Twitter上で「外部」と遭遇することは可能か
本稿ではここまで2ちゃんねるが「コピペ」を通じてコミュニケーションを展開してきたこと、そして2000年代における情報社会のモバイル化を通し2ちゃんねる的文化が次第にTwitter上に移行していったことを示した。このような国内ネット文化における閉鎖的・アングラ的な性質はサービス提供開始から10年以上が経過した今日におけるTwitterでも変化はない。2020年8月に生じた「#TwitterとTikTok併合許すな」というハッシュタグをめぐる騒動で、国内のTwitterユーザーが自身を「陰キャ」であるゆえに「陽キャ」たるTikTokユーザーと相容れないという意見が出ていることはTwitter上で展開されたネット文化の特徴を考えるにおいて重要だ(31)。2ちゃんねるの「コピペ」と通したユーザーの連帯はそれ自体が無意味であるということを理解していなければならないという点で、強烈に外部を排除する。この閉鎖性は本稿初めに扱った黒瀬陽平が「球体」という概念によって批判されるべきものだろう。「コピペ」を通したコミュニケーションを交わすユーザーたちはその性質ゆえに、自ら他者との遭遇を拒絶する。この性質は2ちゃんねるの独自文化を形成してきた大きな要因ではある一方、黒瀬の表現を用いれば「私たちを多様性のないウェブに閉じ込めている(32)」ものだ。この問題はフォロー・フォロワーによってタイムラインが構成されるTwitterではより顕著だろう。
この問題に対し、ゼロ年代批評はどう応答したのだろうか。東と宇野はそれぞれ「観光客の哲学」と「遅いインターネット」という、異なる形で応答した。前者は観光客が誤配しながら観光をこなすように、連続した誤配が《帝国》の富と権力を再分配できるのではないかという主張を行った(33)。後者は加速度的に速くなった情報社会におけるコミュニケーションから意図的に抜け出した空間上で、時間をかけて問題を考える必要があるというものだ(34)。いずれも黒瀬の提起した「球体」的問題に対しての応答として考えられるが、ここでは別の議論を参照してみたい。
それにあたって、最後に芸術家・布施琳太郎の「アナグラムの唯物論」に注目し、その可能性を提示して終了したい。布施が提示した本概念は、芸術作品を一度解体することによって、そこに新しい経験を創成するというものだ。布施は議論の中でオーリア・ハーヴェイとミヒャエル・サミンがネット上で展開したHTMLによるラブレター《skininskinonskin》(1999)を紹介し(35)、ソースコードの次元で挿入された多層的コミュニケーションの可能性を指摘している(36)。作品はJavaスクリプトやFLASHを使用したウェブサイトであり、暗闇の中に人間の胸部が浮かび上がるグラフィックと左右反転で設置されたカーソル、そして録音されたハーヴェイの心臓音と呼吸音が聞こえるページである。画面中央で一致する二つのカーソルが中央で一致する本作品は空間的に隔てられた情報社会における2人の出会いを表現するだけでなく、Javaスクリプトの次元においても解体されたメッセージが本作品には隠されている。本作品に対し布施は「ただひとりのあなたにとっての聖なるものへと自分自身を変質させるために、それぞれのファイル形式に向けて自らの身体を解体しながら、それを恋する相手とウェブブラウザによって再構成するプロセス」と称した(37)。布施の議論はあくまでインターネットアートとして展開されたが、このようにメッセージを解体し、不特定多数の要素を通した再構築によって多層性を帯びさせることで、黒瀬が「偶然の出会い」と称した出会いとはまた異なる「出会い直し」ともいえる可能性を検討することはできないだろうか。そのような手法にこそ、「球体」に固執し続けた国内ネット文化における新たな想像の可能性があるのではないかという筆者の主張を述べたところで、本稿はひとまず終わりにしたい。
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(31)2018年に登場して以降世界的に人気を集めたソーシャルメディア「TikTok」の買収騒動は、米国が中国企業ByteDanceに対して不信感を持ったことを起点に発生し、その買収先としてTwitter社が名乗りを上げた(https://www.huffingtonpost.jp/entry/tiktok-twitter-billgates_jp_5f320987c5b64cc99fdd2873 最終閲覧日:2020年11月24日)。この流れにおいて、日本国内のTwitterユーザーがTikTokの買収に抗議する形で展開されたのが上記ハッシュタグである。その批判は規約上問題、政治的問題、著作権上の問題、そしてユーザー文化上の問題、の四つに分けられるが、中でも最後者の批判は国内ネット文化の特徴を顕著に表現していると考えられる。
(32)黒瀬,前掲書,88頁.
(33)東浩紀『ゲンロン0 観光客の哲学』ゲンロン,2016年.
(34)宇野常寛『遅いインターネット』幻冬舎,2020年.
(35)Entropy8Zuper!, skininskinonskin, “Net Art Anthrogy, ” RHIZOME https://anthology.rhizome.org/skinonskinonskin (最終閲覧日 2020年11月24日、なおEntropy8とZuper!はそれぞれサミンとハーヴェイのハンドルネームである).
(36)布施,前掲書,189頁.
(37)布施,前掲書,189頁.
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