂しさを滲ませるような、まだ仄かな華やかさを山の稜線に描いているように見えた。


 そよ風にも似た夕陽を背に受けて田舎道を歩く少女の姿があった。


 大きなスポーツバッグを背負い駅へと続く一本道を、重そうに何度か背負いなおしつつその歩みは活力に満ちている。


 艶やかな黒髪を春風に揺らしながら、大きく意思の強そうな目はくりっと愛嬌と美しさが刹那的に同居する魅力に満ち溢れ輝いている。

 背丈は160cm 制服である今どき珍しいセーラー服のブリーツスカートからすらりとした足が伸びている。


 唐揚げ串をかじりながら通り過ぎた地元の男子高校生が、呆けたようにその美少女の姿に目を奪われている。

 そう、風間悠希かざまゆうき 17歳は一目を引くというレベルを超えた美少女であると言える。

 クラスで一番の美少女が、隣に座って比較されるのを嫌がるレベル、と称されているほどだ。


 こういった美少女は二通りのパターンに分かれるだろう。

 一つは多くの取り巻きや友達たちが周囲に集うタイプ

 そして、もう一つ、あまりにかわいすぎるため、男子女子双方から距離を置かれてしまうタイプ


 悠希は紛れもない後者であり、友達もいないタイプではあったが、プラモデルが三度の飯よりも好きという趣味のおかげで孤独ではなかった。

 SNSで知り合ったプラモ女子たちのプラモ合宿に参加するため、学校終わりに東京へ向かう予定だった。


 その子の両親ともズームで何度も話をしているため、特に警戒もせずプラモ道具と仲間たちに披露するスクラッチモデルのオリジナルロボットをバッグに詰め込んでいた。


 模型店を営む父と娘も参加するとのことで、助言がもらえると悠希は今回の合宿を体が震えるほど楽しみにしている。


 「駅まであとちょっと……ってあら? なんでこんな明るいのよ」


 先ほど夕暮れの赤身がすーっと宵闇に飲み込まれるように消えていったのを見ていたため、違和感を感じ周囲を見渡す悠希。


 その光源が、頭上から照らされていると気付いた時、悠希は上空に浮かぶ巨大な何かに吸い込まれていた。

 理解が追い付かない。

 記憶を、思考をシェイクされているかのような感覚に、乗り物酔いのような気持ち悪さがこみ上げ、悠希は意識を失った。


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 小学生の頃の思い出したくないあの日の出来事が……

 大好きな母と一緒に買い物をした悠希。

 大勢の人が信号待ちをしていた交差点。

 今度の遠足にどんなお弁当を作って欲しいかを熱弁していた悠希を、優しい笑みでうなづいてくれていた母が突然横断歩道へと飛び出した。


 悠希には見えていた。猛スピードで減速することなくツッコんでくるダンプと、赤信号の横断歩道に飛び出した幼い子供。

 母はその子を助けるために躊躇せず駆けだし……助けたのだ。


 「いやああああああああ!」


 衝撃音と、周囲の悲鳴と、自分自身が発していた声にならない声と母の安否。


 即死だった。

 居眠り運転だったダンプに引きずられたこともあり、周囲は騒然となった。

 ・

 ・

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 「おかあさあああああああああん!」

 

 はっと自分の叫び声で起き上がろうとするも、体が拘束され動けない。

 かろうじて動く目を動かし周囲を観察し、またもや悲鳴にならない悲鳴が喉からわずかに漏れ出ていた。


 つり上がったアーモンドのような眼をした低身長で灰色の肌をした小人が、悠希のベッド周りを慌ただしくちょろちょろと動き回っている。

 そうグレイという宇宙人だ。

 しかも、なにやら細い管を悠希の体に打ち込んでいるのが見えるし、チクっとした痛みが伝わってくる。


 きっと睨みつけると、グレイが怯みびくついているが、また数人が手足に何かを打ち込んでいく。

 これが噂に聞くインプラントなの?

 

 最初は恐怖に埋め尽くされいた思考も、徐々に慣れ始めたのか悠希の胸に怒りの感情が沸き起こってきている。

 全身の力を振り絞って首を動かすと、何やらドンキで売っていそうな安っぽい銀色の全身タイツを着たおっさんが悠希の首筋に何かを注射したところだたt。

「いたい! なにすんのよ!」


「ひっ!」

 銀色全身タイツのおっさんは、意外にも端正な顔立ちをしてはいたが、慌てて二つ目の注射器具のようなものを手にすると、今度は反対の首筋に急ぎで注射していく。


「くっ!」

 悔しさを飲み込むように巨大な眠気が悠希を襲う。


 もしかしたらあのおっさんに何かいやらしいことをされてしまうかもしれないという恐怖さえも飲み込み、その眠気が勇希の意識を掻き消していく。


「ボ、ボクに何を、ゆ、ゆるさな……い……」


「ふぅ。まったくなんて意志の強いイシャナ検体だ。おい、予定のインプラントと因子注入処置は終わっているな?」


 全身タイツおっさんがグレイたちに命じているが、何やらグレイたちが困ったようにエアモニターの画面を投げてよこすのだった。


「なんだ? ん? えっと、私はインプラント間違った? うそっ……」


 冷や汗を浮かべつつ、銀色全身タイツおっさんがエアモニター画面に表情を引きつらせていた。


「自動言語獲得プログラムマイクロチップ、予防接種抗体確認、これはいいとして、えっと……エルフ因子注入? あらこれって貴重な……、あとは変異オルナ粒子のスキル化コード」


 最期の項目を見たおっさんは、思わずエアモニターを両手でパンと叩いて潰してしまった。


 「精神イメージ現実化スキル因子……定着……ってまずくね、ってまあいっか! どうせ使いこなせるヒューマノイド型なんていねーし」


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