第13話 決着
それは御前試合の最中にひらめいた新しい感覚拡張の方法だった。
「どうなってんだ?アルベルト卿の動きが急に変わったぞ?」
「もしかして、今までは本気じゃなかったってことか?」
「いいぞー!もっとやれー!!!」
俺とヴェルナルドの苛烈な攻防を受けて、いささか白けていた会場の観客たちも再び沸き立っていた。
「男の価値は土壇場で見せる底力で決まるものだ。お前にはそれがあるようだな。しかし、これほど急激に進歩するとはな。やはり、魔法の力か?」
「ああ、ベラベラと説明する気はないが、まあそういうことだ」
「ふむ、しかも、まだ体にガタが来ている様子もない。これはグラン卿よりも聖痕を使いこなせるという話も真らしいな」
「俺には、最高の師匠がいるからな」
ヴェルナルドはチラッとオリヴィエの方を一瞥してから向き直り言った。
「なるほど、では今度は八割程本気でいくぞ」
「来い!」
ヴェルナルドは構え、俺も再び
まず、聖痕の膨大な魔力を解放し自分の全身を覆うように魔力を身にまとう。
その後、魔力を循環させ、流れを生み、全身にフィットさせるように放出する魔力の体積を絞っていく。
こうすることで、俺は身にまとった魔力の流れの変化によって、自分に触れる前の敵の動きを掴み、予測することを可能にした。
今や八割の本気を出したヴェルナルドの動きは、もはや目によって掴むことはほとんど不可能だ。
そんな化け物のような存在を相手にして、俺が立ち向かっていられるのは完全に
普通の人間には、瞬間移動を繰り返しているかのように見えるヴェルナルドの攻撃を俺はギリギリのところで受け流す。
疾風迅雷。
ヴェルナルドの動きはそう表現するのがふさわしい。
そんな神業をなんとか防御できるようになった俺だったが、反撃の糸口を見出すことができずにいた。
もう五分以上も切り結んでいるが、ヴェルナルドに疲労の色は全く見られない。
このままではいかに聖痕があると言えども、持久力の差でジリ貧になって負ける可能性が高い。
ヴェルナルドが放った正面からの上段切りを受け止めた俺は、つばぜり合いに移行し、時間を稼ぎつつ、なんとか打開策をひねり出そうと奮闘していた。
「よもや、ここまでついてこられるとはな。アルベルト卿、貴公、うちの隊に欲しくなってきたぞ!」
「そいつはどうも!」
俺は攻撃のわずかな切れ目に乗じて距離を取り、少しでも考える時間を稼ごうと逃げ回った。
逃げながら俺はこう思考する。
(これがもしゲームなら、こんなときどうする?)
(ゲームなら相手のモーションを分析して、硬直時間とかの隙を突いて、それに対応できるアクションを繰り出すところだが・・・)
(少しずつヴェルナルドの動きにも慣れてきたが、まだ一定のパターンや法則性を見出すことはできていない・・・)
「どうした!?逃げてばかりでは俺には勝てんぞ!」
単純な機動力というか小回りでは俺の方がヴェルナルドよりも上らしく、ヴェルナルドは一旦俺を追うのをやめた。
「ふむ、これ以上お前に時間を与えるのは危険だな。何を企んでいるかは知らんが、ここは決着を急ぐべきと見た!」
ヴェルナルドは上段に剣を構え、静止している。
これはまずい、明らかに何かをする気だ。
「悪いが、そろそろ終わらせてもらうぞ。俺の全力を見せてやる」
俺は逃げる足を止め、ヴェルナルドの攻撃を待ち構える。
どう考えても、この攻撃はまともに受けてはいけないだろう。
とすれば、なんとかして避けるしかない。どんな攻撃が来ても対応できるように
「さて、この攻撃、かわせるか?」
緊張し、張り詰めた空気を引き裂くようにヴェルナルドの剣が振り下ろされる。
「何!?」
未だ俺とヴェルナルドは十メートル以上離れたままでいる。
当然、振り下ろされた剣は空を切るだけで俺には全く届かない。
俺はそれを何らかの予備動作と判断し、防御の構えをしつつも、その場にとどまっていると、それは起こった。
「ぐっ!!!」
突然に防御する俺の剣に衝撃が走り、反射的に全力で踏ん張ったがこらえきれず、俺は見えない力に押されて5メートル以上地面を滑ってやっと静止した。
「これはっ、まさか衝撃波かっ!?」
続けざまにヴェルナルドは剣を振りぬく。
俺は体勢を崩されていて、ガードが間に合わない。
「ごふっ!!!!」
再び放たれた衝撃波をまともに喰らった俺はきりもみ回転しながら吹き飛ばされて空中に投げ出された。
吹き飛ばされた先には闘技場の壁がそびえている。
俺は意識もふき飛びかけ、為す術もなく飛ばされながら思った。
(終わった・・・)
―――その時、聖痕が激しく疼いた。
同時に、頭の中に声が響く。
『神を殺す・・・それまでは・・・』
「―――っ?」
すると、俺の身体はまるで何者かに操られるかのように動いて空中で身をひるがえし、気が付くと、壁に張り付くように横向きに着地していた。
「なんだと!?これでもまだ沈まぬとは・・・!?」
ヴェルナルドの本気の技とそれをしのいだ俺に対して観衆は沸き立ち歓声が上がる。
「うおおおおおお!!!」
「今のは一体・・・」
俺は状況が呑み込めず剣だけは構えつつも頭を押さえていた。
(・・・いや、今は考えてる余裕はない。だが、今の身体を操られる感覚・・・。これは、もしかしたら使えるかもしれない・・・)
「まさかな、この俺の技が破られるとはな。小僧と思って油断していたか・・・。悪いが、これはもう本当に加減はできん。騎士の矜持に賭けて、負けることはできない!これより先は死合いだ・・・。殺す気で来い!!!」
ヴェルナルドは殺気のこもった眼差しで俺を睨みつけ、また衝撃波の構えを取る。
(ぶっつけ本番だが、勝てるとしたら、もうこれしかない!)
