第16話 共闘
「ギャオオオオオオオ!!!」
湖に浮かぶ島だと思っていたソレは、ヒュージマウスタートルという10メートル以上もある巨大な魔物だった。
「ノノリエ様!私の後ろに!!」
離れた水辺にいたノノリエとオリヴィエはオリヴィエが展開した
魔物の目の前にいた俺とセツナはそれぞれ、戦闘に備えて行動し始めていた。
俺は魔法で浮遊してなんとか乱れた湖から脱出し、空中でヒュージマウスタートルの出方を伺う。
セツナは水面に立ち、素手のまま何らかの武術のような構えを取っていた。おそらく、彼女は武闘家なのだろう。
「おい!偽物!こいつは私が片付ける、お前は姫様のところまで戻れ!」
「何言ってんだ!こいつ、魔力視無しでも分かるくらい、とんでもない量の魔力をため込んでやがるぞ!一人じゃ危険すぎる!」
「そんなことは分かっている。この気の流れは普通ではない。こいつを相手にするとなれば全力で臨むほかないだろう。故に、貴様がいては邪魔だと言っているのだ」
そう言い捨てるとセツナは俺の心配をよそに一人で魔物に挑んでいった。
「ハアッ!
セツナは例の瞬間移動じみた動きで一瞬のうちに魔物との間合いを詰め、側面から強烈な飛び蹴りを叩き込む。
「くっ!なんて硬さだ!!!」
しかし、セツナの攻撃はヒュージマウスタートルの硬い甲羅を打ち破るには至らず、ただ怒りを買うだけの結果に終わった。
「ギャオオオオオ!!!」
怒れるヒュージマウスタートルは口から超高圧の水鉄砲を繰り出した。
ヒュージマウスタートルは首を振り、水鉄砲は辺り一帯を横に薙ぎ払うような軌道でセツナに迫る。
「そんな水ごとき!避けるまでもないわ!」
「バカ野郎!避けろ!!!」
真っ向から攻撃を受け止めようとするセツナを俺は全速力で空中から抱き上げて間一髪、直撃を免れた。
「余計なことをするな!あの程度私ならっ!」
「うるせえ!大人しくしろ!お前らは多分見たことないだろうが、水ってのは高圧で打ち出すとどんなに硬いモノでも真っ二つにできる凶器になるんだよ!」
「バカな。ただの水が物を断ち切るなど聞いたこともないぞ?」
「ああもう、これだから異世界人は!今は説明してる時間はない!とにかくアレは避けろよ!いいな!」
ヒュージマウスタートルはウォーターカッターを乱れ撃って俺たちに息つく暇すら与えない。
「異世界人?貴様は・・・」
「ちっ、口が滑った。その話も後だ!また来るぞ!」
俺は二人で固まっているのは不利だと判断して、セツナを水面に下ろすと、カメの注意を引くために火炎弾を何発か打ち込んでから高度30メートル程まで上昇した。
この高さからなら重力加速度と合わせて、たとえガードされてもあの野郎の甲羅をぶち割れるはずだ。
「喰らえっ!!!」
俺は渾身の一撃をカメ野郎の脳天目がけて打ち込もうとしたが、ヒュージマウスタートルは素早く頭を引っ込め、俺の攻撃はやはり硬い甲羅に阻まれて、ダメージは与えられない。
「くそったれ!どういう硬度してんだ!?」
俺がしくじったのを見て、セツナはスピードを活かしてなんとか甲羅で守られていない部分を突こうとする。
「はっ!
