第3話 魔骸
森を抜けた先には……
全長10mを超える二つの巨体が壮絶な戦闘を繰り広げていた。
一体は武骨な板金を張り付けた猫背の巨人型で、もう一体は異様という言葉の上限を軽く突破するような醜悪な化け物だった。
全長は10~13m 全身を蠢く大小様々な肉の触手に覆われており、その骨格とも言うべきものが金属製の骨組みのようなものが見え隠れしている。
生体と金属の融合体のようにも見えるが、蠢く触手のいたるところには牙や目、歯、口が乱雑に配置されていた。
生命の尊厳を冒涜するかのような存在に対し、板金装甲を取り付けていた巨人の中身が岩であることが判明する。
「ゴーレムに鎧を着せてるみたい、けどもう一体は、きもすぎる!」
< ゴーレムタイプの内部には生体反応あり、サーモスキャンによれば人間タイプ。搭乗者と思われます >
「手を貸すならゴーレムタイプってことだけど、あのキモイのは何なの!?」
< 未知の金属による骨格、一部外殻と触手が融合しています。内部に人型生命の反応はありません、あれを生物と定義してよいかも不明 >
蠢く触手の生々しさ。飛び散る赤黒い体液。
猛烈な嫌悪感を上回ったのは、あのゴーレムタイプが行っていた戦闘の苛烈さへの憧憬であったのかもしれない。
戦場は明らかに街道と思われる場所であり、ゴーレムタイプはあの触手化け物の進行を防ぐような戦いだった。
手にした剣は既に刃こぼれでボロボロ、各所に亀裂が入り頭部はひしゃげ、避けることは既にかなわず、鞭のようにしなる触手の前に板金装甲が凹み、吹き飛ばされていた。
・
・
・
対
通称 : グレムス。
若き操縦士レインドが騎乗していたグレムスは既に限界を超えていた。
プラチナゴールドの髪を血に染めながら、レインドは叫ぶ。
「ロナの町には行かせるものかああああ!」
既に操縦系に大きな負担が生じている中で、このレインドという操縦士は手にした長剣で触手を切り払いながらチャンスを伺っていた。
弾き飛ばされる装甲板の衝撃に怯むことなく、何本目になろう触手を切り落とした時に左腕を持っていかれてしまったが、レインドの目がギラリと輝いた。
「そこだぁ!」
触手に覆われながら姿を覗かせる内部の金属外殻や骨格部。
これが邪魔をして内部コアへの攻撃が防がれてしまっていが、レインドは戦いながら個体ごとに異なる金属骨格の隙間を今まさに見抜いたのだった。
振り乱されるムチのような触手にボロボロにされながらも、レインドのグレムスは相打ち覚悟の突撃を慣行した。
鋭い触手が騎乗鞍を貫通しレインドを傷付けていくものの、動じることなくグレムスの全体重を乗せた一撃が魔骸のコアを貫いた。
全身を軋ませながら右腕をもぎ取られたグレムス。
魔骸は全身がみるみる灰化していき、全ての触手が崩れさっていく。
「な、なんとか倒したか……!?」
だが、レインドの目に映ったのは、丘向こうから近づいてくる5体の魔骸であった。
既に両腕はなく攻撃手段が断たれたグレムスだが、レインドの目は死んでいなかった。
「ロナの町には近づけさせん」
操縦系の魔力回路が既に遮断されている箇所が多すぎ、機体各所から黄金の魔力光が出血のように漏れ出ているグレムス。
正直なところ立っているだけでも奇跡に近いのは、このレインドという操縦士が卓越した魔力操作技術と操縦テクニックを有していたからだろう。
「はぁはぁ、こんな大陸の奥地にまで魔骸が……くっ」
だが限界は超えていた。
醜悪な叫びを発しながら獰猛な牙を全身から突き出しながら、5体の魔骸は容赦ない歩みを進めてくる。
レインドのグレムスは、対峙しようと踏み出した数歩目で右足がポキリと折れその巨体が横向きに横転する。
それでもレインドは騎乗鞍から飛び出し魔骸をせめて誘導しようと試みるも、崩れ歪んだ装甲板が邪魔をし外に出られない。
内部から蹴りつけ隙間を作ろうとするも、魔骸は既に数100m先にまで近づいている。
「諦めてたまるか!」
ひしゃげ、砕けたグレムスの機体はびくともせず、レインドの叫びが木霊した。
「うおおおおおおおおおおお!」
隙間を広げ這い出ようとするレインドの試みはグレムスの自壊と共に成功した。
どさりと街道の石畳の上に転がり落ちたレインドであったが、その眼前には魔骸がさらに数体増え、8体がグレムスの残骸とレインドに迫っていた。
したたかに肺をグレムスの残骸に打ち付けたため、動けぬレインドに奴等の足音がゆっくりと近づいていた。
レインドはそれでも立ち上がろうと、腰の剣を抜き奴等をせめて誘導しようと咳き込みながら歩きだそうとしたその時であった。
白銀の疾風が吹き抜けたようにレインドには見えていた。
魔骸よりも巨大な白銀のナニカが魔骸を一撃で両断していた。
「ひ、ひかる……剣!?」
シルヴァリオンの背部バーニアの余波が引き起こした白銀の風。
< フォトンセイバー起動 >
青白い輝きを放つフォトン粒子の収束した刃が魔骸2体をいともたやすく両断し、奴等の上半身らしきモノが灰化しながら宙を舞う。
< 射線確保、仰角20 >
悠希の指が躊躇なくトリガーを引いた。
左手に握られていたのは黒光りする金属光沢が威圧感を放つ、フォトンライフル。
丘街道を一直線に下ってくる魔骸の群れに対し、ピンク色に輝くフォトンの粒子ビームが何の抵抗もなく奴等を貫き、蒸発させてしまう。
天を貫き雲を吹き飛ばしたフォトンビームは成層圏を超え、宇宙空間にまで到達し赤い光を放っていた。
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