情報社会のモバイル化に伴う国内ネット文化のTwitterへの移行

 先述のように、『アーキテクチャの生態系』は2007年に登場するiOSとandroid OSによる情報社会のモバイル化については触れていないが、その変化は国内ネット文化において大きな影響を与えていた2ちゃんねるにも及ぶ。なかでもモバイル向けOSがFLASHに対応しなかったことで「フラッシュ動画」と称される国内ネット文化の一翼を担ったコンテンツが衰退したことは注目すべきだろう。2ちゃんねるの「FLASH・動画板」を中心に展開されフラッシュ動画は2000年代前半においてはマスメディア上でも取り上げられたものの、2005年に登場する「YouTube」と2006年に登場する「ニコニコ動画」に次第に地位を奪われ(22)、2020年末にはPC上の全ブラウザでFLASHコンテンツが廃止されることで、全てのフラッシュ動画が視聴不可能になる(23)。


 そのようなモバイル化に伴う状況の変化と同時に、2ちゃんねる上では2000年代前半におけるメディア上での積極的な取り上げが問題になった。1999年に登場した2ちゃんねるは同年に発生した東芝クレーマー事件を機に注目され、登場後翌年には「TVタックル」などマスメディア上で犯罪のイメージ映像とともに登場している(24)。2001年には世田谷一家殺害事件と大教大付属池田小児童殺傷殺害事件が2ちゃんねると共に報道されたことや、2002年のタカラギコネコ商標騒動や日韓ワールドカップを通した嫌韓的書き込みなどが取り上げられることで、2ちゃんねるに対する反社会的イメージが普及していった。しかし2004年の『電車男』や2005年の『恋のマイヤヒ』を起点に、2ちゃんねるの想像力に企業が目をつけたことで、メディア上でも肯定的に評価する流れも生じてきた。だがそのような流れは2ちゃんねるの背景にあるアングラ的な国内ネット文化の文脈とは一致せず、情報社会のモバイル化が進行する2000年代中盤に登場したTwitterは2ちゃんねるユーザーの中でもアングラ的文脈を保持するユーザーにとっての新たなメディアとして受け入れられたと考える。『アーキテクチャの生態系』ではTwitterユーザーを「イノベーター層」であり、有意義なディスカッションのために使用されていると言われているが(25)、今日のTwitterが決してそうと断言できない理由はこの変化にあると考えている。


 では、なぜTwitterは2ちゃんねるの後継として注目されたのか。これについて、再度濱野の議論に立ち返り考えたい。彼はTwitterを「選択同期型コミュニケーションツール」と表現する(26)。タイムライン上で各々が自由に呟く「ツイート」に対しフォロワーが突発的にリアクションを起こすことによってコミュニケーションが発生するTwitterは、それ以前のメール等でのコミュニケーションにおける強制力を解消しうる手段として意義がある。しかし同時に、そのような選択同期型コミュニケーションがmixiなどの既存ソーシャルメディア上にも存在していたことも濱野は指摘する(27)。今日最も使用されるソーシャルメディアであるLINEと比較すれば(28)、匿名ゆえにユーザーが何者かを特定されず、かつ好みのタイミングで各掲示板に書き込みが可能な2ちゃんねるのコミュニケーションは、自ら好みのタイミングでコミュニケーションを行うことが可能な点で「選択同期」型だろう。


 もう一点、2ちゃんねるにおける「コピペ」を通した閉鎖性をもとに、Twitterとの類似性を考えたい。2ちゃんねる上では2002年に生じた日韓ワールドカップを機に、韓国の対応とメディアの報道に不満を持った一部ユーザーが一斉に嫌韓的な書き込みと反朝日新聞的な書き込みを行い、大きな話題となった。濱野はこの問題を北田暁大による「繋がりの社会性」概念を援用しながら(29)、2ちゃんねるユーザーによる他国排外的な言論活動も内輪ノリ的に消費することで、今日ではヘイトスピーチとされる主張さえもがコピペと同じ手法で消費されているという(30)。このような2ちゃんねるの保守性は1999年の創設時には目立って注目されなかったが、国内ネット文化として多くの人々に注目される中で政治的問題が浮上したことは奇しくも、2010年代にかけて次第に政治的メディアとなったTwitterと同様だ。Twitter上の保守系ツイートを行う一部ユーザーにはユーザー名やアイコン、プロフィール欄に日章旗のスタンプを使用していることが特徴としてみられるが、そのような自身のアイデンティティの掲示は、コピペによって自身が「2ちゃんねらー」であることを証明した2ちゃんねるユーザーと近いだろう。

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(22)「FLASH・動画板wiki」で、フラッシュ動画における人気の最盛期を2000年代前半の「のまネコ問題」前後に置くと同時に、2006年の「ニコニコ動画」の発表以降に衰退がはじまったことが指摘されている。https://w.atwiki.jp/flaita/pages/432.html (最終閲覧日:2020年11月10日).

(23)「Adobe Flash Player サポート終了情報ページ」 https://www.adobe.com/jp/products/flashplayer/end-of-life.html (最終閲覧日:2020年11月24日)

(24)2ちゃんねる監修『2ちゃんねる公式ガイド2006』コアマガジン,2006年.

(25)濱野,前掲書,215頁.

(26)濱野,前掲書,214頁.

(27)濱野,前掲書,215頁.

(28)注7参照.

(29)北田暁大『嗤う日本の「ナショナリズム」』NHK出版,2005年.

(30)濱野,前掲書,102頁.

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