セツナの攻撃は恐ろしく速く鋭かったが、敵もさるもの、こちらの狙いを読んでいたかのようなタイミングで甲羅に閉じこもり、完全防御態勢になったヒュージマウスタートルにはどんな攻撃も通用しなかった。
「ちっ、最強の盾かよ。打つ手なしか?」
俺は歯噛みして焦燥の念にかられる。それはセツナも同じようだった。
「くそっ!まともな足場さえあればっ・・・・!」
「足場?」
「分かりきったことを聞くな。水面に立てるとは言っても、そこに気力を割いていては全力は出せぬのが道理だ」
セツナの言葉を聞いて、俺は一か八かの大勝負を提案することにした。
「おい、全力出せれば、アレをぶち破れるか?」
「何だと?」
「答えろ!できるのか!?」
「無論だ!我が奥義なら奴の甲羅も砕いて余りある威力だ!」
「だったら準備しとけ!足場は俺が何とかする!!!」
セツナの返事を待たずに、俺は聖痕からありったけの魔力を引き出しつつ、水中に沈んでいく。
「おい!どうする気だ!?」
セツナは戸惑いつつも、他に手のない状況にあっては俺の策に乗ることを選択したようだった。
「ええい!こうなれば破れかぶれだ!はあああああああああ!!!」
セツナは全力の一撃を繰り出すべく、気を集中させていく。
俺は湖底にたどり着くと、両手を合わせ、練り上げた魔力を一気に解放した。
「ノノリエ様!危険です!お下がりください!」
遠くで固唾を呑んで様子を伺っていたオリヴィエがノノリエに
「あなた、意外と気が小さいのね。こうしないとよく見えないじゃない」
ノノリエは肝が据わっているのか単に危機感が足りないのか、観戦することに余念がない。
「ノノリエ様!!!」
「あら、あれは何かしら?湖の様子が・・・・?湖が・・・割れていく・・・!?」
ノノリエの言う通り、湖は俺がいた湖底からだんだんと真っ二つに割れ始め、その光景はモーセの伝説の一場面を思わせた。
「くっ、おおおおおおおおおお!!!!」
「何だこれは!?あの男がやっているのか!?」
セツナは信じられない状況に戸惑いながらも干上がった湖底の岩場に着地して、気を練り続ける。
「さあ、足場は作ったぞ!長くは持たねえ!急げ!!!」
ヒュージマウスタートルは異変に気付いたのか、一瞬だけ状況を確認しようと顔を出したが、異常事態を認識すると甲羅にこもったまま口から水を噴射して、その反動で水中に逃げようとした。
丁度そのとき、十分に気を高めたセツナが攻勢に転じる。
「逃すか!!!喰らえ!!!奥義・・・
そう叫ぶと、セツナは一発の人間爆裂徹甲弾と化し、ヒュージマウスタートルの超高硬度の甲羅目がけて飛んでいく。
「せぇえええええい!!!」
「!?ギエエエエエエエエエエ!!!」
そして、セツナの一撃は見事にヒュージマウスタートルの甲羅を打ち砕いた。
そのままの勢いでヒュージマウスタートルのどてっ腹に風穴を空けると、絶命した巨大なカメの上に立ち、セツナは俺の方を見て言った。
「まったく、無茶苦茶な奴め。だが、どうだ?やはり私の方が強いだろう?」
ザバァアアアン!
俺が魔力の放出をやめると湖は再び本来の姿を取り戻し始めた。
ほとんどすべてを出しつくた俺はぷかぷかと水面に浮かんでいるのがやっとだった。
「うるせえよ。こっちはもうすっからかんなんだ。きゃんきゃん吠えるな」
「どこまでも腹の立つ男だ」
そう言いながらも、その俺を担いで、セツナは水上を進んでノノリエたちの元へと向かった。
「おい、弟子!大丈夫か?まったく、無茶なのはいつものことだが、今回のはまた派手にやったものだな?」
「師匠も手伝ってくれりゃ、こんなにへとへとにならずに済んだんだがな。ま、足手まといがいちゃしょうがないわな」
「なんだと!?貴様、言うに事欠いて、姫様を足手まといだと!?やはり、この場で処断してくれようか!」
「やめなさい、セツナ。こんな生き物、殺す価値もないわよ」
戦いの興奮冷めやらぬ俺たちは、しばらくそんな風にがちゃがちゃと騒いだ。
やがて言葉が途切れてふっと訪れた静寂に俺の言葉が響く。
「セツナ、お前何者だ?お前からは魔力とはまた別の力を感じた。アレは何だ?」
それを聞いて、セツナとオリヴィエははっとした顔をする。
そして、無言で答えるのにためらっていた。
しかし、ノノリエだけはつまらなさそうな顔で何のこともない口調で言った。
「セツナは太古の昔、遥か東方に存在したと言われる伝説の黄金郷ザパルグの末裔の最後の生き残り。呪われた血を持つ金眼の拳士にして、気とかいう力の使い手なのよ」
「お前・・・呪われた血って・・・」
「気遣い無用。すべて本当のことだ。私は姫様に拾っていただいたから今ここにいる。だからこの命は姫様のもの。私は姫様のために生き、姫様のために死ぬのだ」
そう語るセツナはノノリエを心底大切そうな目で見ていた。
「まあ、そういう話なら深く詮索はしないけどよ・・・。ところであの魔物、ここにいるって分からなかったのか?あれだけデカいとなると相当昔から住み着いてたはずだが・・・」
俺が当然の疑問を投げかけると、師匠が答えて言う。
「いや、ここは比較的安全な地域だ。本来なら魔物はまず出ない。どこにでも湧く雑魚でもそうなのだから、ましてやあんな大物などいるはずはなかった・・・」
「・・・じゃあ、何で?」
俺の問いかけを受けてオリヴィエは思案し、だんだん深刻な表情に変わっていく。
「まだ、何とも言えないが・・・。何かが起きようとしている・・・ということかもしれん。このエルクトで、何かが・・・」
この時、俺たちはまだ気づいていなかった。この戦いが、これから始まる壮絶な争いの日々のほんの序章にすぎないということに・・・。
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