そして、俺はヴェルナルドとまったく同じ構えを取った。
「同じ構えだと!?まさか、貴様・・・。いや、そんなことは不可能だ。せいっ!」
ヴェルナルドは剣を振り下ろし、同じタイミングで俺も同じ軌道で剣を振るう。
すると、見えない力と力がぶつかり合い、闘技場に旋風が巻き起こった。
「バカな!!俺の技を盗んだだと!!!」
「名付けて
「小賢しい!猿真似ごときに俺の技が負けるものか!!」
いささか頭に血が上ったヴェルナルドは衝撃波を連発してくる。
俺は、そんなヴェルナルドの動きを完全に模倣して同じように衝撃波を撃ち、相殺していく。
「てやああああ!!!」
「おらああああ!!!」
衝撃波の打ち合いでは埒が明かないと判断したらしいヴェルナルドは踏み込んで近接戦を仕掛けてきた。
俺は、それを真正面から迎え撃つ。
「このおおおお!!!」
ヴェルナルドは本気で俺を殺してでも勝つつもりだということが伝わってくるような鬼気迫る連撃を繰り出してくるが、俺は、ヴェルナルドが俺の攻撃を捌いていた時に見せたものと同じ型の動きでそれを撃ち落としていく。
「武術ってものには決められた型ってもんがある。あとはそれをどう組み合わせるかだ。たっぷり見せてもらったあんたの動きで俺はあんたを倒す!」
「ちょこざいなああああ!!!」
ヴェルナルドはもはや必死の形相で攻撃を続けているが、俺は逆に落ち着きを取り戻していく。
それは次第に切り合いにも表れていく。
互いの剣が激しくぶつかり合い、火花を散らす。
その様子を観衆は固唾を呑んで見守っていた。
三分以上にも渡って切り合いは続いた。
―――そして決着の時は訪れた。
「はあああああ!!!」
「ぐっ、しまった!!!」
何度もぶつかり合い、ダメージが蓄積したヴェルナルドの剣を、俺の剣が打ち砕いた。
砕かれたヴェルナルドの剣はほとんど柄しか残っておらず、もはや丸腰同然だ。
大きく息をついた後、ヴェルナルドは観念したように構えを解いて言った。
「ふっ、まさかこの俺がこんな初歩的なミスを犯すとはな。頭に血が上って剣にかかる負荷を失念していた」
「恥じることはないさ。あんたは間違いなく俺より強かった。ただ、俺は
「ちーたー?お前はいったい・・・?いや、そんなことは良い。俺にとっては戦いが全てだ。そして、勝負はついた」
「ヴェルナルド・・・」
「完敗だ。このヴェルナルド・クランバイン、潔く負けを認めよう!アルベルト、貴公の勝ちだ!!!」
ヴェルナルドの宣言を聞いて観衆たちは口々に叫んだ。
「アルベルト卿が勝ったぞ!!!新しい剣聖の誕生だ!!!」
闘技場が耳をつんざくような歓声に包まれる中、俺とヴェルナルドは固い握手を交わした。
ざわめきがある程度落ち着くのを待ってから審判が叫ぶ。
「勝負あり!勝者!!アルベルト・ゴーベルスタイン!!!」
「わああああああああああああああああああああああああああ!!!」
改めて鳴り響く熱狂的な歓声の中、俺は空を見上げながら、深い安堵に包まれていた。
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