おわりに

 1990年代生まれの私は、当時のインターネットについてよく知らなければ、幼いころから海外に住んでいたがゆえ、日本文学に触れることもなかなか少なかった。私は小学生のころにデジモンが流行し、また2ちゃんねるが流行したが、そうした光景を私は日本から遠く離れた海外から見ているだけだった。だからこそ、私はかつて自分が憧れたインターネットのありし日の姿を、すでに書かれたものたちとわずかな自身の記憶からたどるしかない。

 

 しかしながら、いやだからこそ、私は私の知らない時代をこうして文章にしながら、かつてあったはずの初音ミクとインターネットを筆記している。そうした試みは明らかに主観的であり、したがってこうして書き続けてきた私の評論を、ある種の小説的なものへと変身もさせてくれる。私が書いた歴史は無論のこと私のものでしかないが、そもそもあらゆる歴史が小説的でもあったはずだ。だからこそ、私は主体性など持っているはずもない初音ミクのことを「彼女」と称し、その「生涯」を記した。そうした数多くの歴史——あるいは小説——が数多くの人々によって描かれ、それらが集積されることによってはじめて、決して「弔う」だけでない、新しい彼女を作り出すこともできるのではないだろうか。彼女を活かすも殺すも、その選択肢を握っているのはほかならぬ私たちなのだから。

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